教育社会学研究
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109 巻
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論稿
  • ――難関高校出身者に焦点をあてたジェンダーによる進路分化のメカニズム――
    伊佐 夏実
    2021 年 109 巻 p. 5-27
    発行日: 2022/02/21
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,難関校出身生徒に焦点をあて,高校から大学への移行に際して進学先レベルを低めた層とそうでない層の違いがどこにあるのかを,高大接続パネルデータを用いて検討した。難関校から難関大に進学する女子は男子に比べて少なく,その一因として,女子の浪人選択率の低さが挙げられる。また,階層の低い女子や地方出身の女子,学習意欲の低い女子は下降移動しやすいが,それらの要因を統制してもジェンダーの直接効果が残ることから,女子の移動パターンに影響を与える他の要因の存在が示唆された。
     そこで,将来希望する職業に焦点を当てた分析を行った結果,看護師に代表される医療職や,教職を希望することが下降移動につながっており,資格取得により可能となる確実なキャリアを選択しようとする志向性が,偏差値とは異なる基準での進路分化を生み出すひとつの要因であることが分かった。四大ではなく短大や専門学校への女子の進学行動を説明する際に指摘されてきたものと同じメカニズムが,難関高校という上昇移動に向けた加熱が生じやすいとされるトラックにおいても確認されたのだ。本稿の分析からは,性役割意識そのものは難関大への進学を左右する要因にはなっていなかったが,特定の職業へと女性をいざなっていく「ジェンダー・トラック」は維持されており,労働市場におけるジェンダーギャップが解消されない限り,教育機会の男女差は残り続けるとも言えるだろう。

  • ――STEM-ケアの次元に着目して――
    田邉 和彦
    2021 年 109 巻 p. 29-50
    発行日: 2022/02/21
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     日本の高等教育においては,性別によって専攻分野が分離している状況が見られる。特にSTEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)と呼ばれる領域には女子が少なく,このような性別専攻分離の背景として,一部の高校に存在する文理選択制度の影響が指摘されている。すなわち,文理選択に基づいて,男子は理系,女子は文系へと「水路付け」されていくという見方である。
     しかし,性別専攻分離には文系-理系の次元とSTEM-ケアの次元が存在しており,後者の分離は主に理系トラックにおいて生じていると考えられる。それゆえ,後者がいかに生じるのかということは,文理選択のジェンダー差とは異なる見地からも検討される必要がある。
     日本の高校生を対象としたパネル調査を分析した結果,同じコースに所属していても,女子の方が理系学部における成功確率を低く見積もる傾向が確認され,さらに成功確率を低く見積もっている人の方が,ケア領域を選択しやすい傾向が観察された。また,STEMやケアに関するジェンダー・ステレオタイプは高校生の間に流布しており,それらを内面化している程度は,STEM領域およびケア領域の選択傾向と関連していた。
     最後に,本研究で用いた要因をすべて考慮したとき,文系-理系の分離は解消に向かう可能性が示唆されたのに対して,ケア領域における分離は残存する可能性が示された。これは,性別専攻分離において,STEM-ケアの次元へと着目することの重要性をさらに強調するものと捉えられる。

