学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
原著
90歳以上の入院患者の投与エネルギー量の検討
石田 順朗堀 郁美平井 絵里子塩田 裕子石川 芙実谷村 千賀土岐 彰
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2023 年 5 巻 2 号 p. 59-65

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Abstract

【目的】90歳以上の入院患者の投与エネルギー量を検討した.【対象および方法】2008年4月から2022年3月でnutrition support teamが介入した90歳以上の症例で,4回(21日)以上評価を行った294例を調査した.初回と最終回のGeriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRIと略)を比較し,GNRI上昇群161例,不変群9例,低下群124例の3群で,最終回の推奨エネルギー量,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量を比較した.【結果】推奨エネルギー量に有意差はなく,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量は上昇群と低下群に有意差を認めた.推奨エネルギー量,同達成率は,上昇群で999.4 kcal,99.7%であり,低下群で994.0 kcal,88.2%であった(p < 0.01).投与エネルギー量は上昇群で1,003.1 kcal,低下群で879.9 kcalであった(p < 0.01).【結論】90歳以上の入院患者の栄養リスクを低下させない至適エネルギー量は約1,000 kcalと示唆された.

Translated Abstract

Objective: The purpose of the study was to examine calories administered to inpatients over 90 years of age.

Subjects and Methods: The results of nutrition support team (NST) interventions for 294 elderly patients aged 90 years or older who were evaluated at least 4 times over at least 21 days from April 2008 to March 2022 were investigated retrospectively. The Geriatric Nutritional Risk Index (GNRI) was compared at the first and last NST session. The subjects were divided into three groups with an increased (n = 161), unchanged (n = 9), and decreased (n = 124) GNRI. The recommended calories, achievement of these calories, and the nutritional intake at the last session were compared among the groups.

Results: There was no significant difference in the recommended calories among the groups, but the achievement rate and intake differed significantly between cases with increased and decreased GNRI. In these respective groups, the recommended calories were 999.4 and 994.0 kcal, the achievement rates were 99.7% and 88.2% (p < 0.01), and the intakes were 1,003.1 and 879.9 kcal (p < 0.01).

Conclusion: The optimal intake of calories to avoid a risk of decreased nutrition in inpatients aged 90 years or older is suggested to be about 1,000 kcal.

目的

医療現場で高齢者の栄養管理を行う際には,多くの場合Harris-benedict式1)を用いた基礎代謝量の推計が行われている.しかしながら,工藤ら2)が指摘しているように,年齢21~70歳,身長151~200 cmの対象者のデータをもとに策定されたHarris-benedict式を,日本の高齢者に適応した場合,推定による誤差が大きくても不思議ではない.宮澤3)は,Harris-benedict式を高齢者に適応する際の問題点として,身長160 cm,体重55 kgの患者の場合,80歳以上では,男性より女性の方が,基礎代謝量が高くなり,一般的には男性の方が女性より基礎代謝量が大きいという通説に合わないため,臨床現場では,患者個々にストレス係数と活動係数を調節することが重要であると指摘している.その一方で,ストレス係数,活動係数について確固たるエビデンスがないことも併せ指摘している.また,「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書4)においても,高齢者の推定エネルギー必要量は75歳以上にまとめられている.身体活動レベルが低い場合に(自宅にいてほとんど外出しない者,高齢者施設で自立している者),男性で1,800 kcal,女性で1,400 kcalとされ,90歳以上の超高齢者についての基準値は示されていない.しかしながら,急性期病院に入院中で,傷病による侵襲にさらされ,ベッド上で過ごしている90歳以上の超高齢者に,この基準をそのまま当てはめることには問題がある.

