教育社会学研究
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特集
生存保障への教育社会学的アプローチの失敗
―逸脱の政治パースペクティヴによる規範的考察―
山口 毅
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キーワード: 生存保障, 逸脱の政治, 能力
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2020 年 106 巻 p. 99-120

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抄録

 本稿は,逸脱のラベリングを索出して他の選択肢との間で規範的な比較考察を行なうプログラムとして逸脱の政治パースペクティヴを構想し,教育社会学のありようを検討する。
 格差の拡大や貧困化が進む第2の近代(後期近代)においては,「まともに生きていける」最低限の生活を人々に保障する「生存保障」の課題が浮上する。教育社会学は,生存保障の課題に取り組みながらもディシプリンの主要概念である「社会化」と「選抜・配分」に焦点を置くことで,逸脱のラベリングに伴うマッチポンプ図式を作り上げてしまう。マッチポンプ図式とは,能力欠如という逸脱のラベルを人々に貼りながら,能力付与を通じた生存保障を図る図式である。そこでは脱逸脱化(=能力獲得)は個人の変化に委ねられているため,その論理構成上,能力を身につけるという個人の変化を保障の条件とする「条件付き」生存保障とならざるをえない。したがって必然的に選別を伴い,普遍的な生存保障の課題と矛盾する。
 以上の欠陥を指摘した後で本稿は,経済的な次元では端的な再分配を,文化的な次元では能力カテゴリーを流動化して問題を公共化する実践をオルタナティヴとして提示する。そして結論として,教育社会学は生存保障への取り組みを放棄して社会化と選抜・配分概念を守るか,生存保障への取り組みを維持して社会化と選抜・配分概念を放棄するかの選択を迫られることになると論じる。

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© 2020 日本教育社会学会
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