学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
原著
経皮内視鏡的胃瘻造設術施行症例における胃瘻からの造影検査に基づいた胃食道逆流を考慮した経腸栄養アクセスの選択
神崎 憲雄小野 幸子稲沼 千春小林 奈緒美鈴木 悠里木村 純子國井 恵理四家 文恵日置 清子黒川 友博
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 5 巻 1 号 p. 3-10

詳細
Abstract

【目的】PEG症例における胃食道逆流の発生率を算出し,胃瘻造影に基づいた経腸栄養アクセスの選択を行った.【対象および方法】対象は2016年5月~2021年7月までに当院でPEGを施行した158例.PEG 後1日目に胃瘻より希釈したアミドトリゾ酸ナトリウムメグミン250 mLを注入し,上中部食道までの胃食道逆流を認めた症例に対しPEG-Jへの入れ換えを行った.【結果】上中部食道までの逆流は37例(23.4%),下部食道までの逆流は5例(3.2%)であった.PEG症例のうち33例でPEG-Jに交換した.術後の嘔吐は,胃瘻4例,PEG-J 0例であった.術後3カ月以内の肺炎発症は,胃瘻31例(24.8%),PEG-J 9例(27.3%)であった.早期死亡および長期生存において,胃瘻とPEG-Jで差はなかった.【結論】潜在的に胃食道逆流を起こしうる症例でも,PEG-Jに入れ換えることによって,嘔吐は認めず,肺炎の発症数も増加しなかった.胃瘻造影等の検査を行い,適切に経腸栄養アクセスを選択することが重要と考えた.

Translated Abstract

Aim: The primary aim of the study was to investigate the incidence of gastroesophageal reflux in patients receiving percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG) and to select the appropriate access site for enteral nutrition based on contrast examination by gastrostomy.

Subjects and Methods: The subjects were 158 patients who underwent PEG at our hospital between May 2016 and July 2021. X-ray studies were performed after injection of 250 mL of contrast medium by gastrostomy on day 1 of PEG. Gastrostomy was switched to PEG-J in patients with gastroesophageal reflux to the upper and middle thoracic esophagus.

Result: Gastroesophageal reflux to the upper and middle thoracic esophagus was observed in 37 cases (23.4%) and to the lower thoracic esophagus in 5 cases (3.2%). Reconstruction by PEG-J was performed in 33 cases. Vomiting occurred after PEG in 4 cases in the gastrostomy group and none in the PEG-J group. Pneumonia occurred within 3 months after PEG in 31 cases (24.8%) in the gastrostomy group and 9 (27.3%) in the PEG-J group. There were no differences in early mortality and long-term survival between gastrostomy and PEG-J cases.

Conclusion: The incidence of pneumonia after PEG was not increased by performing PEG-J reconstruction, even in patients with probable gastroesophageal reflux. This suggests that it is important to perform examinations such as gastrography to select appropriate enteral nutrition access in patients undergoing PEG.

目的

経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy;以下,PEGと略)症例の胃食道逆流に伴う嘔吐や経腸栄養剤の逆流は,特に高齢者では誤嚥性肺炎や窒息の原因となり,場合によっては生命に関わる事象となる13).当院ではすべてのPEG症例で,造設した胃瘻から造影剤を注入し,レントゲン透視下に胃食道逆流の有無を確認(以下,胃瘻造影と略)した上で,必要に応じて,経胃瘻的空腸瘻(percutaneous endoscopic transgastric jejunostomy;以下,PEG-Jと略)4,5)に入れ換えている.今回,PEG症例における胃食道逆流の発生率を算出し,胃瘻造影に基づいた経腸栄養アクセスの選択を行い,その是非について検討したので報告する.

対象および方法

1. 対象

対象は2016年5月~2021年7月までに当院でPEGを施行した158例である.すべて栄養投与目的で,胃の減圧目的の症例はなかった.1例で残胃に造設を行った.年齢は31~99歳,性別は女性79例,男性79例であった(表1).

