教育社会学研究
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特集
学力調査の政治
川口 俊明
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2020 年 106 巻 p. 55-76

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抄録

 一見,客観的・価値中立的に実施されているように見える学力調査の裏に,関わる諸アクターによる政治があることは,すでに少なくない先行研究が存在している。こうした研究は,その対象や分析スタイルは異なるものの,第三者の立場から既存の学力調査を批判し,一見中立的に見える調査の政治性を暴くという点で共通している。これら先行研究に対して本稿では,学力調査を実施する研究者の立場から,学力調査の政治性について検討を加える。
 成人を対象とする一般的な社会調査と異なり,学力調査は学校で時間をかけて学力テストを実施する必要があるため,学校や教育委員会とやりとりをすることは避けることができない。そこには,テストによる競争を当然と考える人々,SESへの忌避感,テストの専門家が少ない上にそもそも能力を測る学力調査の必要性をあまり感じていない教育現場,さらに調査が個々の学校に「役に立つ」ことが求められるなど,日本社会の論理に根ざした,さまざまな困難が存在する。
 ただ一つ明らかなことは,一見して教育現場と関わらなさそうな計量研究を主眼とする研究者であっても,日本を対象とした学力調査・学力研究を行うためには,学力調査をめぐる政治の舞台に利害関係者として上がらざるをえないということである。学力調査の政治にも目配りしつつ,学力研究を進めていくことが,今後の教育社会学の学力研究の一つの在り方であると筆者は信じている。

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© 2020 日本教育社会学会
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