教育社会学研究
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論稿
「被害者」による暴力の肯定的な受容に関する考察
──異年齢の生徒集団における「通過儀礼」としての暴力──
山口 季音
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2013 年 92 巻 p. 241-261

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抄録

 生徒集団における暴力に関する従来の研究は,暴力が継続化する過程において,「被害者」は「加害者」に一方的に拘束されているとみなす傾向にあった。それに対して本稿は,「加害者」からの暴力を「被害者」が肯定的に受容することが暴力の継続化に寄与する過程を明らかにするものである。そこで,20代男性への半構造化インタビューで得られた,中学校の「非行集団」における暴力被害の事例を詳しく取り上げ,それを異年齢の生徒集団における「通過儀礼」としての暴力という視角から分析した。
 事例において,「被害者」は上級生による暴力の被害に苦しんでいたにもかかわらず,暴力を集団の秩序維持のためのものとみなし,肯定的に受容していた。その主な要因として,以下で述べるように,暴力被害が「被害者」の自尊感情を高めるものであったことがあげられる。第1に,「被害者」は同学年の生徒の代表として暴力を受けており,そうすることで同学年の生徒よりも優位な立場でいることができた。第2に,「被害者」は暴力の被害に耐えることで,集団のメンバーからの称賛を得られた。
 以上,「通過儀礼」としての暴力という視角からの分析により,「加害者」から暴力を受けることが利益に繋がっていたために,「被害者」は暴力を肯定的に受容し,暴力の継続化に寄与していたことが示された。本稿の知見は,生徒集団における暴力がいかに継続するのかについて新たな理解を促すものである。

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© 2013 日本教育社会学会
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