学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
臨床経験
管理栄養士の栄養サポート強化による誤嚥性肺炎患者の在院日数短縮効果
藤野 滉平西條 豪竹谷 耕太堂前 理紗子竹内 裕貴安元 浩司森 大輔良本 佳代子
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2023 年 5 巻 1 号 p. 29-35

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Abstract

【目的】管理栄養士による栄養サポート強化の効果を,誤嚥性肺炎患者を対象として検討した.

【対象および方法】誤嚥性肺炎にて入院した患者を対象に,栄養サポート強化前後の期間で強化前群(48例),強化後群(52例)に分け,後ろ向き観察研究を行った.主要評価項目は在院日数とした.

【結果】強化後群において,管理栄養士の初回介入までの日数が短縮し,開始食の内容や食事内容の調整を始めとした食事内容変更提案の承認回数が増加した.その結果,経口摂取開始,および経口摂取での目標たんぱく質充足までの期間は短縮し,在院日数は短縮した(強化前群:20日,強化後群:16日,p = 0.028).多変量解析の結果,管理栄養士による栄養サポート強化は在院日数に関連する独立した要因であった(オッズ比:0.26,95%信頼区間:0.08–0.79,p = 0.017).

【結論】管理栄養士による栄養サポート強化は,誤嚥性肺炎患者の在院日数を短縮する可能性がある.

目的

本邦において,早期栄養介入管理加算,個別栄養食事管理加算1)などの診療報酬が新設,改定されており,管理栄養士による栄養サポートが重要視されてきている.しかし,医療法における管理栄養士の配置義務は病床数100床以上に1人のみであり2),病床数500~999床の病院では管理栄養士1名に対しての病床数は平均104.46床,栄養管理業務を行う時間は平均4.22時間/日3)と報告されていることから,多くの病院で管理栄養士の栄養サポートに費やす時間は不足していると考えられる.当院では2016年度より管理栄養士の増員,および業務整理を行い,栄養サポートを強化してきた.今回,その効果を評価すべく,栄養サポート強化と誤嚥性肺炎患者の臨床転帰との関連について検証した.

対象および方法

1. 対象患者

誤嚥性肺炎の診断にて大阪労災病院へ入院し,主治医からの嚥下機能評価および訓練指示により言語聴覚士による嚥下リハビリテーションが実施された患者を対象とした後ろ向き観察研究を実施した.除外基準は死亡退院とした.栄養サポートを強化する以前の2015年4月~2016年3月に入院した48例を強化前群,管理栄養士の増員,業務整理を行い現体制となった2018年5月~2019年4月に入院した52例を強化後群と割り付けた(図1).

図1.患者割り付け

2. 栄養サポート強化

管理栄養士増員の結果,病棟栄養管理業務を担当する管理栄養士は5人から7人と増加し,1人あたりの病床数は135床から97床となった.また,給食管理業務の完全委託化,書類作成業務の効率化等の業務整理を進めた結果,入院患者のアセスメント・プランニング・介入・モニタリング,栄養管理計画書の作成,ベッドサイドでの栄養指導,病棟カンファレンスなどの栄養管理業務時間は,1人あたり3.6時間/日から7.0時間/日へと増加した.増員と業務整理の結果,栄養管理部全体の栄養管理業務時間は,18.0時間/日から49.0時間/日の増加となった(表1).また,管理栄養士の介入方法について2016年度以前は介入基準が明確ではなかった.そのため,2016年度以降は介入基準を栄養スクリーニングにて抽出された患者や,絶食管理,周術期などの栄養障害に陥るリスクを有した患者と明確化し,入院時から退院時まで栄養サポートを行う方法へと変更を行った.

表1. 病棟担当管理栄養士の人数および栄養管理業務時間
強化前群(~2016年4月) 強化後群(2018年5月~)
許可病床数 678床 678床
病棟担当管理栄養士数 5人 7人
管理栄養士1人当たりの病床数 135床 97床
管理栄養士1人当たりの栄養管理業務時間(1日あたり) 3.6時間 7.0時間
栄養管理部全体の栄養管理業務時間(1日あたり) 18.0時間 49.0時間

3. 観察項目

患者の基本情報として,年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index(以下,BMIと略),Geriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRIと略)4),血清アルブミン値,血清C反応性蛋白,白血球数,A-DROP(肺炎重症度分類)5),入院前の障害高齢者日常生活自立度6),Charlson併存疾患指数(Charlson Comorbidity Index;以下,CCIと略)7),認知症,誤嚥性肺炎の既往を調査した.

