教育社会学研究
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論稿
性別越境を伴う生活史におけるジェンダー/セクシュアリティに関する意識
宮田 りりぃ
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2017 年 100 巻 p. 305-324

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抄録

 本稿の目的は,トランスジェンダーの人々を調査対象に社会との相互作用を通した自己形成過程に着目し,性別越境を伴う生活史におけるジェンダー/セクシュアリティに関する意識を明らかにすることである。そのため,3名のトランスジェンダーに対して生活史調査を実施した。
 分析の結果は以下のとおりであった。第1に,調査対象者たちが直面した問題の源泉は,個人の側にではなく,固定的な性別役割モデルの体現を求める社会の側にあった。第2に,それゆえ,調査対象者たちは社会との相互作用を通した自己形成過程の中でジェンダー/セクシュアリティに関する違和感や抑圧的感覚を覚えるようになり,そのきっかけや時期は調査対象者によって多様であった。第3に,調査対象者たちは,「重要な他者」たちとの関わりを通して新たな準拠枠を獲得し,それを参照することで固定的な性別役割モデルの体現を求める社会のあり方に抵抗する可能性を見出し,上記のような違和感や抑圧的感覚から解放されていった。
 以上の知見をもとに,①「GID(性同一性障害)」支援の限界及び,②トランスジェンダーが直面する問題を医学概念にもとづいて捉える立場に留まることが含む,ポリティカルな問題について考察を行った。本稿が,今後教育における国のトランスジェンダー支援の見直しに役立てば幸いである。

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© 2017 日本教育社会学会
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