学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
原著
急性期脳卒中患者における早期経腸栄養開始プロトコル導入の効果と栄養管理の課題
小澤 さおり野﨑 礼史平野 夏弥橋本 優奈
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2022 年 4 巻 3 号 p. 125-131

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Abstract

【目的】急性期脳卒中患者の栄養管理における,当院使用の早期経腸栄養開始プロトコル導入による効果と課題を検討した.【対象および方法】経腸栄養を開始した脳卒中患者47名(本プロトコル導入前22名,導入後25名)について,絶食日数,排便状況,在院日数,経口摂取移行率,modified Rankin Scale(以下,mRSと略),入院時Glasgow Coma Scale,Geriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRIと略)低下率について後方視的に比較検討した.【結果】絶食日数は短縮し排便状況は改善した.経口摂取移行率は増加,在院日数は短縮し,mRSは改善した.GNRI低下率に変化はなかった.本プロトコル導入後に栄養投与量がTotal Energy Expenditure(以下,TEEと略)に満たない患者は68%であり,このうち経口摂取を併用していた患者は71%だった.【結論】本プロトコル導入は,経腸栄養管理を標準化でき,絶食日数や排便状況,経口摂取移行率で改善がみられた.経口摂取移行期ではTEE不足になる傾向があり,積極的な経腸栄養併用と包括的個別栄養管理の必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to evaluate the effects and challenges of a protocol for early initiation of enteral nutrition in management of patients with acute stroke.

Subjects and Methods: The subjects were 47 patients with stroke who began enteral nutrition before (n = 22) and after (n = 25) the protocol was introduced. The number of fasting days, defecation status, length of hospital stay, rate of transition to oral absorption, modified Rankin Scale (mRS), Glasgow Coma Scale (GCS) at admission, and rate of Geriatric Nutritional Risk Index (GNRI) reduction were examined retrospectively.

Results: After introduction of the protocol, the number of fasting days and the hospital stay decreased and there were improvements in defecation status, transition rate to oral intake, and mRS, but no change in the GNRI reduction rate. With the new protocol, 68% of patients had less than Total Energy Expenditure (TEE) and 71% of these patients had oral intake.

Conclusion: The introduction of the new protocol standardized enteral nutrition management, reduced the number of fasting days, and improved defecation status and the transition to oral intake. However, TEE tended to be insufficient in the transition period to oral intake, which suggests the need for active enteral nutrition and comprehensive individualized nutritional management.

目的

急性期脳卒中患者は,消化管に問題がなくても意識障害や嚥下障害により経口摂取が困難となることが多く,8.5~29%に経腸栄養が必要になる1).発症早期からの経腸栄養開始が推奨されているが2,3),茨城西南医療センター病院(以下,当院と略)では二次的脳損傷を考慮した鎮静下による呼吸循環管理や,頭蓋内圧亢進症状による嘔吐の懸念から早期経腸栄養開始が躊躇される傾向があった.当院は千葉・埼玉・栃木に隣接し茨城県西部に位置する356床の地域中核病院であり,救命救急センターを有する.脳神経外科入院患者は約600例/年,脳卒中症例は約350例/年である.当院に入院し,経腸栄養になった脳卒中患者の絶食期間は平均1週間以上と長期であった.また,下痢や栄養状態の悪化を呈する患者が多かった.多職種で運用する栄養管理プロトコルは,急性期の早期経腸栄養を達成でき一部の栄養パラメータを優位に改善し,早期経腸栄養開始は水様便を減少させるという報告がある4,5).そこで当院のNutrition Support Team(以下,NSTと略)は,早期経腸栄養開始プロトコルを作成・導入した(図1).本研究の目的は当院で使用されている早期経腸栄養開始プロトコル導入の効果を調査し,急性期脳卒中患者の栄養管理における課題を検討することである.

