2016 年 11 巻 1 号 p. 265-281
1980年代以降,日本の宗教地理学の分野では信仰圏に関する研究が盛んに行われるようになった.これらの先行研究においては,特定の信仰の分布が疎らになる要因を「類似した属性をもつ他の信仰対象」,あるいは「近隣にある他の信仰対象」との「競合」によるものと単純に解釈する傾向にあった.そのような中で,地理学者たちは特定の信仰の分布が様々な信仰との関わりの中でどのように成立したかについて実証的に考察を行ったり,信仰対象間の「競合」とはいかなる状況を意味するかについて検討したりすることはなかった.以上を受け,本研究では山形県庄内地方の代表的な霊山である鳥海山とその崇敬者組織(講)を事例として,崇敬者に対する聞き取り調査の成果をもとに上記の点の解明を試みた.