抄録
発語失行(apraxia of speech:AOS)とは,発話(speech)障害の一形態であり,左中心前回およびその皮
質下,あるいは,被殻などの皮質下領域の損傷で出現する神経局在徴候である.AOS の症候は,①構音の歪み,②音
の連結障害,③アクセント・プロソディー(抑揚)の障害の3つの要素に整理できる.また症候の出方として,A.一
定しない(変動する),B.繰り返し等で増悪するという特徴がみられる.AOS の責任病巣については過去に,島であ
るとする説やブローカ野であるとする説があったが,今日では支持されていない.また,線条体や視床などの皮質下
の神経核のある領域の損傷でも,AOS が出現することに留意すべきである.
近年,変性疾患によるAOS が多々検討されている.例えば原発性進行性失語(PPA)は失語が初発かつ主症状で
ある神経変性疾患である.発語失行が主要な症状となる一群は非流暢/失文法型PPA(naPPA)と称される.なかで
も発語失行が唯一の症候となる一群は原発性進行性発語失行(PPAOS)と称され,個別の症候群として括られている.
naPPA に対しては介入によって症状の改善を目指せる可能性が示唆されており,発話・言語症状の進行を少しでも遅
らせ,よりよいQOL を保つ時間を長くすることの意義は大きい.
AOS に対して,大きく構音・運動学的アプローチ(Articulatory-Kinematic Approach)と速度・リズムアプロー
チ(Rate and/or Rhythm Approach)がある.AOS に対する言語リハビリテーションの効果を検討した大規模無作
為化比較試験はなく,どのアプローチが有効であるのか明らかでない部分があるが,個別の報告で有効性を示すデー
タが示されており,さらなる知見の蓄積が期待される.また,近年では経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)や反復経頭蓋
磁気刺激療法(rTMS)を用いる方法も注目され,発語失行が改善したという報告が増えており,今後の研究が期待
される.