我々は2009年に90歳以上の超高齢者の至適エネルギー量について10症例を検討し,高度の代謝亢進がなければ900 kcalが妥当と評価し,第11回MeT3・NST研究会において発表した.また2011年には,再度8症例について間接熱量計を用いた検討を行い,至適エネルギー量は900 kcalが妥当と評価し,第4回日本静脈経腸栄養学会首都圏支部学術集会において発表した.しかしながら統計的評価のためには,さらに多くの症例を検討することが必要である.今回,2008年以降に当院nutrition support team(以下,NSTと略)の対象者とした90歳以上の超高齢者294例について,後方視的に投与エネルギー量の検討を行った.

対象および方法

当院は91床を有する一般急性期病院である.2008年4月から2022年3月までに当院NSTで評価を行った90歳以上の超高齢者693例のうち,1週間ごとに4回以上,あるいは連続して21日以上NST介入を行った症例をもとに,NST記録を評価し,のべ294例(実数278人)を対象とした.

方法として,NST評価の初回と最終回を比較し,Geriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRIと略)の素点が上昇した群(以下,GNRI上昇群と略),変化しなかった群(以下,GNRI不変群と略),低下した群(以下,GNRI低下群と略)に分け,最終回での推奨エネルギー量(kcal),推奨エネルギー量達成率(%),投与エネルギー量(kcal)を比較した.GNRI計算における理想体重の算出にはbody mass index(以下,BMIと略)を使用した.現体重が理想体重を超えた場合に,その比を1とする補正は行わなかった.推奨エネルギー量は,Harris-benedict式を用いて,ストレス係数,活動係数から算出し,病態栄養を考慮して決定した.3大栄養素ごとの推奨投与量に関しては,「日本人の食事摂取基準」の高齢者の基準値(2015年版までは70歳以上,2020年版からは75歳以上)を参考に設定し,折々の最新版に準拠した.最新の2020年版では,推奨エネルギー量に対して,蛋白質は15~20%,脂質は20~30%,炭水化物は50~65%としている5).背景因子は,性別,NST介入期間,基礎疾患(肺炎,骨折,心不全,悪性疾患,尿路感染症,脳血管障害)とした.統計解析には,STATA®17.0 Basic Edition(Stata Corp LLC)を使用し,p値 < 0.05を有意とした.また,GNRI上昇群の3大栄養素の投与割合の平均値を算出し,GNRI不変群,GNRI低下群と比較した.本研究は,医学研究における倫理的問題に関する見解および勧告,症例報告を含む医学論文および学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針を遵守している.また,厚生労働省の研究倫理審査委員会報告システムに登録された田園調布中央病院倫理委員会(認定番号21000138)において,2022年1月31日に本研究の審査が行われ承認された(番号001009号).

結果

対象患者294例の内訳は,GNRI上昇群161例,GNRI不変群9例,GNRI低下群124例であった.患者背景を表1に示す.カイ二乗検定にて,3群間に性別,年齢による有意差は認められなかった.栄養投与経路については,GNRI上昇群,GNRI低下群で,経口または経腸栄養が多く,カイ二乗検定で有意差が認められた.NST介入期間の平均値は37.4日で,最短21日,最長175日であった.Kruskal-Wallis検定にて比較を行い,介入期間は3群間に有意差を認めなかった.基礎疾患を表2に示す.1症例で複数疾患を抱えている場合もあり,疾患ごとに各群での症例数をカウントし,症例総数上位6疾患を示した.疾患ごとに行ったカイ二乗検定では,3群間に有意差を認めなかった.

表1.患者背景,およびNST介入期間

GNRI上昇群 GNRI不変群 GNRI低下群 p
(n = 161) (n = 9) (n = 124)
n % n % n %
性別 0.23
 男 42 26.1 4 44.4 42 33.9
 女 119 73.9 5 55.6 82 66.1
年齢 0.86
 90~94 104 64.6 3 33.3 76 61.3
 95~99 47 29.2 6 66.7 42 33.9
 100~ 10 6.2 0 0.0 6 4.8
栄養投与経路 0.02*
 経口/経腸栄養 103 64.0 3 33.3 58 46.8
 経口/経腸・経静脈栄養併用 32 19.9 2 22.2 32 25.8
 経静脈栄養 26 16.1 4 44.4 34 27.4
平均値 ± 標準偏差(最小~最大) 平均値 ± 標準偏差(最小~最大) 平均値 ± 標準偏差(最小~最大) 0.40
NST介入期間(日) 37.4 ± 19.0(21~140) 32.7 ± 13.6(21~63) 43.3 ± 28.3(21~175)

