2025 年 20 巻 1 号 p. 176-188
本研究は,中国の自然環境保全システムの中核を担ってきた国家級自然保護区の空間分布特性を,地理的・社会経済的要因に着目して考察した.国家級自然保護区の類型別・地域別・標高地形別の分布特性を分析した結果,以下の点が明らかになった.第1に,保護区の数からみると地域間で均等に分布しているものの,地域別の合計面積は西北地区と西南地区のほうが広い.第2に,保護区の数と面積規模は標高によって異なり,標高差が大きい地形境界線付近に保護区が集中する傾向がみられる.第3に,国家級自然保護区の指定と観光開発は,黒河・騰衝線で区分される地域経済水準と密接に関連しており,経済発展の著しい南東部において保護区指定と観光開発が進んでいることがわかった.これらの結果から,中国における国家級自然保護区の分布は,自然的要因に加え,社会経済的要因にも制限されていることが明らかになった.