教育社会学研究
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論稿
量的縮小期における定通教育振興の論理
――教育課程編成をめぐる諸機関の葛藤に着目して――
濱沖 敢太郎
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2017 年 101 巻 p. 111-130

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抄録

 本稿の目的は,定通モデル校事業を事例として,1960年代の定通教育振興の論理を明らかにすることである。1960年代は定時制が量的に縮小する中で,都市部の労働力需要を背景とする定通教育改革が進められたと理解されてきたが,実際に展開された改革をめぐる諸機関の方針の異同を先行研究は精査してこなかった。
 本稿が明らかにした知見は以下のとおりである。
 第一に,文部省は都市部の勤労青少年を定通モデル校事業の主な対象と考えており,その教育機会拡充の具体的方策として定通併修などの導入を進めようとした。
 第二に,特に都市部の自治体では,定通併修の導入が勤労青少年の教育機会を危うくするものとして懸念されており,定通モデル校事業としての実績はあげられなかった。
 第三に,定通併修は都市部と異なる生活環境にある勤労青少年に関しても,就学可能性を高める具体策としては受け入れられず,むしろ農業・看護などに関わる教育施設との技能連携が,通信制の教育課程の再編成を伴う形で展開されていった。
 以上に示した定通教育の変容過程は,勤労青少年の進路形成に関する問題の射程を広げ,また,現代の定通教育の形態が作り出される一局面を明らかにしたという点において重要であろう。

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© 2017 日本教育社会学会
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