映像学
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論文
トーンビルダー(音=画)――ドイツ語圏における初期「無声」映画の一形態
常石 史子
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2024 年 111 巻 p. 47-71

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抄録

音声の再生装置である蓄音機と映像の再生装置である映写機とを組み合わせ、音つきの映画を実現しようとするディスク式トーキーには、映画史上数多くのシステムが存在した。本論文はそうした中でも1903年から1910年代初頭にかけてドイツ語圏で隆盛を誇ったトーンビルダーTonbilder(音=画)と呼ばれる作品群を考察の対象とする。

まず、蓄音機と映写機が結びつき、新しいメディウムが生まれるに至った過程を、ドイツ映画のパイオニアと見なされるオスカー・メスターの功績に着目しつつ概観したうえで、鍵となる音声と映像の「同期」に焦点を当て、その困難と重要性、具体的なメカニズムについて分析する。続いてトーンビルダーの現存・公開状況につき整理したうえで、ドイツ映画協会=映画博物館(DFF)のコレクションを参照し、このメディウムが扱った主題、撮影・編集技法につき検討する。さらに、筆者がフィルムアルヒーフ・オーストリアで復元した三つの事例をもとに、レコードとフィルムを組み合わせる復元に特有の諸問題についても考察する。

最後に、トーンビルダーの流行が一時的にせよ通常の無声映画を凌駕するほどに勢いのあるものであったことを示したうえで、その急激な凋落の要因につき検討する。映画というメディウムが、いったん獲得された「同期する音」を手放すことで、演劇から自立した固有のメディウムとして重要な一歩を踏み出したことをもって結論とする。

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