図1.当院で作成・導入した早期経腸栄養開始プロトコル

対象および方法

対象は2017年4月~2018年10月に当院に入院し,経腸栄養を開始した脳卒中患者47名で,2017年10月の早期経腸栄養開始プロトコル導入前22名と導入後25名である.本プロトコルは入院後すみやかに開始されるよう開始基準を設け,開始できない患者は絶食のまま,絶食期間1週間以上またはBody Mass Index(以下,BMIと略)16 kg/m2未満の患者はGFO®を開始しNSTに報告することとした.経腸栄養開始に問題のない患者は,アイソカル®RTUまたはラコール®NF(半消化態栄養剤1.0 kcal/mL標準組成)を低速の持続投与で開始した.1日毎に栄養量と速度を増加させ,安易に中止されることがないよう投与前の胃内残量やBristol Stool Scaleスコア(以下,BSスコアと略)を使用し6),中止基準を明記した.急性期ないし初期の72~96時間以内では,20~25 kcal/kg/日を超える外因性エネルギー供給は過剰栄養になる可能性がある7).本プロトコルは体重40~80 kgの急性期患者に,必要最小限度から上限の範囲内で栄養を保証できる500~900 kcal/日までの段階設定とし,その後は患者の個別性に合わせた目標エネルギーを検討できるようにした.目標エネルギーはHarris-Benedictの式より算出したTotal Energy Expenditure(以下,TEEと略)とした.年齢,性別,脳卒中病型,絶食日数,排便状況,在院日数,経口摂取移行率,退院時modified Rankin Scale(以下,mRSと略),入院時Glasgow Coma Scale(以下,GCSと略),退院時Geriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRIと略)低下率について8),後方視的に比較検討した.排便状況については経腸栄養開始3日目,7日目,14日目のBSスコアと1日あたりの排便回数を評価し,排便がない場合は前後1日のBSスコアと排便回数で評価した.各群の比較にはχ2検定,またはF検定により等分散性の有無を確認したのち対応のないt検定を用いた.本研究は茨城西南医療センター病院倫理委員会の承認を得た.

結果

本プロトコル導入前後の患者背景(年齢,性別,病型,入院時GNRI)に有意差はなかった(表1).本プロトコル導入後当院に入院した脳卒中患者のうち,経腸栄養になった患者すべてにプロトコルが適用され完遂例は72%であった(表2).NSTに依頼になった絶食期間1週間以上またはBMI 16 kg/m2未満の患者においては,NSTによる適切な栄養管理介入が継続され,経腸栄養開始後の投与方法や対応について本プロトコルが活用された.停滞理由は経口摂取併用,中断理由は下痢(クロストリディオイデス・ディフィシル感染症)であり,その他の消化管イベントはなかった.絶食日数は有意に短縮(平均2.1日,p = 0.047)した(表3).GFO®使用率は増加し(p = 0.017),BSスコアに有意差はなかったが(p = 0.108)本プロトコル導入後では低下傾向であった(表3)(図2a).また,経口摂取を併用した患者と経腸栄養のみの患者で排便状況に有意差はなく(表4),BSスコア7の割合は経腸栄養開始後14日目で有意に低下した(図2b).在院日数は導入前79.0日,導入後58.6日と有意に短縮し(p = 0.029),退院時mRSも有意に改善した(p < 0.05)(表5).経口摂取移行率は41.8%有意に増加したが(p < 0.05),GNRI低下率に変化は見られなかった(p = 0.392)(表5).本プロトコル導入後に経腸栄養開始7日目の栄養投与量がTEEに満たない患者が68%で,このうち経口摂取を併用していた患者は71%であった(図3).本プロトコル導入後に絶食期間7日以上となった患者では入院時GCSスコアが低く(表6),出血性病変が70%を占め,手術症例は60%であった(表7).脳出血では血腫量が多い傾向にあり,くも膜下出血ではGradeが高かった(表7).

表1. 患者背景,mean ± SDまたは患者数,GNRI=〔14.89×血清アルブミン(g/dL)〕+〔47.1 ×(現体重kg/理想体重kg)〕
導入前群(n = 22) 導入後群(n = 25) p
脳卒中病型(脳梗塞/脳出血/くも膜下出血) 14/3/5 11/9/5 0.240
年齢(歳) 77.0 ± 9.2 72.8 ± 10.2 0.072
性別(男:女) 11:11 14:11 0.679
入院時GNRI 92.1 ± 10.0 95.6 ± 7.9 0.095

表2. 本プロトコル導入患者と経過,患者数(%)
脳卒中患者 381
 経腸栄養患者 25(6.6)
  プロトコル導入 25(100)
   完遂 18(72)
   停滞 6(24)
   中断 1(4)

表3. 絶食日数と排便状況,mean ± SD
導入前群(n = 22) 導入後群(n = 25) p
絶食日数(日) 8.4 ± 5.1 6.3 ± 3.0 0.047
BSスコア 5.5 ± 2.0 4.4 ± 2.4 0.108
排便回数(回/日) 1.6 ± 1.4 1.1 ± 0.7 0.093
GFO®使用率(%) 13.6 52 0.017
図2.

