本研究では,移住起業者の活動に普段は特段の関心を持っていないように見える多数の地域住民の動向に焦点を当て,かつ,トラブル発生時だけでなく,日常生活における関わりから,過疎地域における移住起業者と地域住民の関係を明らかにすることを目的とした.調査地は静岡県南伊豆町の過疎の漁村である.筆者らは集落に滞在し,参与観察とインタビュー調査を実施した.その結果,移住起業者の活動に多大な影響を与えているのが,移住起業者と日常的に接し,集落人口の半数を占める65歳以上の地域住民であることがわかった.トラブル発生時(あるいは発生が予測される時)には,65歳以上の地域住民は些細な態度の違いによる示唆から直接の抗議まで段階的に意見を表明し,トラブルを抑制しようとした.移住起業者と地域住民が安定して共住するためにも,日常的な周囲からの示唆を受け止め,小さなトラブルを教訓として地域社会に配慮することが重要であった.