応用生態工学
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河川ネットワークを考慮した自然再生地の効果の検討:魚類多様性をケーススタディとして
後藤 颯太赤坂 卓美河口 洋一
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論文ID: 22-00021

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抄録

河川ネットワークは淡水生態系の維持に重要な機能を有する.しかし,河川における自然再生事業のほとんどは,対象地の種多様性や保全対象種にとっての生息地環境の質といった局所的な環境の状態のみを基準に選定されてきた.また,自然再生事業による保全効果の主な評価対象は大河川であり,中小河川における効果は無視されることが多いのが現状である.本研究では,中小河川の自然再生事業の効果向上を目的とし,十勝川水系の 1 次~ 3 次河川に属する 21 の中小河川を対象として,河川ネットワーク内における自然再生地の空間配置が,魚類の α および β 多様性に与える影響を明らかにした.この際,a)自然再生は α 多様性を増加させるが,連結性の高い河川ほどその効果は高い,b) β 多様性は,連結性の低い河川で増加するが,そのような河川を自然再生しても β 多様性は変化しづらいと仮説立てた.本研究結果は,仮説を一部支持し,α 多様性は,自然再生地で増加し,主要河川からの距離と負の関係にあった.自然再生による α 多様性への影響は,多様な開放水面幅と深い水深が 3 次元的な環境の異質性を創出し,多様な魚種に生息地や避難場を提供したためであった可能性が示唆された.一方で,β 多様性は dIIC のみと負の関係にあり,自然再生の有無との関係はみられなかった.本結果は,主要河川に近い河川区間における実施と,開放水面幅や水深を考慮した施工が,α 多様性の保全に効果的であることを示唆する.また,自然再生は β 多様性に関係なく α 多様性を増加させていたことから,dIIC の低い(β 多様性の高い)河川区間における自然再生も,両多様性の保全に重要であることを示唆する.

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