2016 年 19 巻 1 号 p. 67-78
本研究では,全国の道路建設事業を対象に,これまでに実施された希少猛禽類に対する人工代替巣による保全事例を網羅的に収集し,人工代替巣の設置状況,設置後の利用状況,人工代替巣の設置タイプ,効果的な配置,利用されるまでの期間,設置後の管理手法について事例を基に分析し,効果的な人工代替巣の設置法について考察した.その結果,全国 31 事業 173 箇所の人工代替巣設置事例が抽出され,猛禽類 8 種が対象になっており,オオタカ,ノスリ,ハヤブサは,人工代替巣を利用して巣立ちまで至った事例が確認された.クマタカ,ミサゴでは繁殖利用はあるものの,巣立ち例は確認されていなかった.サシバ,オジロワシ,ハチクマでは,人工代替巣の利用は確認されなかった.人工代替巣の設置方法は,材質の違い(天然素材,非天然素材),架巣形態の違い樹冠(樹木の幹や大枝),樹頂(樹木の頂上部),その他(崖,鉄塔等))から 6 タイプに分類できた.設置後の繁殖に利用される割合(利用率)は,特に天然素材の古巣を移設した場合に,最も高かった.古巣と人工代替巣の離隔距離と繁殖利用率を整理した結果,設置事例の多いオオタカでは,特に古巣から 250 m 以内で利用率が高く,古巣から 1,500 m 以上の離隔を取っている場合には,他の繁殖ペアの営巣例が確認された.また,人工代替巣の設置から初回の繁殖利用までに複数年を要する事例が多いこと,人工代替巣設置後の管理が繁殖成功率を高めていることが示唆された.これらのことから,人工代替巣を効果的に設置し,利用を促進するためには,1)古巣を移設する,2)周辺の環境条件を考慮した上で,古巣の近くに代替巣を設置する,3)代替巣の設置から利用開始まで複数年かかることから早めに代替巣を設置し,順応的管理を行いながら繁殖利用を待つ手法が有効と考えられた.これらの結果が,今後の人工代替巣の技術開発と,猛禽類や自然環境の保全につながることを期待する.