入院経過として,輸液および抗生剤の投与期間,目標エネルギー・たんぱく質量,理学療法士の介入,リハビリテーション開始時と終了時の機能的自立度評価8),退院時のFunctional Oral Intake Scale(以下,FOISと略)9)を調査した.なお,目標エネルギー・たんぱく質量については主治医が指示した栄養量,もしくは管理栄養士が設定した.

管理栄養士の介入状況として,管理栄養士の初回介入までの日数,管理栄養士によるカルテ記事記載回数,管理栄養士による食事内容変更提案の承認回数,主治医に対する管理栄養士の提案内容,入院後7日間の栄養補助食品使用量について調査した.

主要評価項目は在院日数とした.退院基準は栄養サポート強化前後で変更はなく,患者個々の治療状況やADLなどから総合的に主治医が判断した.また,患者帰結として経口摂取開始までの期間,経口摂取での目標エネルギー・たんぱく質充足までの期間,入院前に居住していた施設以外への退院および退院調整を開始した日から実際に退院するまでの期間を調査した.なお,経口摂取での目標エネルギー・たんぱく質摂取充足までの期間については,目標栄養量の80%を充足した日を充足日と定義した.

4. 解析方法

はじめに,強化前群,強化後群での2群間比較を実施した.名義変数についてはχ2乗検定,またはFisherの正確確率検定を用い,連続変数についてはMann-WhitneyのU検定を用いて解析を行った.また,長期入院のリスク因子を明確にすべく,在院日数の中央値である18日を超えて入院するリスク評価を単変量および多変量ロジスティック解析にて解析した.単変量解析に含まれる因子は臨床的に重要であると考えられるものとし,多変量解析に含まれる因子は単変量解析の結果(p < 0.20)から選択した.

統計解析にはEZR ver.1.4010)を用い,有意水準はp < 0.05とした.

5. 倫理審査

本研究はヒトを対象とした研究であり,大阪労災病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2020-53).所定の手続きに則り,後方視的研究という研究特性であるため,大阪労災病院ホームページに臨床研究課題として情報公開し,オプトアウトの権利を保障した.

結果

1. 背景

2群間比較の結果,CCIのみ強化後群において有意に高値であった(強化前群:2,強化後群:3,p = 0.013)(表2).

表2. 対象患者の基本的属性と背景因子,および入院の経過
全体(N = 100) 強化前群(N = 48) 強化後群(N = 52) p
年齢,歳 84[77–89] 84[75–89] 85[80–90] 0.17
性別,女性 34(34) 15(31) 19(36) 0.73
身長,cm 158.0[150.0–162.7] 159.0[151.0–165.0] 157.3[149.4–162.0] 0.61
体重,kg 46.0[40.5–53.1] 45.7[41.0–53.8] 46.0[40.3–51.2] 0.67
BMI,kg/m2 18.9[16.7–22.2] 20.0[16.7–22.8] 18.5[16.7–21.5] 0.57
標準体重,kg 54.9[49.5–58.2] 55.6[50.1–59.8] 54.4[49.1–57.7] 0.61
GNRI 81[72–89] 81[73–89] 79[72–86] 0.21
血清アルブミン値,g/dL 2.9[2.6–3.4] 3.0[2.6–3.6] 2.9[2.6–3.2] 0.22
血清C反応性蛋白,mg/dL 6.34[2.51–11.62] 5.26[2.76–13.11] 7.18[2.40–10.37] 0.72
白血球数,/μL 10,680[8,050–13,200] 10,450[7,975–12,650] 10,800[8,650–14,100] 0.46
A–DROP 2[2–3] 3[2–3] 3[2–3] 0.19
障害高齢者の日常生活自立度 0.17
 J 14(14) 4(8) 10(19)
 A 11(11) 6(12) 5(9)
 B 30(31) 14(29) 16(30)
 C 40(42) 23(47) 17(32)
CCI 3[1–4] 2[1–3] 3[2–4] 0.013*
認知症 46(46) 19(65) 27(51) 0.30
誤嚥性肺炎の既往 25(25) 8(16) 17(32) 0.11
輸液投与期間,日 7(4–13) 10[4–16] 6[4–11] 0.19
抗生剤投与期間,日 10(8–13) 10[8–14] 10[8–12] 0.80
目標エネルギー量,kcal/標準体重/日 28[26–29] 28[26–30] 29[26–30] 0.81
目標たんぱく質量,g/標準体重/日 1.1[0.9–1.2] 1.2[1.0–1.3] 1.1[1.0–1.2] 0.54
理学療法士介入 74(74) 34(70) 40(76) 0.64
リハビリテーション開始時FIM 運動 19[13–47] 18[13–40] 22[13–51] 0.75
               認知 23[13–31] 24[15–32] 22[10–31] 0.27
               合計 46[30–75] 48[31–69] 46[24–76] 0.91
リハビリテーション終了時FIM 運動 34[13–58] 32[16–57] 38[13–60] 0.90
               認知 26[13–32] 26[17–32] 25[11–31] 0.39
               合計 61[31–89] 59[35–87] 66[28–91] 0.69
FIM利得 2[0–14] 3[0–13] 1[0–14] 0.66
FIM効率 0.160[0.00–0.907] 0.160[0.00–0.838] 0.161[0.00–0.961] 0.97
退院時FOIS 0.69
 level 1 10(10) 4(8) 6(11)
 level 2 2(2) 1(2) 1(1)
 level 3 4(4) 2(4) 2(3)
 level 4 13(13) 7(14) 6(11)
 level 5 29(29) 14(29) 15(28)
 level 6 25(25) 9(18) 16(30)
 level 7 17(17) 11(22) 6(11)

