映像学
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論文
映画における聴取点の理論構築に向けて――ウォルター・マーチの「隠喩的サウンド」と聴覚の表象
山本 祐輝
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2022 年 107 巻 p. 103-121

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抄録

これまで多くの研究が視点ショットやヴォイス・オーヴァー、フラッシュバックといった映画における主観的技法のメカニズムや歴史を論じてきた。だが一方で登場人物の聴覚を再現する「聴取点サウンド」については、今もなお理論的基盤が確立されているとは言えない状況にある。

本稿の目的は、この技法が抱える独特な「扱いにくさ」の要因となっている理論的問題を整理し、従来ほとんど議論されてこなかった新たなタイプの聴取点サウンドの存在を指摘することにある。それは、フランシス・フォード・コッポラの共同作業者として知られる音響技師ウォルター・マーチが用いた「隠喩的サウンド」——登場人物の精神状態の隠喩となりうるような、極端に強調された物語世界内の音——と密接に関連している。

第一節で聴取点の複数の定義を確認した後、第二節では聴取点サウンドが成立する条件を定めること、つまり何をもって登場人物が音を聞いていると判断できるのか、その基準を設定することの困難について検討する。第三節では聴取点サウンドを次の三種類に分類することを提案する。(1)登場人物がその外側から発せられた音を聴く〈知覚的聴取点〉、(2)内面において想像した音を聴く〈心的聴取点〉、(3)両者が二重に作用する〈複合的聴取点〉である。そして具体的な作品を参照しつつ、これまでマーチが実践してきた隠喩的サウンドを〈複合的聴取点〉の音として理論的に位置づけることを試みる。

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