表1. 患者背景
症例数 158例
年 齢 31~99歳 中央値 83歳
性 別 女性 79例
男性 79例
基礎疾患 脳梗塞後遺症 41例(25.9%)
肺炎に伴う廃用症候群 35例(22.2%)
パーキンソン病 13例(8.2%)
認知症 12例(7.6%)
硬膜下血腫後遺症 5例(3.2%)
胆嚢炎・胆管炎 5例(3.2%)
脳出血 4例(2.5%)
うっ血性心不全 4例(2.5%)
脳性麻痺 4例(2.5%)
大腸がん 3例(1.9%)
重度褥瘡 3例(1.9%)
心肺停止後蘇生後脳症 3例(1.9%)
その他 26例(16.5%)
食道裂孔ヘルニア合併 22例(13.9%)
術前血液検査(平均値) アルブミン 2.8 g/dL
総リンパ球数 1,563/μL
ヘモグロビン 10.9 g/dL
49 μg/dL
亜鉛 63 μg/dL
CRP 3.0 mg/dL

対象症例の基礎疾患は,脳梗塞後遺症が41例(25.9%),肺炎に伴う廃用症候群が35例(22.2%),パーキンソン病が13例(8.2%),以下表1に示す.

2. 術前説明と同意

PEG施行前の患者または家族への説明において,PEG後1日目に胃瘻より造影検査を行い,胃食道逆流を認めた場合は,PEG-Jへ入れ換えを行うことを,全例で説明し,同意を得た.

3. PEGの方法

レントゲン透視下に適切な穿刺部位を決定し,イントロデューサー変法を用いて行った.PEGの造設キットは,CREATE MEDIC社製CLINY経皮腹壁的PEGキットを使用した.上部消化管内視鏡にて胃内を観察したのち,穿刺部位を中心にキット備え付けの鮒田式固定具を用いて3カ所胃壁固定を行い,同じくキット備え付けの20 Frバンパーチューブタイプを挿入した.

4. 胃瘻造影の方法と胃食道逆流の判定

PEG後1日目にレントゲン透視下に仰臥位にて行った.アミドトリゾ酸ナトリウムメグミン50 mLと水200 mLの計250 mLを,胃瘻より約1分かけて注入した.造影剤注入後1~2分程観察し,胃食道逆流の有無を確認した.胃食道逆流の判定は,臨床・病理食道癌取扱い規約第11版6)の解剖に照らし合わせ,レントゲン透視画像上,肉眼的に造影剤が中部食道より口側まで達した場合は,上中部食道まで逆流あり(図1a),腹部食道を含む下部食道のみに留まった場合は,下部食道まで逆流あり(図1b),食道胃接合部を越えなかった場合は,逆流なしと判定した.造影終了後は,胃瘻より注入したアミドトリゾ酸ナトリウムメグミンを可及的に回収した.また,胃食道逆流を認めた場合は,注入をすぐに中止し,注入したアミドトリゾ酸ナトリウムメグミンを回収し,医原性肺炎を起こさないよう配慮した.

図1.a:上中部食道まで逆流あり b:下部食道まで逆流あり

レントゲン透視画像上,肉眼的に造影剤が中部食道より口側まで達した場合は,上中部食道まで逆流あり,腹部食道を含む下部食道のみに留まった場合は,下部食道まで逆流ありと判定した.

5. PEG-Jへの入れ換え基準

胃瘻造影にて上中部食道まで逆流を認めた症例は,PEG-Jへの入れ換えを行った.ただし,術前の経鼻経管栄養で全く逆流を認めなかった症例,術後経口摂取が可能であった症例,全身状態が悪く対処できなかった症例などは除外対象とした.

