映像学
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論文
  • 今井 瞳良
    2026 年115 巻 p. 5-22
    発行日: 2026/02/25
    公開日: 2026/03/25
    ジャーナル フリー

    本稿は『オーディション』(三池崇史監督、1999年)における男性のホモソーシャルな関係の恐怖を分析している。本作は日本のJホラー研究及び批評でほとんど取り上げられることはないが、英語圏では重要視されている。日本のJホラー研究では、メディアの特性による政治的な働きに関心が集中しており、ジェンダーが問題とされる場合は女性表象への批判が主となってきた。一方、英語圏で本作は女性による男性への復讐と読解され、フェミニズム的に評価されてきた。そのため、男性は批判の対象として、一枚岩に捉えられてきた。ところが、主人公である青山は男性の友人の忠告を破ったために、女性である麻美から拷問を受けることとなる。本作の恐怖は、青山が男性同士の絆を裏切ったことによって生じているのである。そこで、本稿では『オーディション』の男性間にある差異に注目している。女性に対して罪悪感を抱く「モラリスト」である青山は、男性のホモソーシャルな関係を裏切ることで、身体的な拷問を受けるとともに自身の罪悪感と向き合い、恐怖を味わう。しかし、最終的に青山が家父長的な態度で教育してきたことで、女性に対して罪悪感を見せない息子・重彦によって救われることとなる。重彦によって麻美が排除されるとともに、女性に対して罪悪感を抱く青山が罰せられる『オーディション』はフェミニズム的ではなく、男性ホモソーシャルから抜け出る恐怖を描き出しているのである。

  • 常石 史子
    2026 年115 巻 p. 23-46
    発行日: 2026/02/25
    公開日: 2026/03/25
    ジャーナル フリー

    映画の保存修復は、映画というメディウムに内在する「複製」のプロセスを保存修復用途に適用することである。デジタル修復ではプリンティングはスキャニングに代替されたが、ステップ・プリンターとエリア・スキャナー、コンティニュアス・プリンターとライン・スキャナーは構造的に対応しており、技術の連続性が見られる。

    経年劣化による収縮・変形・脆弱化等への対応という課題は、アナログではオプティカル・プリンターによって主に担われていたが、映画のデジタルシフトに伴い、スキャニングにおいても劣化フィルムへの許容度が競われるようになった。傷消しのためのウェット処理は拡散光により代替され、オリジナル・フィルムの濃度や階調を精確に捕捉するためのキャリブレーションはHDR技術へと移行した。

    2010年代にはマス・デジタイゼーションの需要に呼応するように、高速かつ低価格のストロボ型スキャナーが登場し、廉価なソフトウェアの普及と相まって小規模機関や個人の参入を可能にした。これは「イメージングの民主化」と呼べる現象をもたらした一方、物質としてのフィルムとイメージとの結びつきを弱め、真正性に関わる共通の価値観を失わせた。

    結果、AI着色や加工が氾濫し、オリジナルのフィルムは「収蔵による忘却」の危険に晒されている。現在の視座から、映画の保存修復における複製の工程を批判的に検証することは、イメージと物質との失われた紐帯を記録(ドキュメンテーション)によって仮構する試みの第一歩となる。

  • 鷲谷 花
    2026 年115 巻 p. 47-67
    発行日: 2026/02/25
    公開日: 2026/03/25
    ジャーナル フリー

    明治期の幻灯についての先行研究は、国家の教育及び家庭の娯楽のための装置として、もしくは業者が開発し市場に送り出して利益を得る「製品」「商品」として、幻灯が果たした機能の解明にもっぱら努めてきた。それに対して、本稿は、現状の社会で弱者を脅かしている問題を公衆に対して可視化し、国家の責任を問い、社会変革を訴える「運動のメディア」として、幻灯が活用された事例を検証する。日本で本格的に「社会問題」が認識されるに至ったのは、日清戦争後とされるが、その際にいち早く社会改良運動に取り組んだキリスト教社会事業団体は、欧米の同種の団体と同様に、幻灯を啓発宣伝に利用した。キリスト教徒で農学者の津田仙は、足尾銅山の鉱毒被害の実景を撮影した写真を幻灯で映写しつつ演説を行い、この試みが、以降の鉱毒反対運動における「幻灯演説会」の活況に繋がった。キリスト教系の社会改良運動において培われた幻灯の運用のノウハウは、初期の社会主義運動にも伝わり、片山潜、原子基らキリスト教信仰の背景を共有する活動家たちが幻灯演説を行った。本稿は、津田仙、片山潜、原子基、そして、社会主義から報徳思想に基づく地方改良運動へと転じつつ、大正期まで幻灯演説の旅を続け、また、幻灯製造・販売業者の池田都楽と提携して複数の幻灯説明書を執筆した市川/石田伝吉ら、明治期の社会運動の活動家たちによる「幻灯演説」の歴史的意義を解明することを試みる。

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