栄養学雑誌
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総説
スポーツ栄養における「エネルギー不足」の概念とその生理的影響
田口 素子本 国子
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2024 年 82 巻 1 号 p. 3-12

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抄録

 近年,スポーツ選手のエネルギー不足に関する研究が国際的に盛んに行われている。スポーツ栄養で使われる「エネルギー不足」とは,負のエナジーバランス状態を指しているわけではなく,エナジーアベイラビリティー(energy availability: EA)が低下した低EAの状態を指している。EAとは,エネルギー摂取量からトレーニングによって消費されるエネルギー量を差し引き,除脂肪量で除したものと定義されている。スポーツ選手が低EAの状態に曝されると,スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport: REDs)の国際コンセンサスに示されているさまざまな兆候や症状を引き起こすことが報告されている。慢性的な低EAにより,多くの生理機能が影響を受けることになる。例えば,甲状腺ホルモンや性ホルモンが低下し,コルチゾールが上昇するなど,内分泌の攪乱が起こる。そのため,エネルギー代謝が抑制されて安静時代謝量が低下する。女性選手では無月経を含む月経異常を引き起こし,男性でも性腺機能の低下など,性別を問わず生殖機能の低下を招く。骨形成の減少と骨吸収の増加によって骨密度が低下し,疲労骨折を引き起こしやすくなる。これらを早期発見し予防するためには,EAの代理マーカーの変化を含めて,栄養アセスメントの結果導かれた課題と関連する項目をモニタリングしていくことが極めて重要であり,スポーツ現場でのスポーツ栄養士/管理栄養士の役割は大きい。

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© 2024 特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
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