a:本プロトコル導入前後でのBristol Stool Scaleスコアの比較

b:Bristol Stool Scaleスコア 7の割合,*:p < 0.05

表4. 経腸栄養開始14日以内における経口摂取併用と非併用の排便状況の比較,mean ± SD
併用群(n = 16) 非併用群(n = 9) p
BSスコア(7の割合%)
 3日目 6.3 ± 0.9(56) 5.9 ± 0.99(30) 0.156
 7日目 6.2 ± 0.44(11) 6.0 ± 0.66(20) 0.29
 14日目 5.0 ± 1.15(0) 5.8 ± 0.71(10) 0.06
排便回数
 3日目 1.2 ± 1.2 1.5 ± 0.9 0.3
 7日目 0.9 ± 0.9 1.1 ± 1.4 0.367
 14日目 1.0 ± 0.8 1.4 ± 0.5 0.139

表5. 栄養評価と転帰,mean ± SD
導入前群(n = 22) 導入後群(n = 25) p
経口摂取移行率(%) 18.2 60 0.003
経口摂取移行日数(日) 20.5 ± 14.8 19.6 ± 9.5 0.444
GNRI低下率(%) 15.1 ± 9.6 15.8 ± 7.0 0.392
入院時mRS 4.9 ± 0.3 4.8 ± 0.6 0.312
退院時mRS 5 ± 0.4 4.4 ± 0.7 0.0003
在院日数(日) 79.0 ± 40.3 58.6 ± 31.4 0.029
図3.導入後群におけるTEEと栄養経路
表6. 導入後群における絶食日数7日未満と7日以上の比較,mean ± SDまたは患者数
絶食7日未満群(n = 15) 絶食7日以上群(n = 10) p
脳卒中病型(脳梗塞/脳出血/くも膜下出血) 9/3/3 3/5/2 0.182
年齢(歳) 74.0 ± 9.3 70.1 ± 11.9 0.187
性別(男:女) 7:8 4:6 0.377
GCS 12.1 ± 2.0 9.1 ± 2.4 0.001
GNRI低下率(%) 14.1 ± 7.6 17.3 ± 5.7 0.14
入院時mRS 4.8 ± 0.8 4.9 ± 0.3 0.32
退院時mRS 4.2 ± 0.7 4.6 ± 0.7 0.08

表7. 導入後群における絶食日数7日未満と7日以上の病型分類の比較,mean ± SDまたは患者数
絶食7日未満群(n = 15) 絶食7日以上群(n = 10)
脳梗塞(%) 9(60) 3(30)
 病型(アテローム/心原性) 5(56)/4(44) 1(33)/2(67)
脳出血(%) 3(20) 5(50)
 部位(視床/被殻/皮質下) 2/1/0 2/1/2
 血腫量(mL) 21.7 ± 10.4 39.0 ± 23.3
くも膜下出血(%) 3(20) 2(20)
 grade(hunt&kosnik) I,II,II IV,V
手術 4(26) 6(60)
 開頭 2(13) 4(40)
 血管内 2(13) 0(0)
 脳室ドレナージ 0(0) 2(20)
 輸血・血液製剤の使用 0(0) 0(0)

考察

本研究により我々が導入した早期経腸栄養開始プロトコルは,GNRI低下率に改善はなかったものの,絶食日数や排便状況,在院日数,経口摂取移行率,mRSに改善傾向がみられた.

本プロトコル導入前の絶食期間は平均8.4日,導入後は平均6.3日であり2.1日短縮した.日本版重症患者栄養ガイドラインでは可及的に24時間以内,遅くとも48時間以内の経腸栄養開始を推奨しており3),ESPENガイドラインでは72時間以内1),脳卒中治療ガイドラインでは発症早期から経腸栄養を開始するよう勧められている2).急性期脳卒中において経腸栄養が必要になる患者は,意識障害・嚥下機能障害をきたしていることが多く,絶食期間は出血性病変で延長傾向にある9).また,急性期脳卒中患者の25%が経過中に神経症状が悪化し,そのうち脳卒中の進行によるものが3分の1,脳浮腫によるものが3分の1を占める10).本研究における絶食期間延長症例では,出血性病変や開頭術後の嘔気や脳浮腫があり,栄養開始自体が躊躇されたり実際に嘔気が見られるなどの理由で開始が困難であった.本研究では脳卒中病型や治療方法の違いによる検討をしていないが,プロトコル開始基準に脳出血の重症度,くも膜下出血のGrade,手術の有無を加えることでプロトコル適応患者選定の標準化を図り,プロトコル非該当患者の栄養管理対策について検討していく必要があると考える.