中央値[四分位範囲],症例数(%)

*p < 0.05

A–DROP,肺炎重症度分類;BMI,Body Mass Index

CCI,Charlson併存疾患指数;FIM,機能的自立度評価

FOIS,Functional Oral Intake Scale;GNRI,Geriatric Nutritional Risk Index

2. 管理栄養士の介入状況

管理栄養士の初回介入までの日数は強化後群において有意に短縮し(強化前群:6日,強化後群:2日,p < 0.001),管理栄養士のカルテ記事記載回数(強化前群:2回,強化後群:7回,p < 0.001),管理栄養士による食事内容変更提案の承認回数(強化前群:2回,強化後群:4回,p < 0.001),入院後7日間の栄養補助食品使用量(強化前群:0個,強化後群:8個,p < 0.001)は強化後群において有意に増加した(表3).また,主治医に対する管理栄養士の提案内容を図2に示す.

表3. 管理栄養士の介入状況
全体(N = 100) 強化前群(N = 48) 強化後群(N = 52) p
管理栄養士の初回介入までの日数,日 3[2–5] 6[3–10] 2[2–3] <0.001*
管理栄養士のカルテ記事記載回数,回 4[2–8] 2[1–5] 7[4–12] <0.001*
管理栄養士による食事内容変更提案の承認回数,回 2[1–5] 2[1–4] 4[3–6] <0.001*
入院後7日間の栄養補助食品使用量,個 0[0–9] 0[0–8] 8[1–13] <0.001*

中央値[四分位範囲]

*p < 0.05

図2.主治医に対する管理栄養士の提案内容

3. 患者帰結

主要評価項目である在院日数は強化後群において有意に短縮していた(強化前群:20日,強化後群:16日,p = 0.028).また,経口摂取開始までの期間(強化前群:4日,強化後群:3日,p = 0.006),経口摂取での目標たんぱく質充足までの期間(強化前群:7日,強化後群:5日,p = 0.027)についても強化後群において有意に短縮していた.入院前居住施設以外への退院に有意差はなく(強化前群:16人(33%),強化後群:12人(23%),p = 0.36),入院前居住施設以外へ退院した患者の退院調整を開始した日から実際に退院するまでの期間についても有意差はなかった(強化前群:8日,強化後群15日,p = 0.26)(表4).

表4. 対象患者の帰結
全体(N = 100) 強化前群(N = 48) 強化後群(N = 52) p
在院日数,日 18[12–27] 20[14–28] 16[12–24] 0.028*
経口摂取開始までの期間,日 3[2–5] 4[2–6] 3[2–3] 0.006*
目標エネルギー充足までの期間,日 5[4–8] 6[5–10] 5[3–7] 0.054**
目標たんぱく質充足までの期間,日 6[4–11] 7[5–15] 5[4–7] 0.027*
入院前居住施設以外への退院 28(28) 16(33) 12(23) 0.36
退院調整を開始した日から実際に退院するまでの期間,日 10[4–18] 8[4–14] 15[8–22] 0.26

中央値[四分位範囲],症例数(%)

*p < 0.05,**p < 0.1

4. 単変量および多変量解析

在院日数に対する単変量解析の結果,年齢(オッズ比(以下,ORと略):0.93,95%信頼区間(以下,95%CIと略):0.89–0.98,p = 0.012),GNRI(OR:0.95,95%CI:0.92–0.98,p = 0.011),入院前の障害高齢者日常生活自立度(OR:2.24,95%CI:1.44–3.47,p < 0.001),CCI(OR:1.17,95%CI:0.93–1.45,p = 0.174),管理栄養士による栄養サポート強化(OR:0.33,95%CI:0.15–0.76,p = 0.009)が関連する要因として選択された.多変量解析の結果,GNRI(OR:0.95,95%CI:0.90–0.98,p = 0.013),入院前の障害高齢者日常生活自立度(OR:2.23,95%CI:1.35–3.66,p = 0.001),管理栄養士による栄養サポート強化(OR:0.26,95%CI:0.08–0.79,p = 0.017)は長期入院の独立したリスク因子として選択された(表5).

