応用生態工学
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原著論文
砂浜生態系における栄養基盤としての海起源と陸起源有機物の相対的重要性
塩澤 直人柚原 剛由水 千景冨樫 博幸陀安 一郎占部 城太郎
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2023 年 25 巻 2 号 p. 115-128

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抄録

砂浜海岸では,海藻や海洋生物遺骸などの有機物が漂着供給され,一方,陸からは海浜植物群落や沿岸林から有機物がもたらされる.したがって,砂浜海岸に生息する甲殻類・昆虫類などの節足動物は,海起源有機物と陸起源有機物の双方を直接あるいは間接的に餌資源として利用していると考えられるが,各有機物への寄与率は良くわかっていない.そこで,砂浜海岸に生息する節足動物の炭素・窒素・硫黄の安定同位体比を調べることで,砂浜生態系の栄養基盤としての海起源・陸起源有機物の相対的重要性やその空間構造への影響を明らかにすることを目的とした.調査は,2019 年 9 月に仙台湾の新浜海岸と閖上海岸で行った.汀線から陸にトランセクトを曳き,その線上の複数地点にベイトを入れたピットフォールトラップを設置して海浜動物を採集した.採集個体および打ち上げ海藻や海浜植物,後背地の内陸植物を加えて,炭素・窒素・硫黄安定同位体比を分析した.次いで,海浜動物に対する栄養源として,打ち上げ海藻,海浜植物,内陸植物への寄与率をベイズ統計による安定同位体混合モデル MixSIAR により推定した.安定同位体分析の結果,新浜海岸と閖上海岸ともに,節足動物は幅広い安定同位体比(炭素・窒素)を示したが,炭素安定同位体比は陸域植物と海藻類の間の値を示した.一方,硫黄安定同位体分析ではスナガニやハマトビムシ科が海藻と同様の高い安定同位体比を示したが,昆虫類では低く,生物群によって海起源有機物への依存度が異なった.MixSIARによる栄養寄与率は,新浜海岸と閖上海岸ともに,ゴミムシダマシ科とスナガニでは海起源有機物の寄与率が高かった.オオハサミムシでは,汀線からの距離にかかわりなく,防潮堤手前で採集された個体でも海起源有機物の寄与率が高い場合があった.このことから,砂浜に生息する節足動物は陸上起源の有機物だけでなく,栄養基盤として海起源有機物にも強く依存していることがわかった.

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