2023 年 18 巻 2 号 p. 367-379
本研究では,広島県東広島市および呉市を対象とした現地調査と法務省が公開した登記所備付地図データを組み合わせることにより,呉市が1943年に敷設した上水道の遺構をマッピングし,その特徴を明らかにした.現地調査の結果,少なくとも192個の遺構が存在することが明らかになった.また,登記所備付地図データを用いることで,遺構に沿って幅3 m程度の細長い区画が長さ約10.7 kmにわたり今も存在することを確認できた.この細長い区画は上水道を敷設するために呉市が取得した土地である.旧呉市上水道の敷設の背景には旧日本海軍鎮守府の協力・支援があり,本研究で明らかにした遺構は,戦闘とは直接関係のない場所にも戦争の影響が及んでいたこと,その影響が現在も継続していることを示す戦争遺跡の一種とみなすことができる.そして,登記所備付地図データを活用することで,閲覧にかかる労力や費用が削減され,より精緻なマッピングが可能となった.