応用生態工学
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10 巻, 2 号
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原著論文
  • 関根 雅彦, 後藤 益滋, 伊藤 信行, 田中 浩二, 金尾 充浩, 井上 倫道
    2007 年 10 巻 2 号 p. 103-116
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    ゲンジボタルの周辺環境に対する生息場適性基準,ゲンジボタルとカワニナの流水環境に対する生息場適性基準を作成し,PHABSIMの手法を援用して,椹野川のゲンジボタルの生息適地を探索した.その結果,ゲンジボタル生息適地としては椹野川本川中流域の生息条件はあまり良好ではないことが明らかとなった.また,選定されたホタル水路建設予定地については,巨視的には良好な周辺環境であるとは言えないこと,微視的にはゲンジボタルの生息が可能な要素がほぼ揃っており,ゲンジボタル生息の可能性があることを指摘した.次に,PHABSIMを用いてホタル水路建設予定地の流水環境評価を行い,ホタル水路建設予定地は現況のままではゲンジボタルとカワニナの流水環境としては良好でないことを指摘し,水路のわずかな手直しによって比較的良好な流水環境が実現できることを示した.また適切な維持流量として0.06m3/secをあげ,河床へのシルト堆積や藻類繁茂が見られる場合には0.2m3/sec程度まで一時的に流量を高めればよいことを指摘した.さらに,竣工後のホタル幼虫の上陸調査により,PHABSIMにおいて生息場としての評価が高い区間で多くの幼虫上陸が見られることを示した.
  • 宮田 浩, 國本 昌宏, 井上 幹生
    2007 年 10 巻 2 号 p. 117-129
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    オオクチバスとブルーギルは全国各地に分布する外来魚であり,溜め池がそれらの主要な生息場所となっている.本研究では,溜め池につながる農業水路および河川における両種の分布および個体数変動を観測することにより,溜め池から水路を介した両種の自然分散の可能性について検討した.愛媛県松山市近郊の重信川流域において両種が生息する溜め池を6つ選び,それぞれの池につながる農業水路,およびそれらとつながる河川に21箇所の調査地を設定し,各調査地において,2002年の春から2003年の秋までの期間中,定期的に(冬を除いて基本的には毎月1回),両種の個体数密度を調査した.その結果,溜め池周辺の農業水路においては,どの調査地においても両種もしくはそのうちのどちらかの生息が確認され,魚類群集全体に占める両外来種の割合は41.9%に達した(調査期間中の,のべ推定個体数に基づく算出).両種ともに,夏季に溜め池の取水口直下の水路において非常に高密度(最大値,オオクチバス:8.0個体/m2;ブルーギル:12.1個体/m2)に達したが,その一方で,どの調査地においても生息が確認されない時期が多かった.つまり,水路での生息は一時的であった.また,これら水路で採捕された個体の多くは小型個体(尾叉長<10cm)であった.今回対象とした水路は全て,溜め池から河川に至るまでのほぼ全区間にわたって三面コンクリート水路(幅1∼2m)となっており,かつ,1つを除く全ての水路において魚類の遡上障壁となり得る鉛直落差が存在した.これらのことより,農業水路で確認された両種個体は,溜め池から流出したものと推測された.
  • 中嶋 崇志, 浅枝 隆, 藤野 毅, ナンダ アウン
    2007 年 10 巻 2 号 p. 131-139
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    森林を流れる2次河川,柳瀬川の270m区間を対象に落葉堆積分布量の調査と河川物理量の測定を行った.河川物理量は堆積落葉採取地点の水深と流速,瀬の礫の礫高,礫幅,礫間距離を測定した.結果を用いて落葉堆積量と河川物理量との相関を比較し落葉堆積機構に関する検証を行った.瀬における落葉堆積は礫による捕捉効果とそれらの配置が重要であった.淵の落葉堆積は高流量時に瀬に堆積した落葉が再輸送され,十分のスペースがある淵に定着することによって起こると考えられた.蛇行点における落葉堆積は,そこで発生する2次流によって蛇行点の外側から内側へ輸送され,河床へ定着すると考えられた.倒木による落葉堆積は,倒木によって形成されるダムの数が重要で,それらには地域性がある.
  • —渡良瀬貯水池を例にして—
    佐藤 宏明, 天野 正秋
    2007 年 10 巻 2 号 p. 141-154
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    本研究は,関東平野に位置する渡良瀬貯水池において,水位低下·干し上げによる2-MIBへの影響について検討した.初めて干し上げを行った1997年は,2-MIBの最大値が100ng/l未満となり,同様の効果を期待して2004年と2005年にも干し上げを実施し,2004年は2-MIB発生時期が7月上旬まで遅れる状況が観測され,2005年は年間を通じて2-MIBの抑制が確認された.また,護岸部付着藻類調査結果より護岸部のPhormidium sp.の死滅を確認し,本研究結果と既往文献からの知見を踏まえると,干し上げがPhormidium sp.を含めた藍藻類に対して大きな影響を及ぼす可能性が高いと考えられる.貯水池運用に係わる諸量と2-MIBの関係を整理した結果,1月∼3月の平均貯水位の低下,もしくは干し上げ面積と干し上げ日数の積の増加により,2-MIBが20ng/l以上に到達するのに要した日数の増加とピーク値が低下する傾向が得られた.また,渡良瀬貯水池の特性として,8月以後では,Phormidium sp.が105∼106細胞数/ml程度まで上昇しても2-MIB濃度は100ng/l未満となる傾向がある.この現象についてはPhormidium sp.のタイプの変化として2-MIBを生産する緑株から2-MIBを生産しない茶株への変化もしくは緑株自体が2-MIBを生産しない株に変化した可能性がある.これより,渡良瀬貯水池では池底まで干し上げることにより2-MIBが20ng/l以上に到達するのに要した日数が増加し,さらにピーク時期が8月以後に達することで,年間を通じて2-MIB濃度が100ng/l未満に抑制されたと推測する.本研究結果より,水位低下·干し上げ操作による2-MIBに対する抑制効果が示唆された.