*p < 0.05

表2.基礎疾患(上位6疾患)

GNRI上昇群(161例) GNRI不変群(9例) GNRI低下群(124例) p
n % n % n %
肺炎 54 33.5 5 55.6 36 29.0 0.23
骨折 26 16.1 0 0.0 23 18.5 0.34
心不全 18 11.2 1 11.1 18 14.5 0.70
悪性疾患 10 6.2 1 11.1 16 12.9 0.15
尿路感染症 15 9.3 1 11.1 4 3.2 0.11
脳血管障害 14 8.7 0 0.0 6 4.8 0.31

推奨エネルギー量,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量について,3群間で一元配置分散分析(ANOVA)による比較を行い,3群間に有意差がある場合には各群を比較する多重比較検定(Bonferroni法による補正)を行った.推奨エネルギー量の平均値は,GNRI上昇群で999.4 kcal,GNRI不変群で933.3 kcal,GNRI低下群で994.0 kcalであり,3群間に有意差を認めなかった.推奨エネルギー量達成率の平均値は,GNRI上昇群で99.7%,GNRI不変群で91.6%,GNRI低下群で88.2%であり,GNRI上昇群はGNRI低下群より有意に高かった(p = 0.01).また,投与エネルギー量は,GNRI上昇群で1,003.1 kcal,GNRI不変群で864.7 kcal,GNRI低下群で879.9 kcalであり,GNRI上昇群はGNRI低下群より有意に高かった(p = 0.02)(表3).

表3.推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量の3群間比較(Bonferroni補正後のp値)

推奨エネルギー量達成率の3群間比較(Bonferroni補正後p値)
GNRI上昇群 GNRI不変群 GNRI低下群
GNRI上昇群
GNRI不変群 1.00
GNRI低下群 0.01* 1.00
投与エネルギー量の3群間比較(Bonferroni補正後p値)
GNRI上昇群 GNRI不変群 GNRI低下群
GNRI上昇群
GNRI不変群 0.84
GNRI低下群 0.02* 1.00

* p < 0.05

そこで,推奨エネルギー量達成率と投与エネルギー量について,GNRI上昇群とGNRI低下群の2群間でStudentのt検定を行った.その結果,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量のいずれにおいても,GNRI上昇群は,GNRI低下群より有意に高かった(推奨エネルギー量達成率:p = 0.004,投与エネルギー量:p = 0.006)(表4).また,背景因子を調整するため,2群間で重回帰分析を行った.調整変数として,性別,NST介入期間の他,基礎疾患として記録された病名から上位6疾患(肺炎,骨折,心不全,悪性疾患,尿路感染症,脳血管障害)を選択した.その結果,上記の項目を調整すると,GNRI上昇群はGNRI低下群と比較して有意に,推奨エネルギー量達成率が12.0%上昇(p = 0.004)し,投与エネルギー量が130.8 kcal上昇(p = 0.004)することが示唆された.

表4.Studentのt検定によるGNRI上昇群とGNRI低下群の比較

GNRI上昇群(n = 161) GNRI低下群(n = 124) p
推奨エネルギー量(kcal) 999.4 ± 202.6 994.0 ± 163.0 0.81
推奨エネルギー量達成率(%) 99.7 ± 31.3 88.2 ± 35.5 0.004*
投与エネルギー量(kcal) 1003.1 ± 364.7 879.9 ± 378.9 0.006*

* p < 0.01

3大栄養素の投与エネルギー量と投与割合を表5に示す.症例ごとに投与エネルギー量に対する3大栄養素の投与割合を算出し,Kruskal-Wallis検定で比較した.その結果,GNRI上昇群の3大栄養素の投与割合の平均値は,蛋白質15.3%,脂質22.3%,炭水化物62.4%であり,GNRI低下群と比較して,有意に蛋白質投与割合が高く,炭水化物投与割合が低かった.

