映像学
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論文
他者としてのネイティヴと女性
『満洲グラフ』における植民地表象の様式
半田 ゆり
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2019 年 101 巻 p. 27-48

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抄録

【要旨】
 本稿は、1930年代から40年代にかけて発行されたグラフ雑誌『満洲グラフ』におけるネイティヴと女性の表象が、植民地満洲の政治的背景といかに関わっていたのかを論じたものである。その目的は、時局にふさわしくない芸術性を批判されていた『満洲グラフ』という表象が、むしろ日本の植民地主義との相互依存的な関係にあったことを明らかにすることにある。1930年代に内地で流行した「芸術写真」「新興写真」の実践者たちが制作に関わった『満洲グラフ』は、戦時中の国家による写真家のプロパガンダへの動員を論じるのにふさわしい媒体である。既往研究は『満洲グラフ』の芸術性と政治性を分けて論じてきた。そこで本稿は、『満洲グラフ』の芸術性が植民地満洲のイデオロギーといかなる緊張関係にあったのかを検討した。『満洲グラフ』におけるネイティヴと女性の表象に着目した結果、ロシア人女性と日本人女性を満洲のその他の民族の上に置くという、民族とジェンダーの階層化を見出した。これは、日本人男性を頂点とする満洲の家父長的なヒエラルキーと一致していた。『満洲グラフ』は内地の支配的な「報道写真」に対する「芸術写真」の意図的な対抗として制作されていた。しかし、彼らの抵抗としての芸術性が込められたイメージこそ、満洲を包含する日本のトランスナショナルな帝国のネットワークに下支えされ、その循環的な強化・維持の役割を果たすものだったことが明らかになった。

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