E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
ISSN-L : 1880-8107
19 巻, 1 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
調査報告
  • 谷 優太郎, 柳澤 雅之
    2024 年 19 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,移住起業者の活動に普段は特段の関心を持っていないように見える多数の地域住民の動向に焦点を当て,かつ,トラブル発生時だけでなく,日常生活における関わりから,過疎地域における移住起業者と地域住民の関係を明らかにすることを目的とした.調査地は静岡県南伊豆町の過疎の漁村である.筆者らは集落に滞在し,参与観察とインタビュー調査を実施した.その結果,移住起業者の活動に多大な影響を与えているのが,移住起業者と日常的に接し,集落人口の半数を占める65歳以上の地域住民であることがわかった.トラブル発生時(あるいは発生が予測される時)には,65歳以上の地域住民は些細な態度の違いによる示唆から直接の抗議まで段階的に意見を表明し,トラブルを抑制しようとした.移住起業者と地域住民が安定して共住するためにも,日常的な周囲からの示唆を受け止め,小さなトラブルを教訓として地域社会に配慮することが重要であった.

  • 平岡 太一, 尾方 隆幸
    2024 年 19 巻 1 号 p. 15-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/01/26
    ジャーナル フリー

    隆起準平原は,デービス,W. M. により提唱された概念モデル「侵食輪廻」の1つのステージであるが,日本列島で隆起準平原とされてきた地形の解釈に対する疑問が近年になって提示されており,定量的な地形解析による見直しが必要である.本研究では,隆起準平原と考えられてきた阿武隈高地の小起伏面について,流域の地形解析を行った.解析対象は,阿武隈高地を太平洋に向かって流れる新田(にいだ)川・古道川・夏井川の流域とした.国土地理院のDEM10BデータからGISを使用して河床縦断面を解析し,小起伏面の境界にあたると考えられる地点の標高を抽出すると300~420 mの間であり,特定の地質条件には依存しなかった.地形解析の結果は,各流域をとりまく分水界の標高にばらつきがあること,および新田川・夏井川の上流域では小起伏面の境界が局地的侵食基準面として機能していることも示しており,阿武隈高地の地形を隆起準平原と解釈することは適当ではないと考えられる.

解説記事
  • 坂本 優紀, 鈴木 修斗
    2024 年 19 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/06
    ジャーナル フリー

    国内で栽培されたブドウを原料に生産される日本ワインの消費量が増加している.日本ワインは製品としての価値だけでなく,農地の再生やツーリズムなど多方面にわたる地域的影響が期待されている.本稿では国内でも有数の日本ワインの生産量を誇る長野県および塩尻市を事例に,ワインを活用した地域振興策とワインツーリズムの現況を報告する.長野県は2013年に信州ワインバレー構想を計画し,ワイナリーの増加やプロモーション活動に力をいれてきた.2023年にはそれを引き継ぐ信州ワインバレー構想2.0が策定され,ワインを活用した観光や地域づくりへの展開が期待されている.県全体での取組みが進む一方,伝統的産地である塩尻市でもワインを活用した地域振興が市町村合併を契機として行政を中心に推進されるようになった.現在は大規模なイベントの開催などワインツーリズムを推進する取組みが展開されており,第一次産業から第三次産業に渡る活用がなされている.

地理紀行
調査報告
  • 松尾 駿, 澤田 康徳
    2024 年 19 巻 1 号 p. 51-64
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,アメダス10分値(2010~2020年7,8月)を用いて,夏期多日照日午後の関東地方を対象に,対流性強雨に関する降水強度の時間変化とその地域的特徴を解析した.降水強度の時間変化は,各地点における対流性強雨事例に基づき,降水強度極大(3.5 mm以上/10 min)時とその前後60分間の10分ごとの降水強度別出現頻度割合から類型化した.降水強度の時間変化型の分布から,北関東山地域では降水出現継続時間の長いII型が分布し,平野域では降水出現継続時間の短いI型が分布することが見出された.降水出現開始時~降水強度極大時が短いIII型は,山麓域や平野域に点在し,極大時前・後に小さい強度の降水出現が多く継続時間の長い事例が多いIV型は,平野南東部に分布する.降水強度極大時とその前60分間の降水出現頻度分布から,時間変化型の違いには,降水域の空間スケールや,降水域の移動および発達などの地域性が関わっている可能性があると考えられる.

