応用生態工学
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19 巻, 1 号
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原著論文
  • 米澤 孝康, 齋藤 稔, 山城 考, 浜野 龍夫, 中田 和義
    2016 年 19 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,日本の河川に生息し,食用となっているモクズガニ Eriocheir japonica の日中の好適な隠れ家について野外実験により検討した.河川内に農業用ネットで囲った実験ケージを設営し,その中に 8 種類の河床材料と状態(浮き石状態の巨礫,沈み石状態の巨礫,浮き石状態の大礫,沈み石状態の大礫,中礫,砂,細い枯れ枝を含む落ち葉,沈木)を各 2 区画(1 区画 1 m2)の計 16 区画用意し,その中にモクズガニの成体 69 個体を放流して,翌日以降,日中に 1 日 1 回,12 日間連続して居場所の観察を行った.その結果,本種は日中,浮き石状態の巨礫の下に隠れることが多く(延べ観察個体数全 344 個体の 61.0%),次いで沈木(同 21.2%),浮き石状態の大礫(同 12.8%)の区画を高頻度で利用していた.また,実験個体の甲幅と,隠れていた隙間の入り口の横幅,高さ,奥行きの間には,全てにおいて有意な正の順位相関関係が認められ(横幅:τ=0.232,高さ:τ=0.155,奥行き:τ=0.091),本種が好む隠れ家サイズは体サイズに応じて変化すると考えられた.

  • 田和 康太, 佐川 志朗, 三橋 陽子
    2016 年 19 巻 1 号 p. 13-20
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    兵庫県但馬地域では,2005 年からコウノトリの再導入が進められている.しかし,再導入された野外個体群の食性に関する詳細な情報は得られていない.また,但馬地域周辺に生息する野外個体群の大半が人工給餌に依存しているのが現状である.本研究では,コウノトリの飼育個体群と野外個体群において,炭素・窒素安定同位体比を分析し,各個体群の食性を推定した.その結果に基づき,人工給餌が野外個体群に与える影響について検討した.

    炭素・窒素安定同位体比は,野外個体群に比べて飼育個体群において高く,両個体群間の栄養段階には大きな違いがあると推察された.また,野外個体の中でも給餌依存個体群の炭素・窒素安定同位体比が自立採餌個体群に比べて高くなる傾向があった.このことから,マアジなどの人工給餌によって与えられる栄養段階の高い魚類への依存度が,コウノトリ各個体群の栄養段階の違いに反映されているものと考えられた.

    以上より,人工給餌の影響によって,野外個体群の食性が本来示すものと乖離している可能性があるため,今後は野生絶滅前個体群と現在の再導入個体群とで食性を解析するなどの,更に詳細な検討が必要である.

  • 石間 妙子, 村上 比奈子, 高橋 能彦, 岩本 嗣, 高野瀬 洋一郎, 関島 恒夫
    2016 年 19 巻 1 号 p. 21-35
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    近年,水田生態系の保全を目的とした環境保全型農業が全国各地で行われており,その有効性が数多く報告されている.しかしこのような農法は,慣行農法に比べて作業コストや技術習得のための時間がかかるため,取り組みの規模が限られている.水田生態系の改善を広く実施するためには,全国の水田の 6 割以上を占める圃場整備済み水田においても導入可能であり,かつ現状の農法と用水供給体制のままで,低コストで導入できる保全手法を確立する必要がある.そこでわれわれは,“江(え)”とよばれる圃場の一部に併設された土水路状の構造物に着目した.江は 1 年を通して湛水状態が保たれ,水生動物の保全に一定の効果があると報告されているが,圃場整備済みの水田における有効性や創出手法はわかっていない.そこで本研究では,暗渠排水が導入された圃場整備済み水田における江の創出手法を確立するため,後述する 2 つの手法が,通年湛水および魚類群集に与える効果を検証した.1 つ目に,江の水抜け防止対策として防水シートを設置した江と未設置の江を創出し,2 つの江の間で水深を比較したところ,明瞭な水位差は見られず,どちらの江も 1 年を通して湛水状態を維持できることがわかった.また,魚類の種数,種多様度,総個体数,および種別個体数に関しても,2 つの江の間で有意差は認めらなかったことから,江における防水シートの設置効果は低いことが明らかとなった.2 つ目に,江の普及に対しては,江の創出による農地の転用面積が少ない方が有利と考えられるため,サイズの異なる江を 3 タイプ創出し,サイズによる効果の違いを検証した.3 タイプの江において水深,魚類の種数,多様度,総個体数,魚種別の個体数を比較したが,いずれの項目もサイズによる有意な差異は認められず,小サイズの江であっても魚類の生息環境として機能することが明らかとなった.これらの結果から,圃場整備済み水田における江の創出は,防水シートの設置状況や江のサイズに関わらず,魚類保全に有効であることが示唆された.

