抄録
本論文の目的は,1970年代から継続的に行われている高校調査のデータを分析することにより,少子化や教育改革が,高校,とりわけ1990年代,2000年代に蓄積の少なかった上位高校に,どのような影響を与えたのかを実証的に明らかにすることである。得られた知見は以下の3点である。
第一に,日本の高校は,少子化社会の中で,1校あたりの生徒数を減らすことで,学校数を維持してきた。しかし,上位の高校では入学定員を維持し続けたため,入学者の中学時の学力の分散が広がり,多様な学力層の生徒が上位高校へ入学することとなった。
第二に,多様な生徒が入学してきているにもかかわらず,生徒の学習時間は増加している。それというのも,教師が多様化した生徒を個別主義的かつ面倒見主義的に学習指導をしているからである。
第三に,教師が生徒の学習を,個別的に面倒をみることにより,生徒の「自ら学び自ら考える力」が身に付かないことが明らかになった。
以上の3つの知見が提起する問題は次のようである。まず,上位校生徒の多様化により,高校階層構造が変容し,新たな局面を迎えている。そのため,上位高校は,エリート養成学校としての地位が危うくなるかもしれない。
90年代の教育改革は「自ら学び自ら考える力」を強調し,かつては,それが教師を指導から撤退させた。そして,その結果,現在では教師が個別的で面倒見主義的な学習指導をすることにより,高校生の「自己学習能力」が身に付きにくいという意図せざる結果をもたらしたのである。