表5. 在院日数≧18日に対する単変量および多変量ロジスティック回帰分析
単変量解析 多変量解析
オッズ比 95%信頼区間 p オッズ比 95%信頼区間 p
年齢 0.93 0.89–0.98 0.012 0.95 0.89–1.01 0.12
女性 0.99 0.43–2.28 0.993
GNRI 0.95 0.92–0.98 0.011 0.95 0.90–0.98 0.013
入院前の障害高齢者日常生活自立度 2.24 1.44–3.47 <0.001 2.23 1.35–3.66 0.001
A–DROP 1.14 0.76–1.72 0.516
CCI 1.17 0.93–1.45 0.174 1.21 0.90–1.61 0.20
認知症 1.53 0.69–3.38 0.293
誤嚥性肺炎の既往 0.61 0.24–1.54 0.300
理学療法士の介入 1.79 0.72–4.42 0.207
管理栄養士による栄養サポート強化 0.33 0.15–0.76 0.009 0.26 0.08–0.79 0.017

A-DROP,肺炎重症度分類

CCI,Charlson併存疾患指数;GNRI,Geriatric Nutritional Risk Index

考察

多変量解析の結果,管理栄養士による栄養サポート強化は誤嚥性肺炎にて入院した患者の在院日数に関連する独立した因子であることが示された.過去の文献より管理栄養士の介入基準の明確化と,早期介入によって在院日数が短縮する11)ことが報告がされており,これは本研究の結果と合致する.

在院日数が短縮した要因として,第一に,経口摂取開始までの期間が短縮されたことが考えられる.先行研究では,管理栄養士の介入は経口摂取開始までの期間を短縮する12)と報告されており,また,誤嚥性肺炎患者において経口摂取開始までの期間は治療期間に影響を与える13)と報告されている.本研究においても強化後群では経口摂取開始までの期間が短縮した.強化後群では管理栄養士の初回介入までの日数が短縮し,経口摂取開始日よりも早くなった.これは,栄養サポート強化後において入院後早期の絶食管理中から管理栄養士による介入が行われていることを示している.そして,主治医に対する管理栄養士の提案内容(図2)に示すように,管理栄養士が絶食管理中から主治医へ嚥下評価および訓練実施の提案を行うことや,言語聴覚士を始めとする他職種とアセスメントの内容を共有し,経口摂取の開始や患者に適した開始食の提案を実施したことによって,経口摂取開始までの期間が短縮したと考えられる.

第二に,経口摂取での目標栄養量充足までの期間が短縮したことが考えられる.先行研究では,管理栄養士の介入は摂取栄養量を増加させる14)と報告されており,また,誤嚥性肺炎患者に対する絶食の影響を検証した報告では,治療期間が短縮された早期経口摂取群において摂取栄養量が増加している13).本研究においても強化後群では経口摂取での目標栄養量充足までの期間が短縮した.強化後群では管理栄養士のカルテ記事記載回数と管理栄養士による食事内容変更提案の承認回数が増加しており,これは栄養サポート強化後において管理栄養士が患者個々の経口摂取状況に合わせて頻回に介入していることを示している.そして,主治医に対する管理栄養士の提案内容(図2)や強化後群における入院7日間の栄養剤使用量の増加が示すように,食事内容や食事形態の変更提案等,様々な介入を患者の状態に合わせて実施したことによって,経口摂取での目標栄養量充足までの期間が短縮したと考えられる.

したがって,本研究においては管理栄養士の栄養管理業務時間を増やし,介入基準を明確にすることによって,絶食管理中の入院後早期からの介入,および患者個々の状態に合わせた密度の濃い介入が可能となり,経口摂取開始までの期間,および経口摂取での目標栄養量充足までの期間が短縮したため,在院日数が短縮したと考えられる.

本研究の限界として,後ろ向き観察研究であり,電子カルテ診療録に記載されている以上の情報を収集できなかったことがあげられる.また,症例数が少なく交絡の調整が不十分であることも挙げられ,今後の課題である.

結論

管理栄養士による栄養サポート強化は,誤嚥性肺炎患者の在院日数を短縮する可能性がある.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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