事例研究
  • 冨岡 繁則, 北方 真理子, 長岐 孝司, 沖津 二朗, 浅見 和弘, 西條 一彦
    2016 年 19 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    北上川ダム統合管理事務所が管理する四十四田ダム,御所ダムおよび田瀬ダムで,1992 年から行っている計5 回の河川水辺の国勢調査に加え,2010-2014 年に電気ショッカー船による魚類調査を行った.

    田瀬ダムでは国勢調査と電気ショッカー船調査をほぼ同時期に行い,調査手法による結果の違いを比較することができた.ハスなどの優占種は双方の調査で確認できたが,電気ショッカー船では小型魚類が確認しづらく,モツゴ,ヨシノボリ類等を確認できなかった.一方,国勢調査で確認できなかったニホンウナギ,コイ,オオクチバス等の中~大型の魚類は,電気ショッカー船による調査では確認された.オオクチバスは,繁殖期に湖岸部の浅い場所に生息すること,電気ショッカー船では広域の調査が容易であることから,オオクチバスの生息状況の把握には電気ショッカー船が適していると考えられた.

    3 ダムでオオクチバスの生息状況を比較すると,四十四田ダムで最も多く,次いで御所ダムであり,田瀬ダムでは少なかった.これは,繁殖期における貯水位の安定性と関係があり,四十四田ダムでは繁殖期に貯水位が安定しているが,御所ダムではドローダウンによる貯水位低下が早期に起こるため産卵床の干上がりが起こり,田瀬ダムでは年による貯水位変動のばらつきが大きいため継続的な再生産が難しいためと考えられた.

  • 丹羽 英之
    2016 年 19 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    深泥池湿原で UAV を用いて 9 回撮影した画像からオルソ画像を作成した.水平方向の位置精度を検証するための地物を 4 箇所選定し,撮影回ごとの地物の位置のずれを集計し,位置取得方法の異なる 3 つの処理方法を比較した.地図から取得した GCP を用いる方が GNSS から取得した GeoTag を用いるより,水平方向の位置精度が高く,両者を併用すると最も位置精度が高くなることがわかった.最も位置精度が高かった併用する方法では,ポイント間距離の平均値は 0.46 m であり,草本植物を主体とする湿地植生の経時変化を把握するために用いることができる位置精度だと考えられる.しかし,最も位置精度が低かった GeoTag を用いる方法では,ポイント間距離の平均値は 1.83 m であり,湿地植生の微細な変化を捉えるには,誤差が大きいと考えられる.一方,地図から GCP を取得する方法では,地図の準備や GCP の設定に作業時間を要するが,GeoTag を用いる方法では,位置情報を取得するために別途作業は必要ない.UAV の大きな利点である空撮の手軽さを活かすのであれば,GeoTag を用いる方法が優れている.そのため,明らかにしようとしている事象に見合った方法を選択することが重要である.