  • 森田 匡俊, 小野 映介
    2024 年 19 巻 1 号 p. 65-77
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/27
    ジャーナル フリー

    本研究では,国勢調査を用いて1995年から2020年にかけての日本列島における標高別の人口分布の動態を把握した.標高別人口を求めた結果,平均居住標高は1995年以降,一貫して低下傾向にあることがわかった.国勢調査における人口分布の位置精度が向上した2005年以降をみると,平均居住標高が2005年の62.7 mから2020年には58.4 mにまで低下していることや,特に標高40 m以上で人口減少が進む中,標高10 m未満に人口が集中する傾向を把握することができた.2020年時点で,日本列島においては標高10 m未満の低標高地域に人口の約3割に相当する4千万弱の人口が居住していること,全国的にみると低標高地域への人口集中が進む一方で,その傾向には地域差があることも把握できた.都道府県別の標高別人口からは,太平洋ベルト地帯の低標高地域,特に首都圏において人口増加が顕著であること,太平洋ベルト地帯以外の低標高地域においては人口減少が進んでいることがわかった.

  • 畔蒜 和希
    2024 年 19 巻 1 号 p. 78-97
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/27
    ジャーナル フリー

    本稿では,保育労働者によって組織されるオンラインコミュニティに着目し,参加者の職歴や働き方を選択する際の背後にある経験を明らかにすることで,保育労働における多様な働き方の実態について検討した.調査対象者が実践する多様な働き方には,マッチング型ベビーシッター,派遣保育士,託児を個人事業主として請け負う「フリーランス保育士」などが挙げられ,これらを副業・兼業によって実践する事例が多くみられた.多様な働き方が志向される背景には,一般的な正規雇用の保育士としてのキャリアや,保育所での勤務そのものから意識的に距離を置く姿勢が見受けられる.多様な働き方は柔軟性と同時に不安定性も有しており,その実践者は保育労働者全体でみれば少数である.そうした中で,地理的な制約を受けないオンラインコミュニティは,多様な働き方を実践する者どうしの交流の場となっており,自らの経験や知識を共有するための空間として機能している.

  • 芥川 穂高, 矢部 直人, 埴淵 知哉
    2024 年 19 巻 1 号 p. 98-113
    発行日: 2024/03/15
    公開日: 2024/03/16
    ジャーナル フリー

    電子商取引(EC)は,日常の購買行動に変革を起こしている.本研究では,日本国内の食品EC利用者の特徴について,主に空間的拡散仮説と効率性仮説という地理的な側面から検討した.空間的拡散仮説は都市部から地方へEC利用が拡散するという仮説であり,効率性仮説は実店舗へのアクセスが不便な地域でEC利用が多くなるという仮説である.χ二乗検定による全国スケールの分析では,食品ECの利用に有意な地域差がみられ,首都圏での利用が多かった.個人と地域の二つのレベルを考慮したマルチレベル分析の結果,食品ECの利用に関する地域差は,人口やネットスーパーの数といった地域レベルの変数と関係していることが分かった.このことからEC利用の地理的側面に関わる二つの仮説のうち,空間的拡散仮説が支持される.また,東京特別区スケールの分析では,食品ECの高頻度での利用について,都心・副都心の区とそれ以外の区で差があることが分かった.