6. PEG-Jへの入れ替え方法

胃瘻造影にて上中部食道まで逆流を認めた症例は,除外症例を除き,造影を行ったその場でPEG-Jへの入れ換えを行った.PEG-Jチューブは,CREATE MEDIC社製 CLINY PEG-Jカテーテルを使用した.レントゲン透視下に,胃瘻よりガイドワイヤーを挿入し,PEG-Jチューブへ入れ換えたのち,ガイドワイヤーを使ってチューブ先端を,幽門さらにトライツ靭帯を通過させ,空腸まで挿入した.今回,内視鏡を用いてチューブを誘導した症例はなかった.

7. 経腸栄養の方法

経腸栄養剤は半消化態栄養剤を用い,胃瘻症例はPEG後5日目まで経腸栄養ポンプを用いて,80~120 mL/hrで投与を行ったのち,下痢や逆流の症状を認めなければ,自然滴下による間歇投与とした.PEG-J症例はすべて経腸栄養ポンプを常時使用し,消化器症状や便の正常などに応じて,60~100 mL/hrで投与した.

8. 検討項目および統計解析

検討項目は,PEG症例全体の胃瘻造影での胃食道逆流の発生率,胃瘻症例とPEG-J症例での,術後嘔吐の有無,PEG施行日を基準日とした,術後3カ月以内の肺炎発症率,術後30日以内の早期死亡率と死亡原因,観察期間内全体の死亡原因と生存期間,生存期間中央値(Median Survival Time;以下,MSTと略)を算出した.統計解析はStatView ver. 5.0を用い,術後3カ月以内の肺炎発症率および術後30日以内の早期死亡率の比較はχ2乗検定を,MSTはKaplan-Meier法を,生存期間の比較はLog-rank法を用いた.いずれも危険率5%未満を有意差ありと判断した.

9. 倫理的配慮

本研究実施に当たり,公益財団法人ときわ会常磐病院倫理委員会の承認を得た(研究管理番号:JHTF-2021-010).また,データは連結可能匿名化した上,厳重に管理した.

結果

1. PEG症例の胃食道逆流の発生率

PEG後の胃瘻造影の結果,上中部食道まで逆流あり37例(23.4%),下部食道まで逆流あり5例(3.2%),逆流なし116例(73.4%)であった.

1例で残胃に造設を行ったが,上中部食道まで逆流を認めた.

上部消化管内視鏡の反転像にて,ファイバー1本分以上の食道裂孔ヘルニアを伴った症例は22例(13.9%)で,このうち16例(72.7%)で上中部食道までの逆流,2例(9.1%)で下部食道までの逆流を認めた.

検査後,アミドトリゾ酸ナトリウムメグミンの逆流が原因と考えられた肺炎は認めなかった.

2. PEG-Jに入れ換えた症例

上中部食道まで逆流を認めた37例のうち,33例(89.2%)でPEG-Jに入れ換えた.残りの4例は,術前の経鼻胃管からの経腸栄養で逆流に伴う症状を全く認めなかった症例が2例,術前より経口摂取が可能で,術後も経口摂取が継続できた症例が1例,全身状態が悪く対処できなかった症例が1例であった.下部食道まで逆流した症例に対しては,今回PEG-Jへの入れ換えは行わなかった.また,半固形状流動食を用いた症例はなかった.

〈以下,胃瘻症例とPEG-J症例での比較〉

3. 胃瘻症例とPEG-J症例

胃瘻症例は125例(79.1%)で,年齢は31~94歳,性別は女性60例,男性65例であった.PEG-J症例は33例(20.9%)で,年齢は35~99歳,性別は女性15例,男性18例であった(表2).

