学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
症例報告
嚥下障害に対し胃瘻を造設して栄養管理を行った切除不能甲状腺未分化がんの2例
郷右近 祐介中西 渉鳩山 恵一朗阿部 隆之
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キーワード: 甲状腺, 未分化がん, 胃瘻
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2023 年 5 巻 1 号 p. 43-47

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Abstract

【はじめに】甲状腺未分化がんは極めて予後不良で稀な組織型である.嚥下障害をきたした際の胃瘻の適応は明確でない.この度,切除不能甲状腺未分化がんに対し胃瘻を造設し栄養管理を試みた症例を報告する.【症例1】診断時は全身状態が保たれており,胃瘻造設後の薬物療法を計画した.しかし,日単位で原病が進行し,胃瘻造設後第4病日に上気道閉塞により死亡した.【症例2】胃瘻を用いて栄養を維持しつつ外来で化学放射線療法を約4カ月間施行し,一定の疼痛緩和と嚥下困難感の改善が得られた.終末期には自己排痰が困難となったため,経管栄養を漸減した.【結論】嚥下障害を伴う甲状腺未分化がんの診断となれば,局所の進行が早いため,速やかに胃瘻を造設し栄養管理を行い,集学的治療によりQuality of lifeの改善と延命を図ることが肝要である.一方で,予後が厳しい症例や喀痰排出障害が著しい症例は,経鼻経管栄養の選択や,経管栄養の減量および静脈栄養への移行を考慮すべきと思われた.

はじめに

切除不能進行甲状腺がんは頸部食道より肛門側に通過障害がないため,経口摂取不能となった際の栄養管理目的として胃瘻は良い適応である1,2).特に,大部分を占める分化型がんの場合はある程度の予後を見込めるため,長期栄養管理に適切な胃瘻を造設する意義は大きい2).しかし,未分化がんは極めて予後不良で稀な組織型であり,診断からの生存期間中央値は約4カ月,遠隔転移を伴う症例は3カ月と報告されている35).このような予後不良な希少疾患に対する胃瘻の適応は明確でない.この度,切除不能甲状腺未分化がんによる嚥下障害に対し,胃瘻を造設し栄養管理を試みた2症例を経験したので報告する.

症例1

臨床経過を図1に示す.76歳女性.頸部腫脹と嚥下困難を主訴に紹介受診され,エコーおよび細胞診で甲状腺未分化がんの診断となった.造影CT検査では腫瘍は気管,食道,左右内頸静脈へと浸潤し多発肺転移も認めていた(図2).以上より,切除不能甲状腺未分化がんと診断した.初診時は粥食を摂取可能であったが,数日にわたる外来精査中に固形物の摂取ができなくなってきた.ただ,全身状態は概ね良好で,呼吸困難感もなく,薬物治療の適応はあると判断し,予防的気管切開が不能であることと将来的に窒息する可能性があることをご家族に説明した上で,入院し胃瘻造設後に薬物療法の方針とした.細径内視鏡は抵抗があるものの,通過可能であり,胃瘻造設は問題なく終了した.術後第1病日よりラコール®NF配合経腸用半固形剤600 kcal/日を開始した.第2病日は呼吸症状なく経過し歩行可能であったが,第3病日より著名な吸気性喘鳴を認め,呼吸困難感が強くなった.原病進行による上気道閉塞と判断し,Best supportive careの方針とし鎮静を開始した.経管栄養は終了とし,術後第4病日に死亡退院となった.

図1.臨床経過.初診時は経口摂取可能で全身状態も保たれていたが,日単位で病勢が進行し,経口摂取量が少なくなった.胃瘻造設術後第4病日に死亡退院となった.略語:Alb,Albumin.TLC,Total Lymphocyte Count.PNI,Prognostic Nutritional Index.
図2.症例1の初診時CT検査所見.腫瘍は気管および食道に浸潤している.

症例2

臨床経過を図3に示す.79歳男性.嚥下時痛とつかえを主訴に近医より紹介受診され,エコーおよび針生検を行い甲状腺未分化がんの診断となった.造影CT検査では腫瘍は気管,食道へと浸潤しており,右内頸静脈腫瘍栓を認めた(図4).以上より切除不能甲状腺未分化がんと診断し,外来においてパクリタキセルを用いた化学療法を放射線外部照射併用で行った.食事はつかえ感があるが,普通食を摂取可能であった.飲水は時々むせがあった.食事はゆっくりと飲み込むこと,飲水もゆっくりとむせ込みのないように摂食嚥下指導した.治療により疼痛は一時的に改善し,画像上も部分奏功となった.しかし治療開始2カ月後に嚥下時痛とつかえが再燃し,経口摂取不能となり体重が4 kg減少した.栄養管理目的に胃瘻を造設し,ラコール®NF配合経腸用液1,200 kcal/日を投与した.胃瘻造設前後で,Albuminは2.7 g/dL→3.4 g/dL,total lymphocyte countは480→710,予後栄養指数(Prognostic Nutritional Index)は29→37と栄養指標の改善をみた.この間,外来でパクリタキセルを用いた化学療法を継続することが可能であった.しかし,胃瘻造設から2カ月後(治療開始から4カ月後),倦怠感が強くなり緩和医療科に入院,以後Best supportive careの方針となった.喀痰が次第に多くなり,疼痛もあったことから自己喀出しきれず,適宜吸引で対応した.胃瘻からの栄養は漸減し,呼吸困難感,頸部痛に対しモルヒネ点滴を行った.入院第18病日に死亡退院となった.

