応用生態工学
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河川生物の生息地の連結性を評価する河川景観遺伝学
中島 颯大
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論文ID: 25-00003

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抄録

様々な脅威を受けている河川生態系において生物種を絶滅から防ぐためには,質の高い生息地を増やすと同時に,これら生息地の連結性を確保することが重要である.生物の移住に伴う集団間の遺伝子の交換である遺伝子流動は生息地の「機能的連結性」といえ,集団遺伝学・景観遺伝学のアプローチを用いて評価することができる.本稿では(1)遺伝子流動が種や地域個体群に与える機能を確認し,(2)景観遺伝学で発展してきた遺伝子流動評価の考え方や手法について既往文献を整理し,(3)これらの河川生物への適用について,陸上生物を扱う場合の共通点や違いにも着目しながら議論した.遺伝子流動は変動する環境下において集団の頑強性を高める役割をもち,種や地域個体群の存続に正の効果をもつことが示されていた.また,遺伝子流動の評価手法は多くのアプローチがあり,その多くは集団間の遺伝的分化は移住個体数が多いほど小さくなるという考え方に基づいたものであるが,個体情報を用いて直近の遺伝子流動や双方向の遺伝子流動を評価する手法も複数みられた.各手法はそれぞれ前提とする仮定をもつため,対象とするデータの特性や目的に合わせて適切なものを用いることが重要と考えられる.河川生態系は上-下流の非対称性や階層構造・樹状構造をもつ特殊なシステムであり,河川生物には景観遺伝学で発展した手法をそのまま適用することが難しい場合もある.このため,河川生物の遺伝子流動評価については「河川景観遺伝学」という独自の学問分野として議論されることもあり,河川生態系に特化した解析手法も提案されている.最後に,様々な手法を組み合わせた河川景観遺伝学の事例として,石狩川水系空知川上流域のハナカジカの研究を紹介し,遺伝子流動の評価が保全上有用な知見を提供することを確認した.

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