教育社会学研究
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論稿
なぜ,学校女性管理職比率は停滞・低下しているのか
──小学校女性教員のライフヒストリーに注目して──
佐藤 智美
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2021 年 108 巻 p. 185-206

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抄録

 学校女性管理職比率は,1990代に小学校を中心に本格的な上昇を示していたにも関わらず,2000年代半ば以降停滞・低下している。
 本稿の目的は,女性管理職比率の停滞・低下の要因について,「教育改革」下における女性教員の意識や経験の変容とそれらが管理職志向にもたらしている影響を明らかにすることである。
 調査対象とした大分県の小学校女性教員のライフヒストリー・インタビューを分析した結果,以下のような知見が得られた。
 ①「教育改革」下の多忙化は,男性教員より家庭責任の重い女性教員の方により多くの困難をもたらしていた。そのために,女性教員は,管理職試験の準備や昇任後の家庭との両立に危惧をもち,管理職志向を低下させていた。②女性教員は,「教育改革」下の管理職を,権威的な「管理者」「評価者」とみなし,それに対する親和性が低いため,管理職志向を低下させていた。③「教育改革」下の管理職の重責化に対して,女性教員は自らを力量不足と見なし,管理職志向を低下させていた。彼女たちは,男性教員の倍以上の努力や成果を示さなければ認められなかった経験を通して,女性管理職に対する厳しい視線を強く意識し,優秀な女性でなければ管理職は務まらないと見なしていた。
 これまで,「家庭との両立」「キャリアパスや登用過程」の側面から論じられてきた女性管理職の低比率や停滞の要因に,「教育改革」という政策の影響を付加することができたと言えよう。

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© 2021 日本教育社会学会
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