教育社会学研究
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論稿
難関大に進学する女子はなぜ少ないのか
――難関高校出身者に焦点をあてたジェンダーによる進路分化のメカニズム――
伊佐 夏実
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2021 年 109 巻 p. 5-27

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抄録

 本稿では,難関校出身生徒に焦点をあて,高校から大学への移行に際して進学先レベルを低めた層とそうでない層の違いがどこにあるのかを,高大接続パネルデータを用いて検討した。難関校から難関大に進学する女子は男子に比べて少なく,その一因として,女子の浪人選択率の低さが挙げられる。また,階層の低い女子や地方出身の女子,学習意欲の低い女子は下降移動しやすいが,それらの要因を統制してもジェンダーの直接効果が残ることから,女子の移動パターンに影響を与える他の要因の存在が示唆された。
 そこで,将来希望する職業に焦点を当てた分析を行った結果,看護師に代表される医療職や,教職を希望することが下降移動につながっており,資格取得により可能となる確実なキャリアを選択しようとする志向性が,偏差値とは異なる基準での進路分化を生み出すひとつの要因であることが分かった。四大ではなく短大や専門学校への女子の進学行動を説明する際に指摘されてきたものと同じメカニズムが,難関高校という上昇移動に向けた加熱が生じやすいとされるトラックにおいても確認されたのだ。本稿の分析からは,性役割意識そのものは難関大への進学を左右する要因にはなっていなかったが,特定の職業へと女性をいざなっていく「ジェンダー・トラック」は維持されており,労働市場におけるジェンダーギャップが解消されない限り,教育機会の男女差は残り続けるとも言えるだろう。

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