映像学
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論文
『略称・連続射殺魔』再考――抵抗形式としてのエクスパンデッド・シネマ
田口 仁
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2023 年 109 巻 p. 5-26

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抄録

足立正生を中心に製作された映画『略称・連続射殺魔』(1969年)は、連続射殺事件の犯人として逮捕された少年永山則夫のドキュメンタリー映画である。『略称・連続射殺魔』は一般に松田政男を主唱者とする「風景論」と一対のものとして考えられ、同作を扱うほぼ全ての論考において、映画は「風景論」の絵解きとして解釈されてきた。だが、「風景論」は映画の製作について手法を指示するものではなく、映画にその理念が実現されていたとすれば、同作が製作から5年もの間封印されたことの理由にも疑問が残る。本稿では、この映画について作品の実態に即したカット分析と同時代の文化史的な文脈を参照した分析を行うことでその特質を明らかにし、60年代の制度批判的芸術表現総体との関連において位置づけ直すことを試みる。

まず第一節では議論の前提となる「風景論」の左派運動的制度批判と永山則夫の人生物語との関係を整理し、次いで第二節では「風景論」を映画に反映的に読みこむ既存の解釈と対照してショット分析を示すことで、映画が実際には永山の個人性に寄り添うナラティヴを展開していたことを明らかにする。最後に第三節では、足立の実験映画作家としてのキャリアと赤瀬川原平を中心とした人的交流から、『略称・連続射殺魔』の封印の理由を分析し、同作をエクスパンデッド・シネマとして解釈することで、むしろこの封印の行為こそが「風景論」の左派芸術運動的な側面の表現であったことを示す。

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