図3.臨床経過.胃瘻造設後,一時的に栄養指標の改善をみた.その後も外来でパクリタセル療法を継続可能であった.Best supportive careとなった後は自己排痰困難であったことから,経管栄養を漸減した.略語:Alb,Albumin.TLC,Total Lymphocyte Count.PNI,Prognostic Nutritional Index.
図4.症例2の初診時CT検査所見.腫瘍は気管および食道に浸潤し,右内頸静脈腫瘍栓を認める.

考察

一般的に,切除不能進行がん患者における胃瘻の適応としては,①少なくとも約1カ月は予後が期待できる,②本人・家族の希望があり,インフォームドコンセントが得られる,③栄養管理目的である場合,胃から肛門側に通過障害がない,の3点があげられている1).本症例のような切除不能進行甲状腺未分化がんについて,この3点を検討すると,①に関しては,未分化がんであれば診断後の予後は約4カ月,遠隔転移を伴うと3カ月と報告されており,判断が難しい35).②に関しては,日単位の進行をきたすことからshared decision makingが難しいことが問題となる5).③に関しては頸部食道より肛門側に通過障害がないため問題ない.以上より,胃瘻の適応に関しては議論となるところである.一般的に経管栄養の投与経路としては,長期間の場合は胃瘻,短期間の場合は経鼻胃管が推奨されており,患者の状況から予後が1カ月未満であると予想された場合や,侵襲に対するインフォームドコンセントが得られない場合には,経鼻経管栄養や経静脈栄養が選択肢に挙がる6).本症例では2例とも,外来において数カ月の単位で治療および療養を行うことをゴールと設定し,当初はそれが可能であると判断し,長期の経腸栄養に適した胃瘻を造設した.時期を逸すると上部消化管内視鏡が通過不能となる可能性があったことも,経鼻胃管でなく胃瘻を選択した理由の一つである2).結果的に,症例1は入院前日まで仕事をしていた患者が入院第6病日に上気道閉塞により永眠され,症例2は化学放射線療法が可能であったものの初診時から約5カ月で永眠された.特に症例1は日単位で進行をきたしており,上気道閉塞のリスクが高かったため予防的気管切開も検討されたが,出血,気管内腔が同定できず,チューブ挿入困難などのリスクがあったため施行することができなかった7).後方視的に考えると,まず経鼻胃管もしくは中心静脈カテーテルを挿入し,薬物治療などを行い,治療の奏功の程度や気道の状態を検討した上で胃瘻の適応を判断するという選択肢もあったかと思われる.

本症例1,2 はいずれも急速な転機を辿ったが,初診時に予後を予測することは難しかった.甲状腺未分化がんの予後因子は,希少疾患であることから未だ確立していない.甲状腺未分化がんの予後因子を検討した本邦の多施設共同研究では,腫瘍の病理組織学的所見(腺外浸潤,遠隔転移など)や患者状態(70歳以上など)が予後因子として提唱されている8,9).これらは本症例でも該当する点が多かった.その他には,近年分子生物学的な観点からも予後因子の検討が行われており,今後の報告が待たれるところである10)

胃瘻造設のメリットとして,積極的な栄養管理のもと,外来でがん薬物治療が継続できることが挙げられる.切除不能進行甲状腺未分化がんに対し分子標的薬であるレンバチニブおよび症例2で用いたパクリタキセルが限定的ながら腫瘍縮小効果をもたらすことが報告されている1113).症例1は結果的に胃瘻造設がQuality of life(QOL)改善や延命に寄与したとは言い難かった一方,症例2は胃瘻で栄養を維持しつつ外来にて化学放射線療法を行い,一定の疼痛緩和と嚥下困難感改善が得られた.

しかし,胃瘻造設のデメリットも存在する.胃瘻造設は少ないながらも侵襲を伴い,手技が直接的な原因かは判断が難しいものの,全身状態不良な患者における術後短期死亡例が報告されている14,15).また,不顕性誤嚥がある患者に対する栄養ルートの原則は胃瘻ではなく経静脈栄養であり,痰の吸引が頻回になる場合は,経管栄養の減量や経静脈栄養を考慮する必要がある16).緩和ケア分野では,甲状腺未分化がんの末期に喀痰排出障害に難渋することが多いことが報告されている17).症例2においても,終末期に喀痰吸引が頻回になり胃瘻からの栄養を漸減した.以上より,切除不能進行甲状腺未分化がんにおける胃瘻造設には慎重な判断と十分なインフォームドコンセントが必要であり,終末期における経管栄養の減量や経静脈栄養への切替えについても素早い判断が必要となる.

以上より,嚥下障害を伴う未分化がんの診断となれば,局所の進行が速いため速やかに胃瘻を造設し積極的な栄養管理を行い,集学的治療によりQOLの改善と延命を図ることが肝要である.一方で,予後が厳しいことが予想される症例や既に喀痰排出障害が著しい症例は経鼻経管栄養の選択や,経管栄養の減量および静脈栄養への移行を考慮すべきと思われた.

結語

切除不能進行甲状腺未分化がんの胃瘻造設については,極めて予後不良であることを踏まえた上での慎重かつ素早い適応判断と,十分な説明でインフォームドコンセントを得ることが必要と思われる.

本論文の内容に関しては,患者もしくは家族からの同意を得ている.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2023 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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