抄録
社会科の一分野として行われてきた中学校の地理教育を教科の枠組みの中でみた場合,とくに歴史的分野との関係,そして世界の扱いが問題になろう.この点を踏まえ,本稿では,地理的分野と歴史的分野との関連,両分野における世界の扱いが,学習指導要領においてどのように変化してきたのかを分析し,今後の地理教育のあり方について検討した.歴史的分野は,一貫して地理的条件との関連を重視し,その傾向が強まっているのに対して,地理的分野は,現代の地理的事象に対象を限り,歴史的要素を排除する方向にある.また,歴史的分野は終始日本史中心であったのに対して,地理的分野はこれまで世界と日本とをほぼ同等に扱ってきたのが,国土認識偏重に転じた.しかし,「日本理解の背景」という世界の位置づけは改善すべきであり,地域の歴史的背景を吹く待て世界地誌を充実させるべきである.世界については,分野の枠を超えた地歴融合的な扱いも有効であると考えられる.