近年「食」に関する関心が高まっている.農場で,また市場で,あるいはレストランや家庭において新たなタイプの「食」が出現する一方,グローバル化するフードシステムのなかでいかにして安全性を保つかが重要な政策課題ともなっている.こうした複雑な状況は,どのように理解できるだろうか.とりわけ欧米諸国のこうした問題に取り組んでいる食料の地理学が,おそらく有益な示唆を与えるものと思われる.食料の地理学はさまざまな分野間の議論の舞台となっており,そこに参加するためには,また食料生産から消費にかかわる日本の状況を理解するためにも,そこで鍵となっている概念や方法論を共有することが重要であると考える.本稿では,こうした食料の地理学にかかわる近年のいくつかの動向について,具体的に,フードレジーム,グローバル商品連鎖,フードデザート,フードネットワーク,アクターネットワーク理論,コンヴァンシオン経済学などのキーワードでとらえられる一連の研究を紹介し,それぞれの理論的特徴と,日本の文脈への援用可能性について検討する.その際,それらの研究が展開されてきた学術的な背景のみならず,欧米と日本との社会的な文脈の差異にも注目した.結局のところ,さらなる国際的・学術的な議論とともに,国際比較を念頭においた実証研究がさらに必要である.
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