表5.3大栄養素の投与割合

GNRI上昇群(161例) GNRI不変群(9例) GNRI低下群(124例) 投与割合のp
エネルギー量(kcal) 投与割合(%) エネルギー量(kcal) 投与割合(%) エネルギー量(kcal) 投与割合(%)
投与エネルギー量 1003.1 ± 364.7 864.7 ± 456.3 879.9 ± 378.9
蛋白質 154.0 ± 63.5 15.3 ± 4.5 136.4 ± 77.0 16.0 ± 2.4 128.5 ± 63.1 13.8 ± 5.6 0.03*
脂質 230.2 ± 121.5 22.3 ± 9.7 179.8 ± 183.0 20.9 ± 19.4 186.6 ± 122.1 19.3 ± 11.6 0.13
炭水化物 618.9 ± 238.6 62.4 ± 11.3 548.6 ± 294.6 63.1 ± 20.1 564.7 ± 238.8 66.9 ± 14.1 0.04*

* p < 0.05

考察

GNRIは,Bouillanneら6)が2005年に発表した高齢者を対象とした栄養リスク指標であり,GNRI =[14.89 × 血清アルブミン(g/dL)]+[41.7 ×(現体重(kg)/理想体重(kg)]である.血清アルブミン値,現体重,理想体重のみで算出できるため,評価者の主観が入らず,客観的な評価が可能な指標である.本研究では,Niiら7)の方法に従い,理想体重は22 × 身長(m)2で求め,現体重が理想体重を超えた場合に,その比を1とする補正は行わなかった.GNRIの値により,重度栄養リスク(82未満),中等度栄養リスク(82以上92未満),軽度栄養リスク(92以上98未満),栄養リスクなし(98以上)の4つのカテゴリーに分類される.GNRIは握力やリンパ球とよく相関し8,9),高齢患者,血液透析患者,心不全患者,悪性疾患患者などにおいて予後予測能が評価されている1013)

一方で,超高齢の急性期症例の場合,多くの症例が重度栄養リスクと判定され,NST介入期間内に栄養リスクのカテゴリーが変化しない傾向がある.今回の我々の検討では,全294例のうち,GNRIカテゴリー改善22例,GNRIカテゴリー不変255例,GNRIカテゴリー増悪17例であり,不変群のうち233例が重度栄養リスクのまま変化しなかった(表6).これら3群において,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量について一元配置分散分析(ANOVA)を実施したが,3群間に統計的有意差は認められなかった.このように,GNRIカテゴリーによる栄養評価は,一時点でのリスク評価には有効であるが,限られたNST介入期間での栄養リスクの変化の検出は難しいと思われた.

表6.GNRIカテゴリーの変化

最終回GNRI
重度栄養リスク 中等度栄養リスク 軽度栄養リスク 栄養リスクなし
初回GNRI 重度栄養リスク 233 20 1 0 254
中等度栄養リスク 13 19 1 0 33
軽度栄養リスク 0 3 1 0 4
栄養リスクなし 0 1 0 2 3
246 43 3 2 294