  • 片桐 浩司, 池田 茂, 大石 哲也, 萱場 祐一
    2016 年 19 巻 1 号 p. 55-65
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    河道内氾濫原の沈水植物群落を対象に,分布状況の変遷を把握し,成立条件について地形変化や環境因子との対応から明らかにした.揖斐川の 31~50 km の区間を対象とし,まず,河川水辺の国勢調査の植生図から, 1997 年,2002 年,2007 年,2012 年の沈水植物群落の分布位置と面積を集計した.さらに,2015 年に 19 箇所のたまり,7 箇所のワンドを対象に現地調査を行い,植生と環境因子を調査し,各水域の成立年代と地形変化を把握した.植生図を用いた解析から,在来の沈水植物群落は最近 15 年間で大幅に減少し,外来種の群落へと遷移したことが示された.現地調査結果から,無植生の氾濫原水域は成立年代が古く,地形が堆積傾向にあった.土砂供給によって埋土種子や植物体が埋没した可能性がある.一方,植生がみられた水域は,成立年代が新しく,地形が侵食傾向にあった.オオカナダモなど外来種群落の多くはワンドに成立し,流速,透視度が高かった.本川には大量の外来種の切れ藻が流下しており,本川と常時接続しているワンドでは,切れ藻が供給される機会が多かったと考えられる.孤立し嫌気的な環境となったたまりにも外来種が優占した.一方,在来種が優占したたまりは泥厚や EC が低く,伏流した流路の水や湧水の流入による小規模な撹乱を受けることで維持されていると考えられた.外来種の多い河川において氾濫原植生の再生を目的にワンドを創出した場合,外来種群落が成立する可能性がある.また在来の沈水植物群落再生にたまりは有効であるが,増水時に冠水しない条件下では堆積と嫌気課程が容易に進行するため,個体群を長期間維持することは困難であると考えられる.

短報
  • 長谷川 啓一, 上野 裕介, 大城 温, 井上 隆司
    2016 年 19 巻 1 号 p. 67-78
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,全国の道路建設事業を対象に,これまでに実施された希少猛禽類に対する人工代替巣による保全事例を網羅的に収集し,人工代替巣の設置状況,設置後の利用状況,人工代替巣の設置タイプ,効果的な配置,利用されるまでの期間,設置後の管理手法について事例を基に分析し,効果的な人工代替巣の設置法について考察した.その結果,全国 31 事業 173 箇所の人工代替巣設置事例が抽出され,猛禽類 8 種が対象になっており,オオタカ,ノスリ,ハヤブサは,人工代替巣を利用して巣立ちまで至った事例が確認された.クマタカ,ミサゴでは繁殖利用はあるものの,巣立ち例は確認されていなかった.サシバ,オジロワシ,ハチクマでは,人工代替巣の利用は確認されなかった.人工代替巣の設置方法は,材質の違い(天然素材,非天然素材),架巣形態の違い樹冠(樹木の幹や大枝),樹頂(樹木の頂上部),その他(崖,鉄塔等))から 6 タイプに分類できた.設置後の繁殖に利用される割合(利用率)は,特に天然素材の古巣を移設した場合に,最も高かった.古巣と人工代替巣の離隔距離と繁殖利用率を整理した結果,設置事例の多いオオタカでは,特に古巣から 250 m 以内で利用率が高く,古巣から 1,500 m 以上の離隔を取っている場合には,他の繁殖ペアの営巣例が確認された.また,人工代替巣の設置から初回の繁殖利用までに複数年を要する事例が多いこと,人工代替巣設置後の管理が繁殖成功率を高めていることが示唆された.これらのことから,人工代替巣を効果的に設置し,利用を促進するためには,1)古巣を移設する,2)周辺の環境条件を考慮した上で,古巣の近くに代替巣を設置する,3)代替巣の設置から利用開始まで複数年かかることから早めに代替巣を設置し,順応的管理を行いながら繁殖利用を待つ手法が有効と考えられた.これらの結果が,今後の人工代替巣の技術開発と,猛禽類や自然環境の保全につながることを期待する.