本プロトコル導入によって重度の下痢が改善したのは,入院後早期に経腸栄養を検討できるようになり絶食期間が短縮し腸管機能が維持されたこと5),経腸ポンプ使用が徹底されて適切に速度調整が図れたこと11)によるものと考えられる.絶食期間1週間以上またはBMI 16 kg/m2未満の患者では,初回投与にGFO®(グルタミン含有製剤)が使用されたことで小腸粘膜透過性の正常化が図られたため下痢が改善した一つの要因と考える12).重度の下痢が改善した結果,頻回の更衣や寝具交換,皮膚保清と処置が減少し,看護師の排泄援助に関わる業務負担軽減が期待できる.本プロトコル導入後経口摂取移行率が上昇しており,排便状況を調査した経腸栄養開始14日以内に経口摂取を併用していた患者も含まれている.経口摂取併用患者と非併用患者で排便状況に有意差はなかったが,経腸栄養開始14日目のBSスコアでは非併用群に7の割合がやや多い傾向がみられており,重度の下痢改善には経口摂取移行の関与も考えられる.

脳卒中急性期では治療と並行して早期から退院支援がなされ,在院日数を短縮させることによってActivities of Daily Living(以下,ADLと略)・Quality of Life(QOL)の向上が期待できる13).また多職種による早期リハビリテーション治療は運動学習効果を高め,摂食・嚥下およびADLが改善するケースが多く14),当院においても早期から退院支援介入とリハビリテーション治療を実施している.本プロトコル導入前後に退院支援・リハビリテーションの実施体制に変更はなく,本プロトコル導入によってmRSが改善し在院日数が短縮したものとも考えられるが,本研究では病型が異なり症例数も不十分である.

嚥下障害患者に対する栄養療法は,嚥下障害の改善を示し臨床転帰を改善するため15),本プロトコル導入が栄養療法の一環となり経口摂取移行率が上昇したものと考えた.しかしGNRI低下率に変化はなく,栄養状の改善には結びついていなかった.本研究では急性期極期以後の経腸栄養開始7日目に栄養投与量がTEEに満たない患者は68%存在し,そのうち経口摂取を併用していた患者は71%,経腸栄養のみの患者は29%であった.GNRI低下率を改善できなかった要因として,個別栄養管理に問題があったことが考えられる.栄養投与量がTEEに満たない患者は,急性期極期を過ぎIntensive Care Unit(ICU)から一般病棟に転棟後,活動量が増えても900~1,200 kcal/日にとどめられていた.また経口摂取移行期は経鼻胃管を留置したまま直接嚥下訓練が行われ,経鼻胃管の違和感を懸念して抜去を急ぐ傾向にあった.脳卒中リハビリテーション実施患者において,嚥下障害は低栄養の危険因子であり,臨床ケアの重要性が指摘されている16).患者の栄養状態や長期予後を考えれば積極的に経腸栄養を併用し栄養状態の改善を図ること17)も検討されるべきと考えた.

本プロトコルは早期経腸栄養開始を主な目的として作成されており,プロトコル完遂後の栄養管理は各診療科チームの判断に委ねられている.急性期脳卒中患者における栄養管理では,生体侵襲反応,活動係数,適切な栄養経路および栄養剤の選択などについて患者の個別性に合わせて検討する必要があり18),急性期極期から回復期にむけた包括的アプローチが重要である.急性期脳卒中患者の栄養管理ではプロトコル完遂後の個別栄養管理を強化するとともに,急性期極期を過ぎた段階から一般病棟で利用可能な経腸栄養管理プロトコルを作成することで標準化を図り,回復期にむけて適切な栄養量とタンパク質量を確保していくことが今後の課題である19)

GNRIは高齢者の栄養評価に有用であるといわれており20),計算式には血清アルブミン値が使用される8).本研究で血清アルブミン値に影響を及ぼす輸血や血液製剤を使用した患者はいなかったが,50歳代の患者が対象に含まれており,GNRI低下率に影響があった可能性がある.

結論

急性期脳卒中患者における早期経腸栄養開始プロトコル導入は,経腸栄養管理を標準化でき,絶食日数や排便状況,経口摂取移行率で改善がみられた.経口摂取移行期では栄養投与量不足になる傾向があり,積極的な経腸栄養併用と包括的個別栄養管理の必要性が示唆された.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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