GNRIカテゴリー改善:22例

GNRIカテゴリー不変:255例

GNRIカテゴリー増悪:17例

そこで,我々はGNRIの素点の変化に着目した.Niiら7)は,脳血管障害症例67例の検討で,年齢,性別,脳卒中の病型,入院時アルブミン値,BMI,入院時GNRI,入院時Functional Independence Measure(以下,FIMと略),入院時エネルギー摂取量,GNRI改善度の9つを独立変数,FIM効率を従属変数とした多変量重回帰分析を行い,GNRI改善度,入院時エネルギー摂取量,脳出血は,独立してFIM効率の改善と正の相関があることを報告した.これをうけてTokunagaら14)は,回復期高齢脳卒中患者155例におけるGNRIの改善と,運動FIM改善との関係を検討し,入院時GNRIとGNRI改善度は,どちらも有意な独立変数であり,入院時GNRIとGNRI改善度が大きいほど,運動FIM改善は大きいと結論している.また,樋口ら15)は血液透析患者138例においてGNRIを測定し,GNRIは加齢,女性で有意な低値を示し,生化学パラメーターとしては,血清アルブミン,Fetuin-Aと正の相関を示し,CRP,IL-6,8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)と負の相関を示し,栄養,炎症,動脈硬化,酸化ストレスと密接な関連があることが示唆されたと結論している.これらの知見をもとに,我々は,GNRI素点の改善と,NST介入後の推奨エネルギー量達成率,ならびに投与エネルギー量の関係を検討した.

今回の検討において,4回以上(21日以上)の介入を行った全症例を組み入れることで,組み入れに関するバイアスが入らないようにした.統計解析にあたり,まずGNRI上昇群,GNRI不変群,GNRI低下群の3群で一元配置分散分析(ANOVA)による比較を行った.その結果,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量について,GNRI上昇群はGNRI低下群より有意に高いことを確認した.つぎにGNRI上昇群とGNRI低下群の2群間でStudentのt検定を行い,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量につき,いずれもGNRI上昇群がGNRI低下群より有意に高いことを確認した(p < 0.01).さらに,背景因子を調整するため,2群間で重回帰分析を行った.調整変数として,性別,NST介入期間の他,基礎疾患として記録された病名から上位6疾患(肺炎,骨折,心不全,悪性疾患,尿路感染症,脳血管障害)を選択した.多重共線性による回帰分析の精度低下を避けるため,GNRI上昇群,GNRI低下群と相関する栄養投与経路は,調整変数に含めなかった.その結果,背景因子を考慮しても,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量ともに,GNRI上昇群がGNRI低下群より有意に高いことを確認した(p < 0.01).

急性期病院,とくにDPC対象病床では入院期間も限られる.また,治療開始直後の症例にあっては,忍容性を確認しながら徐々に投与エネルギー量を増加させることが必要であり,限られたNST介入期間において推奨エネルギー量の投与を達成し得ないことも多い.NSTでのフォローアップ期間が3回以下(14日以下)の場合,約17日とされるアルブミンの半減期に満たず,GNRI値に栄養療法の効果が表れるには期間が短すぎると思われるため,今回の検討においては,4回以上(21日以上)フォローアップできた症例のみを対象とした16)

GNRI素点が栄養リスクの代理指標となるという仮説の下で,GNRI上昇群は,「栄養リスクが悪化しなかった群」,GNRI低下群は「栄養リスクが悪化した群」と言い換えることができよう.今回の検討の主要結果は,栄養リスクが悪化した群では,NST介入終了までにHarris-benedict式による推奨エネルギー量を達成していないのに対し,栄養リスクが悪化しなかった群では,有意差をもって推奨エネルギー量をほぼ達成できており,その投与エネルギー量の平均値が約1,000 kcalであったことである.また,各種の患者背景を調整した重回帰分析でも,同様の結果が得られた.逆に,Harris-benedict式を用いて,ストレス係数,活動係数から算出した推奨エネルギー量がほぼ1,000 kcalであり,GNRI上昇群での推奨エネルギー量達成率がほぼ100%であることは,Harris-benedict式の妥当性を示唆しているとも考えられる.