  • 福嶋 悟, 皆川 朋子
    2007 年 10 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    人工水路に設置した基質に生育した珪藻類のMelosira variansが優占する付着藻類群集を水路の外に移動し,大気暴露がクロロフィルaとして測定された現存量に及ぼす影響について検討した.晴天下で5時間大気暴露した群集と,24時間あるいは48時間大気暴露した群集の現存量の最大減少率に相違はなく,5時間の大気暴露でも藻類は明瞭に減少した.晴天下で5時間大気に暴露した群集の現存量は,水路に戻してから7日間の実験期間を通して大気暴露前に比べて少ない状態が維持された.それに対して,河床材料が移動しない規模のフラッシュ放流を受けた群集では3日後の現存量は減少したが,7日後にはフラッシュ放流前より多くなった.大気暴露後の藻類現存量コントロールの効果が長く持続したのは,大気暴露により乾燥して基質に固着した生物膜が,水中で徐々に剥離するためであることが無機物量の変化から明らかにされた.曇天下で5時間大気に暴露した群集では,暴露前と暴露後の7日間を通して現存量の変化はほとんどなかった.晴天下と雲天下における藻類現存量の変化の相違から,大気暴露時の天候により現存量コントロールの効果が明瞭に異なることが示された.
  • 根本 真理, 星野 義延
    2007 年 10 巻 2 号 p. 163-174
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    栃木県の丘陵地の谷間にある田越し潅漑がおこなわれている水田を対象に,水田雑草群落の種組成の空間パターンを明らかにすることを目的とした.連続して配置されている47枚の耕作水田において,主に類似性と距離の関係から種組成の空間パターンを記述し,水流のつながりが与える効果に注目して解析をおこなった.2002年の秋に,4m2のスタンドを用いて得られた種の有無を含む86の植生調査資料は,種組成によるクラスター解析の結果,水分状態の違いと対応する2つのクラスターに分類された.さらに下位区分した結果,同じサブクラスターに分類されるスタンドの属する水田は互いに近接していた.2003年秋の調査から得られた34の植生調査資料も,同様に2つのクラスターに分類され,クラスター間で土壌水分の値に有意な差があった.スタンド間の種組成の類似性とスタンドが位置する水田間の直線距離との間には,有意な負の相関関係が認められた.最下流に位置する水田と他の水田間との種組成の類似性と3タイプの距離(水平距離·斜距離·水の流れに沿った斜距離)との関係を検討した結果,いずれの距離を用いた場合も負の相関関係があったが,水の流れに沿った斜距離を用いた場合に決定係数の値が最も高くなった.隣り合う水田間の種組成の類似度は,短水路でつながっていると高くなった.水田間の短水路がある場合に,上方の水田にあると下方の水田にも出現する頻度が有意に高い種として6種が抽出された.本調査地における水田雑草群落の種組成に,正の空間自己相関があると考えられた.種子が水田間の短水路を通って散布されている可能性が示された.水の流れに沿った距離や,短水路による連結の有無が,種組成の空間パターンを説明する際に有効であったことから,水流のつながりに関する要因は,水田雑草群落の種組成の空間パターンに影響を与えると考えられた.
  • 松井 正文, 富永 篤
    2007 年 10 巻 2 号 p. 175-184
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    三重県伊賀市の前深瀬川水系,前深瀬川と川上川にはオオサンショウウオが生息している.しかし,この2河川の合流部にはダムの建設が予定されている.このために水系内の地域個体群間で分断,小集団化が生じた場合,遺伝的多様性が減少し絶滅に至る可能性がある.そこで,水系内のオオサンショウウオの核DNAに見られる遺伝的多様性の現状を把握するため,AFLP法を用いて調査した.その結果,この方法が近縁種やミトコンドリアDNAで区別される個体群との相違の検出に有効であることが分かった.しかし,この方法では前深瀬川水系内部と,その近傍の河川に生息する個体間で特定の遺伝的集団のまとまりを検出することができなかった.今回の結果から,この水系内に生息するオオサンショウウオの遺伝的構成は特定の地域集団ごとに決まっていない一方で,地域集団間で絶えず交流が保たれているのでもなく,出水による流下や,人為的な移動を含む極めて複雑なものと考えられたが,今後,より解明度の高い手法を用いた検討が必要である.
