映像学
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論文
セル・アニメーションにおける多層化の起源としてのムーヴィング・パノラマ
小倉 健太郎
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2022 年 108 巻 p. 34-56

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抄録

1910年代に伝説的なアニメーターであるノーラン(Bill Nolan)によって発明されたスライド技法は、撮影台の上で背景画を引っ張ることでキャラクターや視点の移動を表現する技法である。この技法は19世紀初頭に誕生したムーヴィング・パノラマと明らかに類似している。ムーヴィング・パノラマは長尺の絵画を機械によって巻き取りながら眺める装置であり、スライド技法が誕生した1910年代には舞台や映画の背景としても用いられていた。1910年代にノーランはニューヨークで働いており、それらのムーヴィング・パノラマが身近にあった。さらに彼が発明したスライド技法自体もまた、当時の米国で一般的にムーヴィング・パノラマを指した「パノラマ」という語で呼ばれていた。そうした状況から鑑みて、ムーヴィング・パノラマはスライド技法の着想源の一つになった可能性が高い。

スライド技法を用いたセル・アニメーションではレイヤーが多層化し運動視差を再現しようとする傾向が見られるが、こうした傾向は舞台装置や万国博覧会の展示に用いられたムーヴィング・パノラマにも共通して見られる。レイヤーをスライドさせるというムーヴィング・パノラマの構造の内に、多層化していく契機が含まれているのだ。

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