地理紀行
2023年度サマースクール
調査報告
  • 宇佐見 星弥
    2024 年 19 巻 1 号 p. 132-144
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/02
    ジャーナル フリー

    国土地理院が日本全国の時系列干渉SAR画像(TS-InSAR画像)を公開したことにより,活動性地すべり地形(ALs)の所在の把握が期待されている.本稿では,TS-InSAR画像に基づき作成した「北海道の活動性地すべり地形データマップ(HoLsDM v1.2)」の概要とそのALs検出精度について述べる.HoLsDM v1.2により,道内に少なくとも345カ所のALsが存在し,その分布は地域性を持つことが示された.一方,HoLsDM v1.2では面積が2.43 ha未満のALs,地すべりの変動方向とALOS-2の衛星視線方向とのなす角が大きいALs,地すべり地内の変動量の差が11.8 cm以上のALsを検出できていない可能性が示された.しかし,これらの特性を理解して活用すれば,HoLsDM v1.2は地すべり災害リスクの評価や地すべりが発生する地形・地質条件の理解促進に有効だと考えられる.

  • 金尾 僚泰, 芝田 篤紀
    2024 年 19 巻 1 号 p. 145-164
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/02
    ジャーナル フリー

    本研究では,水害ハザードマップの精度検証を奈良県王寺町を対象に行い,その検証結果が対象地域に与える影響を考察した.精度検証では既存の浸水想定区域図に使用された地盤高データを差し替え,新しい浸水想定区域図を作成したのち,比較検討した.結果,全体的には差異が少なく,局所的には細かい浸水想定の差異が見られた箇所がいくつか確認できた.差異が生じた箇所は地盤高の変化が急激になっている場所と対応しており,これが差異の大きな要因であると考えられる.また,差異が小さいにもかかわらず浸水想定のランクが変化している箇所も確認できた.このうち,ランクが下方修正された箇所は重大な水害リスクをはらんでいる可能性が示唆された.

  • 于 燕楠
    2024 年 19 巻 1 号 p. 165-177
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/02
    ジャーナル フリー

    コロナ禍収束後の観光回復に向けた課題では,インバウンドを地方部に拡散させることが重要である.本報告は,インバウンドの地方訪問の実態に着目し,訪日外国人のうちツアー客が占める割合が全国2位の富山県を訪れる訪日旅行商品の訪問パターンを調査した.富山県を訪れた2019年の台湾・中国発の旅行商品計592件を取り上げ,ネットワーク分析に加え,旅行業者9社へのインタビュー調査を行った.台湾と中国の旅行商品を比較した結果,東京と大阪を繋ぐ「ゴールデンルート」の有無と客層設定の差が明瞭で,訪問パターンの形成に需要側の要因のみならず,旅行業者の経営的要因も影響したことが示された.

  • 西山 幸志
    2024 年 19 巻 1 号 p. 178-191
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/28
    ジャーナル フリー

    伊豆諸島式根島には3カ所の裸地が存在し,その周縁ではクロマツの偏形樹やオオシマハイネズ,イソギクなどの海浜植物が生育する独特な植生景観が見られる.本研究では,式根島における裸地の分布およびその成立環境について明らかにすることを目的として調査を行った.調査の結果から式根島の3カ所の裸地は島内でも比較的標高が高い島西部の海食崖の上方の緩斜面に分布しており,裸地周縁ではクロマツをはじめとした矮性低木や先駆植物が確認された.このことから,式根島の裸地では地形的制約のために強風が吹くことで植物の定着および生育が妨げられていることが示された.また,裸地周縁の露頭ではシルトや円礫を含む層が見られ,裸地の地表では鞍部でシルトや砂が堆積していることが確認された.このことから,降雨時に一時的な水流や池が発生することで,表層の土砂や植物の種子が流しだされ,植物の定着が困難となることが推定された.