  • ――不登校生成モデルを用いた実証研究――
    梶原 豪人
    2021 年 109 巻 p. 51-70
    発行日: 2022/02/21
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,ボンド理論に基づく不登校生成モデルを分析枠組みとし,「なぜ貧困家庭の子どもたちは不登校になりやすいのか」というリサーチクエスチョンから,貧困と不登校の関連を実証することにある。
     本稿で得られた知見は,2つに分けられる。第一に,貧困層の子どもほど,学校社会とのつながりを示すソーシャルボンドが希薄であるということを明らかにした。分析結果からは,経済的に困窮している家庭の子どもはそうでない家庭の子どもよりも,進学アスピレーションが低く,学校での成績や授業理解度が低位であり,学校生活に充実感を得られず,学校の規則を守っていないことが示され,ソーシャルボンドが希薄であるということがわかった。第二に,不登校と貧困の関連は独立したものではなく,ソーシャルボンドの希薄さを介した間接的なものであることが明らかとなった。つまり,貧困家庭の子どもたちは,単に貧困であることで不登校になりやすいのではなく,経済的に困窮した生活を送る中で学校生活や学校社会の規範とのつながりが弱くなり,登校する理由を見出せなくなることで不登校になりやすくなるという一連のプロセスを描くことができる。
     本稿の学術的貢献は,貧困という社会経済的要因によって生じる不登校が存在していることを示し,不登校研究に対して新たな問題提起を促したこと,計量的実証研究における不登校生成モデルの有効性を確立したこと,以上の2点である。

  • ――潜在クラス分析を用いたアプローチ――
    中村 瑛仁
    2021 年 109 巻 p. 71-92
    発行日: 2022/02/21
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     学校教育に成果主義・競争主義を導入する新自由主義的教育改革(NEP)は,教員世界に変容をもたらすものとして議論されている。しかし,様々な施策や意見が個別に取り上げられる場合が多く,NEPに対して教員がどのような態度を有しているのか,その全体像が十分に捉えられていない現状がある。
     実際にどの程度の教員がNEPを支持するのか/しないのか,NEP支持層と不支持層の間でどのような違いがあるのか。本稿では,関西地区の中学校教員を対象とした質問紙調査から,具体的な施策に対する意見を分析対象として取り上げ,NEPに対する教員の態度の実態を検討した。
     潜在クラス分析を用いた分析の結果,第一に,NEPに対する教員の態度は,「不支持層」「支持層」「混在層」「判断不可層」に類型され,混在層を除くと,複数の施策に対する意見の一貫性が認められた。第二に,NEPに対するこれらの態度には,性別,年齢,組合加入,勤務地域,権威主義的態度,政治非関与的態度,職場自律性,以上の要因が影響していることが示された。分析を通じて,不支持層/支持層/判断不可層,それぞれの特徴が整理され,特に不支持層と支持層・判断不可層の違いが浮き彫りとなった。
     以上の結果から,NEPに対する態度に影響を与える要因として,キャリア効果,権威主義・政治非関与・職場自律性との関連,政策の影響について議論し,さらにNEP支持層の特徴について,教員の専門性論の観点から考察を加えた。

  • ――患者視点の設定に着目して――
    元濱 奈穂子
    2021 年 109 巻 p. 93-114
    発行日: 2022/02/21
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

     模擬患者(SP)とは,医学教育の中で患者役を演じる非医療従事者のことを指す。かつてSPは,医学生の効率的・効果的教育という教育者側のニーズを満たすための教材として位置づけられてきたが,近年は,教員と模擬患者とを立場の異なる対等なパートナーとみなしたうえで,SPの参加を通して生きた「患者視点」を医学教育に反映させる,「協働」というアイデアが提案されている。本稿は,教員とSPとの協働を通して教育にもたらされる患者視点とは何なのかを検討するものである。
     医学部のSP参加型授業とその関連活動のフィールドワークを通して明らかになったことは以下の2点である。第1に,患者視点は医師の専門性との差異化という条件下で認識されており,SPと教員の間では,この線引きを越境することなく互いを尊重するという形態の協働が成立していた。第2に,こうした協働は同時に,患者視点と医師の専門性との差異のあり方に揺らぎもたらしており,その揺らぎの中でもSPと教員が協働の実践を維持しようとすることで,患者視点の内実が見えにくくなるという結果が生じていることがあった。
     こうした協働の二律背反性は,患者視点は医師の専門性の影響を多分に受けた曖昧なものにならざるを得ないこと,そして,まさに患者視点を教育にもたらすことを目指す協働そのものによって,患者視点が変化する可能性があることを示している。

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