  • 森 貴久, 川西 誠一, Navjot S. SODHI, 山岸 哲
    2007 年 10 巻 2 号 p. 185-190
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    ダム湖はカモ類の越冬地として利用される水域であるが, 実際にダム湖を利用しているカモ類はマガモやカルガモなど休息に利用するカモ類がほとんどで, ホシハジロのような底採餌を行なうカモ類はあまり利用していない. これは, 一般的にダム湖には底採餌を行なうカモに適当な浅い水域が少ないことによると考えられている. そのなかで東北地方にはホシハジロが多数集まるダム湖が数ヵ所存在する. これらのダム湖は河成段丘に建造されていて, 浅い水域を広く提供できる. ダム湖におけるホシハジロの個体数が浅い水域の面積の関係について, 東北地方の9ヵ所のダム湖を対象に検証した. ホシハジロの個体数密度はダム湖の浅い (水深5m以下) 水域の面積と正の相関を示した. また, 個体数密度の年度間の変動は, 浅い水域の面積の変動と正の相関を示した. マガモ, カルガモ, コガモの個体数密度についてはこのような相関はみられなかった. さらに, 湯田ダムでは, 貯水位が低く段丘が露出している年にはホシハジロの個体数密度が激減した. これらのことは, ホシハジロの個体数密度を決定する要因としてダム湖のもつ浅い領域の面積が重要であること, 個体数密度と浅い領域の面積が関係する理由としてカモの採餌形態が関係していること, を示している.
事例研究
  • 赤松 史一, 島野 光司, 戸田 任重, 沖野 外輝夫
    2007 年 10 巻 2 号 p. 191-198
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    本研究では, 千曲川河畔域の比高の異なる氾濫原環境に分布する植物が, 河川水との関わりを有しているのかどうかを窒素動態に着目し, 安定同位体比を用いて解析した. 氾濫原の低位面の植物のδ15Nは, 河川表流水のδ15Nと同様に流程に沿って上昇しており, 植物が河川水由来の窒素を利用していたことを示唆した. 一方で, 河岸から離れるほど, 植物のδ15Nは低下しており, 種を問わず, 高位面の植物が依存している窒素源が河川水とは異なることが明らかになった. 高位面では, ハリエンジュが樹林化しており, ハリエンジュが無いところと比べて有意に比高が高かった. 高位面の土壌は, 低位面に比べて42倍もの硝酸態窒素が存在しており, ハリエンジュによる土壌への窒素負荷が起きている可能性がある. 高位面は, 堆積や水理などの物理環境だけでなく, 植物の窒素利用においても, 低位面とは異なっており, 窒素動態という観点からも特異な系を構成していることが明らかになった. 洪水によって特徴付けられる河川生態系において, 河道内で長期に渡って安定的に存在しているハリエンジュ林は極めて異質な存在である. 河川環境のあり方に未だ定見はないが, ハリエンジュ林拡大の要因となっている, 河道掘削や河床低下に伴う流路の固定化など, 河川管理について, 河川環境の多様性の維持, 物質循環の観点からも検討していく必要があるだろう.
総説
  • 天野 邦彦
    2007 年 10 巻 2 号 p. 199-208
    発行日: 2007年
    公開日: 2008/08/14
    ジャーナル フリー
    湖沼·貯水池の環境評価モデルとして, 主に1970年代より本格化してきた湖沼·貯水池水質·生態系モデルの変遷について振り返り, これらモデルが, 貯水池の流入水温と放流水温との変化の緩和, 濁水放流の長期化の緩和対策策定のためや湖沼·貯水池における富栄養化対策策定のために開発されてきた経緯について記した. 実際の施策の基礎資料として利用される実用化モデルという特性から, 計算対象期間は短くても一年間程度となるため, 開発時点での電子計算機の処理能力にモデル構造の精粗が規定されてきたと考えられる. 低次生態系を対象とした水質·生態系モデルについては, 初期のものから現在のものまで, 基本的なモデル構造には大きな変化はないものの, より分画が詳細になると共に, 元素の動態を分画した形態ごと個別に定量的に表現するモデルへと発展してきていることを記した. このようなモデルの発展により, より定量的に正確を期した評価が可能となる一方, 詳細なモデルの威力を十分発揮させるために, 同定が必要なパラメータ数増大への対応や流入負荷の算定など計算入力条件の精度向上といった点が実用モデルの利用において重要な課題となっていることを記した. また, モデル構造にも関わる課題として, 環境条件が大きく変化するような場合の予測を行うためのモデル開発, 底泥の役割を動的に解析するモデル開発, 生物生息場の環境評価を行うモデル開発を挙げた. 下水道整備などによる流入水質改善事業については, まだ完全ではないものの相当の進展がなされて来ている. このため今後の湖沼·貯水池の環境管理における生態モデルの利用は, 水質改善が進行する中での環境変化を予測したり, 生物生息場としての湖沼·貯水池管理を適切に行うための手法策定に用いられることが増加すると考えられる. このような方向性の中で, 課題を指摘すると共に, 試みられている事例について述べた.
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