表2. 胃瘻症例とPEG-J症例の患者背景
胃瘻症例 PEG-J症例
症例数 125例 33例
年 齢 31~94歳 35~99歳
中央値 82歳 中央値 87歳
性 別 女性 60例 女性 15例
男性 65例 男性 18例
基礎疾患 脳梗塞後遺症 36例(28.8%) 5例(15.2%)
肺炎に伴う廃用症候群 30例(24.0%) 5例(15.2%)
パーキンソン病 10例(8.0%) 3例(9.1%)
認知症 7例(5.6%) 5例(15.2%)
硬膜下血腫後遺症 3例(2.4%) 2例(6.1%)
胆嚢炎・胆管炎 4例(3.2%) 1例(3.0%)
脳出血 4例(3.2%) 0例
うっ血性心不全 4例(3.2%) 0例
脳性麻痺 1例(0.8%) 3例(9.1%)
大腸がん 3例(2.4%) 0例
重度褥瘡 2例(1.6%) 1例(3.0%)
心肺停止後蘇生後脳症 1例(0.8%) 2例(6.1%)
その他 20例(16.0%) 6例(18.2%)
食道裂孔ヘルニア合併 8例(6.4%) 14例(42.4%)
術前血液検査(平均値) アルブミン 2.7 g/dL 2.8 g/dL
総リンパ球数 1,567/μL 1,553/μL
ヘモグロビン 10.8 g/dL 10.9 g/dL
46 μg/dL 58 μg/dL
亜鉛 64 μg/dL 62 μg/dL
CRP 3.0 mg/dL 3.0 mg/dL

基礎疾患を表2に示す.疾患の比率に若干の差を認めたが,大きな違いは認めなかった.

4. 術後嘔吐の有無

術後に嘔吐を認めた症例は,胃瘻症例4例(3.2%),PEG-J症例0例であった(表3).胃瘻症例で嘔吐を認めた4例のうち,3例は胃瘻造影にて逆流を認めなかったが,1例は下部食道まで逆流を認めていた.1例は逆流に伴う誤嚥性肺炎で死亡し,2例はPEG-Jに入れ換えを行い,1例は経腸栄養を断念し完全静脈栄養管理となった.

表3. 術後嘔吐の有無
胃瘻症例 PEG-J症例
嘔吐あり 4例* 0例
嘔吐なし 121例 33例

* 胃瘻造影にて3例は逆流を認めなかったが,1例は下部食道まで逆流を認めていた.

5. 術後3カ月以内の肺炎発症率

PEG施行日を基準日とした,術後3カ月以内に肺炎を発症した症例(診療録より肺炎と診断された全ての症例を含む)は,PEG症例全体で40例(25.3%)であった.胃瘻症例は31例(24.8%),PEG-J症例は9例(27.3%)であった(p = 0.771)(表4).

表4. 術後3カ月以内の肺炎発症率
胃瘻症例 PEG-J症例
肺炎あり* 31例(24.8%) 9例(27.3%)
肺炎なし 94例(75.2%) 24例(72.7%)

p = 0.771

* 診療録より肺炎と診断された症例全てを含む

6. 術後30日以内の早期死亡率と死亡原因

PEG施行日を基準日とした,術後30日以内の早期死亡は,PEG症例全体で17例(10.8%)であった.胃瘻症例は15例(12.0%),PEG-J症例は2例(6.1%)であった(p = 0.327)(表5).

表5. 術後30日以内の早期死亡率
胃瘻症例 PEG-J症例
30日以内の死亡あり 15例(12.0%) 2例(6.1%)
30日以内の死亡なし 110例(88.0%) 31例(93.9%)

p = 0.327

死亡原因を表6に示す.胃瘻症例,PEG-J症例ともに肺炎・呼吸不全が最も多かった.また,胃瘻症例1例で逆流・嘔吐が原因で死亡した.

