論文ID: 23-00007
愛媛県燧灘ではアサリの漁獲量は 1975 年頃から急減し,近年ではごくわずかな漁獲量で推移している.その原因として埋め立てなどによるアサリ生息地の喪失や,底質の泥化などアサリ生息環境の悪化が挙げられる.これまで,アサリに関する調査研究は様々な研究機関で行われており,アサリ資源量回復に向け干潟の造成など様々な取り組みが行われてきたが,愛媛県も含め全国的にアサリ資源量の回復には至っていないのが現状である.
そこで,アサリ資源量回復に向け干潟の底質改善材として「石炭灰造粒物」という火力発電で発生した石炭灰にセメントを加えて粒形に固化させた物質に注目した.本研究では愛媛県西条市禎瑞干潟において試験区中のアサリ個体数の変動要因を解析し,アサリ稚貝生存率を低下させる要因を推定し石炭灰造粒物を用いることでアサリ生息環境の改善効果を検証することを目的とした.
実験結果から禎瑞干潟におけるアサリ個体群変動のプロセスに関して以下のことが推定された.
(1)台風の上陸や低気圧の接近に伴い干潟に大量の淡水が流入する.
(2)淡水と海水の混合により細かい粒度の底質割合増加,有機物含有量増加が起こる.
(3)高水温条件下による細かい粒子の堆積はバクテリアの嫌気的な活動を活発にし,底質の酸揮発性硫化物(AVS)量が増加する.
(4)積算降水量の増加に伴う低塩分化,細かい粒子の浮遊状態維持による窒息死,細かい粒子の堆積に起因する酸揮発性硫化物量増加による硫化水素毒性の負荷が起こる.
この推定から考えられるアサリが生息する上で起こりうる禎瑞干潟の問題点が,「細かい粒子の堆積に起因する AVS 増加による硫化水素毒性の負荷」であり,石炭灰造粒物を用いることで本研究からも干潟周辺の底質と比較して細かい粒子の相対的な割合を低く維持する効果を検証することができた.