応用生態工学
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生態学的機能維持のための水辺緩衝林帯の幅に関する考察
高橋 和也林 靖子中村 太士辻 珠希土屋 進今泉 浩史
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2003 年 5 巻 2 号 p. 139-167

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抄録
これまでに国内外で実施されてきた水辺林の生態学的機能と保全・整備のための基準幅に関する研究事例や,すでにある基準幅の考え方をレビューし,水辺域および水辺林がもつ生態学的機能を総括するとともに,期待する機能に応じた緩衝林帯の適正幅を提示することを本論の目的とした.
研究事例によって緩衝林帯の適正幅にはバラツキがあったが,我が国の地形や植生を考慮して,研究者によって支持されている適正幅にもとづき,水辺緩衝林帯の適正幅を提示した.
日射遮断効果,落葉リター等有機物供給,倒木供給機能は,水系次数3次までの上流域で重要な水辺林の機能であり,30m程度までの幅が適正幅と考えられた.また,微細砂の捕捉機能については,水辺林地形面の斜度や地表面粗度,土壌の種類によって効果が異なることから,一定値を保全幅として決定することは困難であると考えられた.栄養塩の除去機能に関しては,土地利用が進んでおり畑地等栄養塩の供給源が隣接する水系次数の大きい平野部でより重要な機能と考えられ,10~20m程度の緩衝林帯が必要であると考えられた.魚類等の保護に対しては,30m程度の緩衝林帯を推薦する研究が多かったが,これらは主に山地渓流魚を対象とするものである.水辺林のハビタットやコリドーとしての役割については,対象生物によって大きく異なり,対象生物ごとに水辺林の幅を個々に検討する必要がある.レビューの結果では,両生類,爬虫類,哺乳類では最大で100m程度の幅の水辺林が,鳥類では最大で200m程度の幅の水辺林が必要であると考えられた.微気象保全については研究途上であり,明確な目安を提示するに至らなかった.
今後は幅の議論のみならず,流程に沿った河川縦断方向,さらに水系網の視点から水辺林保全・整備の考え方が構築されていくことが期待される.
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