表6. 術後30日以内の早期死亡の原因
胃瘻症例 PEG-J症例
肺炎・呼吸不全 5例(4.0%) 1例(3.0%)
老衰・衰弱 2例(1.6%) 0例
がん死 2例(1.6%) 0例
逆流・嘔吐 1例(0.8%) 0例
腎不全 1例(0.8%) 0例
敗血症 1例(0.8%) 0例
大動脈瘤破裂 1例(0.8%) 0例
出血性ショック 1例(0.8%) 0例
食事誤嚥 1例(0.8%) 0例
腹膜炎 0例 1例(3.0%)

7. 観察期間内全体の死亡原因と生存期間

PEG症例全体の平均観察期間は345.3日であった.観察期間内の死亡原因を表7に示す.胃瘻症例,PEG-J症例ともに肺炎・呼吸不全が最も多かった.

表7. 観察期間内全体の死亡の原因
胃瘻症例 PEG-J症例
肺炎・呼吸不全 32例(25.6%) 5例(15.1%)
老衰・衰弱 7例(5.6%) 2例(6.1%)
敗血症 7例(5.6%) 2例(6.1%)
がん死 4例(3.2%) 0例
腎不全 3例(2.4%) 0例
消化管出血 1例(0.8%) 1例(3.0%)
急性心筋梗塞 2例(1.6%) 0例
その他 6例(4.8%) 3例(9.1%)

PEG施行日を基準日とした,MSTは胃瘻症例368日,PEG-J症例634日であった.生存期間の比較では,両群間で有意差は認めなかった(p = 0.400)(図2).

図2.生存曲線

平均観察期間は345.3日で,MSTは胃瘻症例368日,PEG-J症例634日であった.生存期間の比較では,両群間で有意差は認めなかった(p = 0.400).

考察

PEG後の経腸栄養剤注入による胃食道逆流の発生率の報告は,重症心身障害児(者)を対象とした報告は散見され,その発生率は16.0~54.5%であった79).しかし高齢者を対象とした文献は少なく,経腸栄養剤のゲル化や固形化の効果を検証した報告から抜粋すると13.0~58.8%であった1013).筆者らは,PEG症例のうち17.1%に術後の胃瘻造影で胃食道逆流を認め,17.6%に嘔吐やそれに伴う誤嚥性肺炎を発症したと報告した2).今回,施設を変えて同様に胃瘻造影による胃食道逆流の発生率を算出したところ,26.6%と既報とほぼ同等であったが,無視できない発生率であった.

胃食道逆流によって引き起こされる合併症として,嘔吐による肺炎がある13).肺炎は本邦において死因の第5位であり,その罹患率は高齢になるに従って増加し,高齢者死亡の大きな要因となっている14).胃食道逆流による嘔吐は,意識とは無関係に起こることから大量に誤嚥する可能性があり,場合によっては致死となる15).今回,胃瘻症例4例で嘔吐を認め,1例はそれが原因で早期死亡した.

経鼻胃管や胃瘻からの経腸栄養による胃食道逆流に難渋する場合,空腸カテーテルが有効とされている1).瘻管法を用いた空腸カテーテル留置の方法として,経皮内視鏡的空腸瘻(direct percutaneous endoscopic jejunostomy;以下,D-PEJと略)16)あるいはPEG-J4,5)が用いられる.D-PEJは手技の難易度が高く,さらに瘻孔周囲炎や入れ換え困難などの合併症が多く,当院ではPEG-Jを用いた空腸留置を行っている.PEG-Jは既存の胃瘻を通してカテーテルの先端を,幽門さらにトライツ靱帯を越えて空腸に留置し,空腸より経腸栄養剤の投与を行う.さらに当院ではダブルルーメンタイプを使用して,胃内容物を排出できるようにしている.その結果,PEG-J症例で嘔吐を認めた症例はなかった.

嚥下障害症例の肺炎の多くは誤嚥性肺炎と考えられ,特に不顕性誤嚥による肺炎は,嚥下障害を伴うPEG症例では一定の割合で発症することが予想される15,17).それが上気道感染,嘔吐,唾液・喀痰・口腔内分泌物の誤嚥,胃食道逆流症のどれによるものかを判別評価することは難しく,複合的な要因で起きていることも少なくない15,17).今回の検討では,胃瘻症例とPEG-J症例で術後3カ月以内の肺炎発症率に差は認めなかった.つまり,潜在的に胃食道逆流を起こしうる症例においても,PEG-Jによって胃食道逆流が影響した肺炎は最小限に抑えられ,肺炎の発症数は増加しなかったと考えた.

