日本の高等教育においては,性別によって専攻分野が分離している状況が見られる。特にSTEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)と呼ばれる領域には女子が少なく,このような性別専攻分離の背景として,一部の高校に存在する文理選択制度の影響が指摘されている。すなわち,文理選択に基づいて,男子は理系,女子は文系へと「水路付け」されていくという見方である。
しかし,性別専攻分離には文系-理系の次元とSTEM-ケアの次元が存在しており,後者の分離は主に理系トラックにおいて生じていると考えられる。それゆえ,後者がいかに生じるのかということは,文理選択のジェンダー差とは異なる見地からも検討される必要がある。
日本の高校生を対象としたパネル調査を分析した結果,同じコースに所属していても,女子の方が理系学部における成功確率を低く見積もる傾向が確認され,さらに成功確率を低く見積もっている人の方が,ケア領域を選択しやすい傾向が観察された。また,STEMやケアに関するジェンダー・ステレオタイプは高校生の間に流布しており,それらを内面化している程度は,STEM領域およびケア領域の選択傾向と関連していた。
最後に,本研究で用いた要因をすべて考慮したとき,文系-理系の分離は解消に向かう可能性が示唆されたのに対して,ケア領域における分離は残存する可能性が示された。これは,性別専攻分離において,STEM-ケアの次元へと着目することの重要性をさらに強調するものと捉えられる。
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