応用生態工学
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ダムが河川の物理的環境に与える影響
河川工学及び水理学的視点から
辻本 哲郎
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1999 年 2 巻 2 号 p. 103-112

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抄録

流域の水を制御してさまざまな人間社会の要望に応える役割を持つダムが,一方では,水系への水の流量,土砂供給条件の変化によってもたらされる河相の変貌を通して,さまざまな影響が出現しており,とくに最近それが顕在化しているといわれる.本論文では,まず,河川水理学的,あるいは河川工学的観点からそれを概説した.
ダム貯水池では,流水を貯留するため,水域だけでなく周辺の環境にも影響を及ぼす.また,土砂や物質をかん止し(このことも貯水域の環境変化に作用する),流況変化(平均的な量とともに流量変化のパターン)とともに,下流河道に影響を与える.ダム工事期を除いても,湛水期の極端な流量減少と微細土砂の河床への堆積,引き続いて,砂質系材料のダムでのかん止によって下流河道での砂州環境がリフレッシュされないこと,さらに河床低下とそれに伴う粗粒化(アーマー化)の下流への伝播が出現する.より長期的には澪筋固定,砂州などの陸化,植生繁茂,樹林化などの傾向に代表される河相の変貌へとつながるおそれがある.河相が河川が担うべき治水,利水,親水,生態系保全機能と強く関連している,あるいは河相の管理・制御によってこそこれらの機能が全うされるという観点から,上記のようなダムの河相変貌に及ぼす影響を河川工学的課題として捉え,その変貌の仕組みを河川水理学的な視点から考察した.
今後の新しいダム建設については環境アセスメントによって,既存のダムについてはフォローアップの枠組みによって,ダムの機能維持とダムの建設がもたらす河相や河川が担うべき機能の変質と復元の問題にとり組まれることになるが,河相変遷の仕組みの理解は,これらの枠組み(環境アセスメントやフォローアップ)が具体的に機能するか否かに大きな役割を果たすはずである.また,生息環境評価の河川水理学的側面についても例をあげた.この問題は河川工学の今日的課題であることは間違いなく,あえて水理学的アプローチを紹介して生物・生態学の研究者との今後の共同を期待した.

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