応用生態工学
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原著論文
丘陵地の谷底における水田雑草群落の種組成の空間パターンに水流のつながりが与える影響
根本 真理星野 義延
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2007 年 10 巻 2 号 p. 163-174

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抄録

栃木県の丘陵地の谷間にある田越し潅漑がおこなわれている水田を対象に,水田雑草群落の種組成の空間パターンを明らかにすることを目的とした.連続して配置されている47枚の耕作水田において,主に類似性と距離の関係から種組成の空間パターンを記述し,水流のつながりが与える効果に注目して解析をおこなった.2002年の秋に,4m2のスタンドを用いて得られた種の有無を含む86の植生調査資料は,種組成によるクラスター解析の結果,水分状態の違いと対応する2つのクラスターに分類された.さらに下位区分した結果,同じサブクラスターに分類されるスタンドの属する水田は互いに近接していた.2003年秋の調査から得られた34の植生調査資料も,同様に2つのクラスターに分類され,クラスター間で土壌水分の値に有意な差があった.スタンド間の種組成の類似性とスタンドが位置する水田間の直線距離との間には,有意な負の相関関係が認められた.最下流に位置する水田と他の水田間との種組成の類似性と3タイプの距離(水平距離·斜距離·水の流れに沿った斜距離)との関係を検討した結果,いずれの距離を用いた場合も負の相関関係があったが,水の流れに沿った斜距離を用いた場合に決定係数の値が最も高くなった.隣り合う水田間の種組成の類似度は,短水路でつながっていると高くなった.水田間の短水路がある場合に,上方の水田にあると下方の水田にも出現する頻度が有意に高い種として6種が抽出された.本調査地における水田雑草群落の種組成に,正の空間自己相関があると考えられた.種子が水田間の短水路を通って散布されている可能性が示された.水の流れに沿った距離や,短水路による連結の有無が,種組成の空間パターンを説明する際に有効であったことから,水流のつながりに関する要因は,水田雑草群落の種組成の空間パターンに影響を与えると考えられた.

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© 2007 応用生態工学会
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