応用生態工学
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事例研究
栃木県南東部の自然生息地におけるミヤコタナゴ保全への取り組み
— ミヤコタナゴ稚魚の生息環境評価と環境改善
綱川 孝俊酒井 忠幸吉田 豊久保田 仁志佐川 志朗
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2012 年 15 巻 2 号 p. 249-255

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抄録
国の天然記念物ミヤコタナゴの自然生息地において,ミヤコタナゴ稚魚の生息環境を調査した.生息環境条件を明らかにするために,一般化線形混合モデル (GLMM) を用いたモデル選択を行った結果,流速,水中カバーの有無,二枚貝に産み付けられていたミヤコタナゴの卵数の 3 つの説明変数を含むモデルがベストモデルとして選択された.流速は負の,水中カバーおよび卵数は正の回帰係数を示したことから,稚魚は流速が遅く,水中カバーがあり,卵数の多いところに生息していると考えられた.このモデルに基づいて生息地における稚魚の生息確率を予測したところ,水路上流部で生息確率が低いことが明らかとなった.そこで,上流部で稚魚の個体数増大を図るため,稚魚の生息環境条件に基づいて,水路底の掘削,杭の設置,二枚貝の放流による環境改善を実施した.環境改善の効果を検証するため稚魚の定位状況を調査したところ,稚魚観察数の合計は環境改善を行った調査区で 99 個体,環境改善を行わなかった調査区で 41 個体であった.稚魚数の約 71 %が環境改善区で確認されたことから,本研究で実施した環境改善によって,ミヤコタナゴ稚魚にとって生息可能な環境を増加させることができたものと考えられる.環境改善区で観察された稚魚が,その後も上流部で定着・繁殖することで,生息地全体の個体数の増大につながることが期待される.本研究で実施した生息環境条件の解析と構築されたモデルは,他のミヤコタナゴ生息地における生息環境の維持・復元を図る際にも,活用することが可能であろう.
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© 2012 応用生態工学会
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