今回,筆者らはPEG-Jへの入れ換えの目安として,上中部食道までの逆流を認めた症例としたが,下部食道まで逆流を認めた症例1例で嘔吐を認めたことから,造影剤が食道胃接合部を越えて逆流した症例は,すべてPEG-Jの適応とすべきであったと反省した.

PEG症例の胃食道逆流の対策として半固形化栄養法が行われている.6,000 mPa·s13),9,000 mPa·s以上18),約20,000 mPa·s19)の粘度をもった半固形状流動食は,胃食道逆流に対し効果があるとそれぞれ報告されている.半固形化栄養法は半固形状流動食を用いるだけで行えるため簡便であり20),薬品の半固形状流動食も発売されたことから,さらに使いやすくなった.今回,胃瘻造影にて胃食道逆流を認めた症例で,半固形状流動食を用いた症例はなかった.胃瘻症例で経腸栄養開始後,逆流症状を認めた症例は,PEG-Jへの入れ換えや完全静脈栄養にて対応した.また,当院では下痢などの消化器症状に対しては,経腸ポンプ使用による速度調整と経腸栄養剤の変更などで対応しており,半固形状流動食を使用した症例はなかった.しかし,今後はPEG-Jと半固形化栄養法とで,胃食道逆流の発生率や術後の肺炎の発症率などについての比較試験が必要と考える.

術後30日以内の早期死亡率は,胃瘻症例12.0%であったのに対し,PEG-J症例6.1%とPEG-J症例の方が若干低かったが,統計学的に有意差は認めなかった.またMSTは胃瘻症例368日,PEG-J症例634日とPEG-J症例の方が若干長かったが,有意差は認めなかった.つまりPEG-J症例は胃瘻症例と比べ,短期および長期生存において優越性は認めなかったものの,非劣勢であったと言える.しかし,一方でPEG症例の予後因子の解析においてPEG-J変更群は有意に生存率が低く,多変量解析においてPEG-Jへの変更は独立した予後不良な因子であるという報告もある21)

また,PEG-Jへの入れ換えは,透視下または内視鏡下にチューブ先端を空腸へ誘導する必要があり,技術と手間が必要である.さらに,2回目以後の入れ換えの際も,透視下で行う必要があり,自宅での交換は難しく,在宅療養患者でも,入れ換えのために来院が必要となる.また,40~60 cmのチューブタイプであるため,閉塞する割合が高く22),胃瘻に比べ短い間隔で入れ換えを行う必要がある.当院では,胃瘻を4カ月に1度交換しているのに対し,PEG-Jの添付文書では30日に1度の交換となっているが,来院頻度を少しでも減らせるように2カ月に1度の交換を行っている.さらに,PEG-Jは空腸からの栄養投与となるため,下痢や腹痛の発生頻度が高く,経腸栄養ポンプによるスピード調整が必要である.このような点からもすべての症例でPEG-Jにする利点はないと思われ,胃瘻造影等の検査を行い,適切に経腸栄養アクセスを選択することが重要と考える.

結論

PEG症例全体のうち胃瘻造影にて26.6%に胃食道逆流を認めた.潜在的に胃食道逆流を起こしうる症例においても,PEG-Jに入れ換えることによって,胃食道逆流が影響した肺炎は,最小限に抑えられた.早期死亡および長期生存において,PEG-J症例は胃瘻症例と比べて優越性は認めず,胃瘻造影等の検査を行い,適切に経腸栄養アクセスを選択することが重要と考えた.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2023 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
feedback
Top