  • 長谷川 啓一, 上野 裕介, 大城 温, 神田 真由美, 井上 隆司, 西廣 淳
    2016 年 19 巻 1 号 p. 79-90
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,移植による保全の難易度が高いと考えられる種(移植困難種)について,全国 179 の道路事業の移植事例の整理・分析を通じて,移植困難種の保全に関する現状と,移植後のモニタリング結果から生活型別の活着状況を整理した.また,工夫をこらした効果的な移植方法や移植後のモニタリング手法を抽出し,整理した.

    その結果,移植対象となっていた移植困難種は,8 科 26 種であり,樹幹に着生している種が 4 種,岩場に着生している種が 6 種,混合栄養植物が 9 種,菌従属栄養植物が 7 種であった.移植後の活着状況は,岩場に着生している種はいずれも良好であったが,樹幹に着生している植物と混合栄養植物では,活着率がほぼ 100%を維持している種と,ほとんど確認されなくなる種に 2 分される傾向が見られた.菌従属栄養植物では,地上部が発生しない年があるために正確な生存率を評価することができなかったが,1 ~ 2 割の事例で移植後に地上部の花茎が確認された.移植後の活着率を高める工夫として,樹幹に着生している種では,移植個体が着生していた元の樹皮や枝ごと移植する手法が,岩場に着生している種では,ヘゴ棒を基盤とすることで着生を促し,植生ネットを用いて脱落を防ぐ手法がとられていた.菌根菌との共生関係にある混合栄養植物や菌従属栄養植物では,土壌ごと移植する手法やコナラ等の樹木の根元へ移植する手法などがとられていた.今後は,移植困難種の株移植についての知見蓄積・技術向上とともに,株移植に依らない種子などの散布体を用いた保全・移植技術や,持続的な地域個体群の保全手法の研究・確立が重要と考えられた.

  • 上野 裕介
    2016 年 19 巻 1 号 p. 91-100
    発行日: 2016/07/28
    公開日: 2016/09/05
    ジャーナル フリー

    近年の急速な小型 UAV の進歩と普及は,実務や研究の現場を変えつつある.そこで本報文では,実務や研究の現場で画像解析の専門家以外が使用する場面を想定し,UAV を活用した空撮や測量分野の最新技術について,出来るだけ簡便な方法で,どの程度の精度に到達できるかどうかを検証するとともに,利用上の課題について考察した.具体例として,河川環境分野での活用を想定し,野外に設置した五ヶ瀬川水系の 1/70 河川模型(模型幅:約 10 m,流路長:約 95 m)を対象に 2 段階の地上高度(10 m と 50 m)で撮影を行い,空撮画像による河川形状把握と Structure from Motion (SfM)技術を用いた 3 次元計測の結果を速報する. まず解析作業では,高度 10 m と 50 m のそれぞれ高度で撮影した空撮画像(10 m:126 枚,50 m:24 枚)を用い,SfM により地表面データ(DSM)とオルソ画像を作成した.これらの解析には,Photoscan Pro を用いた.次に精度検証では,河川模型の 4 か所の横断面について,DSM から作成した予測横断図と実際の横断図を比較した. その結果,1)DSM の予測横断図は,模型河川の設置場所の標高は誤っていたものの,模型河川の形状はよくとらえていた.2)精度検証に使用した 4 か所の横断面のうち,特に 9.6 KP と 10.2 KP,11.0 KP では,予測横断図と実測横断図の間の誤差は,撮影高度 10 m では鉛直方向に概ね 5 cm 内,撮影高度 50 m でも 9 cm 内に収まっていた.一方で,撮影範囲の上流端に近い 11.6 KP では,誤差は最大 10~20 cm 超に及んでいた.したがって未だ技術的に検証すべき課題はあるものの,UAV による空撮と SfM 技術を組み合わせることで,従来は困難であった広域での環境計測が容易になることが示された.

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