  • 栁田 裕紀
    2024 年 19 巻 1 号 p. 192-207
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,全国学力・学習状況調査の市町村別平均正答率を地域の学力ととらえ,埼玉県を事例に学力の地域差に関連すると思われる地域属性について,固定効果モデルを用いて,国語と数学の科目別に最小二乗法(OLS),地理的加重回帰(GWR),マルチスケール地理的加重回帰(MGWR)によって分析した.ステップワイズ法による変数選択の結果,国語は6変数,数学は8変数が選択された.選択された変数でOLS,GWR,MGWRの3種類の分析を行ったところ,国語・数学ともにMGWRの結果が最も高い適合度を示した.両科目ともにMGWRのバンド幅が広く,空間的異質性が見られなかった変数は,「家で自分で計画を立てて勉強している割合」と「人口1人当たりの図書貸し出し冊数」の2つである.一方,国語では4変数で,数学では3変数で,それぞれMGWRのバンド幅が狭く,埼玉県内の地域によって学力との関係が異なる空間的異質性が示された.

  • 滕 媛媛, 埴淵 知哉, 中谷 友樹
    2024 年 19 巻 1 号 p. 208-225
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,在日外国人の日本への定住意向と経済的統合(学歴・収入・就労状況)との関連,および新型コロナの流行がその定住意向に与えた影響について検討したものである.分析の結果,定住意向と経済的統合との関連は必ずしも明確ではなく,また,来日の目的によっても異なっていた.移住志向の人の場合は,雇用形態や賃金よりも,就労していること自体のほうが定住意向の形成に重要な要素となっていた.出稼ぎ志向の人の場合,学歴,従業上の地位と収入の効果は確認されなかった.また,約半数の回答者はコロナ禍で収入が減少したと報告したものの,定住意向が弱くなった人は3割未満であった.移住は災害などの緊急事態への対処戦略の一つであるが,収入や資産に乏しい外国人や,ホスト社会に多くの投資をしている外国人にとっては,帰還や再移住の選択肢が制限される可能性がある.

  • 笠原 茂樹
    2024 年 19 巻 1 号 p. 226-252
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,1990年以降の陶磁器需要減少で産地縮小が顕在化する美濃焼産地を対象に,同産地の抱える問題についての窯元・陶器商へのアンケート調査結果を組合別に分析し,組合・業種間での認識の差異から同産地の産地振興上の課題を明らかにした.明治期以降,同産地は地区・組合・企業により製品を専門化し,産地内競合を回避し発展してきた.このため各地区では窯元の生産規模や陶器商の持つ機能に地域性が生じたが,近年の産地縮小で各地区の地域性は薄れつつある.しかし,同産地が抱える問題への認識は,地区・組合で明瞭な地域差がある.現在,同産地では窯元・陶器商を含む産地全体を巻き込んだ産地振興の動きがあるが,産地が抱える問題の相互理解は進んでいない.そのため,美濃焼産地の維持・存続には,高度な分業体制と地域分化によって問題認識に差異が生じていることを念頭に置き,産地内各組合・企業が連携し対応を図る必要性があることが判明した.

  • 新井 祥穂
    2024 年 19 巻 1 号 p. 253-265
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/28
    ジャーナル フリー

    2020年農林業センサスは,農業の基本的要素(経営耕地面積,農業経営体,農業労働力)が,全国で激しく減少したことを示した.この状況は,農地集積主体が形成されなければ,農業の後退を招く.本稿は,基本的要素の減少が目立つ沖縄農業が,後退局面にあるかを判断することを目的に,沖縄農業の長期的変化を本島部と離島部とに分けて分析した.その結果,従来から農業の縮小が指摘されてきた本島部のみならず,復帰後の沖縄農業の拠点となっていた離島部においても,基本的要素における減少が示された.農業構造をみても,上層経営体の成長が顕著ではなく,沖縄農業は後退局面にあることが確認された.これは,多くの農業労働力を抱える世代が農業からの引退時期にさしかかった構造的な要因と,2010年代半ば以降の好況局面に作用された労働市場の逼迫が,関係していると思われる.

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