映像学
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論文
明治末期から大正初期の大衆文化におけるサディズム/マゾヒズムの間テクスト的考察――『五郎正宗孝子伝』(1915年)を起点として
紙屋 牧子
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2023 年 110 巻 p. 59-82

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抄録

本論は1915年の映画『五郎正宗孝子伝』をめぐるテクストとコンテクストを起点として、明治末期から大正期初期の大衆文化におけるサディズム/マゾヒズムの表象について考察するものである。まず1節では、現存フィルムと関連資料を手がかりにして『五郎正宗孝子伝』の封切当時と再上映時の上映空間の実態を歴史化することを試みた。そのうえで2節・3節では、『五郎正宗孝子伝』における「継子いじめ」の場面を考察し、それが日清・日露戦争前後の大衆文化におけるサディズム/マゾヒズムの表象の流行を反映したものであることを間テクスト的に明らかにした。また、サディズム/マゾヒズムの表象にある植民地主義的な発想やミソジニーを指摘し、そのうえで『五郎正宗孝子伝』における五郎正宗の姿を国民国家形成期の帝国日本のイメージとして読み解いた。更に、サディズム/マゾヒズムの表象において行使される暴力の矛先となる女性が、その暴力を観賞する側になった場合の問題を、近年のジェンダー・ポリティクスの観点から検討し直し、女性観客にとってそれらの暴力的な表象が(男性観客同様に)娯楽としても享受し得ることを指摘した。結論ではサディズム/マゾヒズムの表象を「メロドラマ」の概念を導入して再検討することを今後の課題として提起した。

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