抄録
多摩川永田地区では2001年から2002年にかけて河原の再生に注目した河道修復が国土交通省関東地方整備局京浜工事事務所で行なわれた.本文では,修復にいたる経緯,修復目標の設定,修復の方法について述べ,考察を行なった.
1995年に河川生態学術研究会多摩川グループが発足し,永田地区を対象とする研究が開始された。近年,永田地区では砂利掘削などにより河道形状が変化し,河原が減少し,カワラノギクに代表される河原に依存する生物が絶滅の危機に瀕していること,かわって外来種であるハリエンジュが増加していることなどが明らかとされた.1998年,多摩川グループが行なっている市民向けの発表会で,ハリエンジュの伐採は可能かということが討論された.それを契機に,京浜工事事務所は,植生管理基本検討会を設け,討論の結果ハリエンジュを伐採し,河道修復を行なうこととなった.
河道修復は2段階で行なわれることになり,第1ステップとして絶滅の危機に瀕しているカワラノギクを代表とする河原の生物の保全を目標とし,次の段階で,扇状地河川特有の微地形に起因する環境を目標とすることとなった.
具体的な修復方法は,51.7km~52.4kmの右岸側の,高水敷上のハリエンジュを伐採し,表土を剥ぎ取り,掘削を行い,低水路を拡幅し礫河原を造成し,永田地区の直上流の河床に砂利を敷き詰め土砂供給を行なう。透かし礫層の造成方法,造成された面の水面からの比高は,数通りのものが実験的に与えられた。
永田地区の河道修復は水系全体のシステムの修復ではなく,永田地区を対象とした,部分的な動的システムの修復であり,社会の変化を考えたとき,多摩川では部分修復が現実的であることを考察した.また,永田地区では,人間が与えたインパクトを取り除いただけでは,自立的な修復は望めず,人間が何らかの形で関与しながら河原を維持することが現実的であることを考察した.