一方で,GNRI上昇群161例の投与エネルギー量にはばらつきがあり,1,000 kcal以上の投与エネルギー量を達成したのは97例(60.2%)に留まった(表7).したがって,一律に1,000 kcalを以て,個別の症例の栄養リスクを悪化させないための至適エネルギー量とは評価できない.このエネルギー量1,000 kcalの意義は,急性期病院入院中の90歳以上の超高齢者のうち,栄養リスクが悪化しなかった群の投与エネルギー量の代表値であることにある.従来基準値が示されていなかった90歳以上の超高齢者の至適エネルギー量について,1つの指標となる値を提示したことが,今回の検討の新規性である.また副次的な結果として,GNRI上昇群での3大栄養素ごとの投与エネルギー量の内訳については,GNRI上昇群はGNRI低下群と比較して,有意に蛋白質投与割合が高く,炭水化物投与割合が低かった.

表7.投与エネルギー量1,000 kcal以上の症例数

GNRI上昇群 GNRI不変群 GNRI低下群 p
(n = 161) (n = 9) (n = 124)
n % n % n %
投与エネルギー量 0.02*
 1,000 kcal以上 97 60.2 3 33.3 56 45.2
 1,000 kcal未満 64 39.8 6 66.7 68 54.8

*p < 0.05

つぎに,本研究の限界について述べる.今回の検討は,急性期病院に入院中の90歳以上の超高齢者を対象としているため,回復期で経口摂取が確立し,リハビリテーションによる運動負荷の多い症例や,健常な超高齢者の至適エネルギー量としては適応されないと考えられる.また,当院では2010年よりNSTスクリーニング基準(表8)を設けたが,NST介入は主治医の指示により行われるため,NST介入の際の患者選定に係るバイアスが存在する可能性がある.一方,NST介入の終了は転退院や死亡による入院終了によるが,栄養状態が改善して介入が不要となった場合や,病状増悪して積極的治療から撤退する場合にも,NSTの判断により介入を終了することがある.また,今回の検討では,CRPなどの炎症に関わる指標が記録されておらず,症例ごとの侵襲の程度を加味した分析ができなかった.NST介入期間終了後の転帰も不明であり,28日死亡率などのアウトカムを検討することができなかった.今後は,より多くの症例数を集積する前向きの観察研究が望まれる.

表8.NSTスクリーニング基準

NSTスクリーニング基準
(1)血清アルブミン3.0 g/dL未満の症例
  食欲不振の高齢者などを含む
(2)褥瘡のある症例
(3)嚥下機能に問題のある症例
  絶食中,ないしはゼリー,ミキサー食を摂取している症例,誤嚥性肺炎の症例など
(4)胃瘻による栄養管理を行っている症例
(5)術前・術後症例
  整形外科:大腿骨頸部骨折で入院中の高齢者
  外科:待機手術症例,特に消化器系手術の場合,侵襲度の高い手術の場合など
(6)終末期症例
  緩和ケアの一環として

結論

急性期病院に入院中の90歳以上の超高齢者294例を検討し,GNRI上昇群,GNRI不変群,GNRI低下群の3群に分けて比較した結果,推奨エネルギー量達成率,投与エネルギー量について,GNRI上昇群はGNRI低下群より有意に高いことを確認した.GNRI上昇群161例とGNRI低下群124例で比較を行ったところ,推奨エネルギー量の平均値は,GNRI上昇群で999.4 kcal,GNRI低下群で994.0 kcalであった.推奨エネルギー量達成率の平均値はGNRI上昇群で99.7%であり,GNRI低下群の88.2%より有意に高かった.また,投与エネルギー量の平均値は,GNRI上昇群で1,003.1 kcalであり,GNRI低下群の879.9 kcalより有意に高かった.急性期病院に入院中の90歳以上の超高齢者の栄養リスクを悪化させない至適エネルギー量は,概ね1,000 kcalであることが示された.

謝辞

本研究を行うにあたり,田園調布中央病院診療支援課・大岡理恵子氏に多大なご協力をいただいた.ここに感謝の意を表する.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2023 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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