学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
原著
膵頭十二指腸切除術における胃内容排出遅延の臨床経過・栄養状態への影響に関する検討
三浦 温子元井 冬彦伊関 雅裕石田 晶玄狩野 修代佐藤 裕子佐藤 菜保子大沼 忍亀井 尚海野 倫明
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2023 年 5 巻 2 号 p. 67-73

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Abstract

【目的】胃内容排出遅延は,膵頭十二指腸切除術後の合併症の1つであるが,臨床経過や栄養状態に与える影響についての詳細な報告は少ない.当院における胃内容排出遅延症例の臨床経過,栄養状態への影響について検討を行った.

【対象および方法】2014年から2017年までに当院で膵頭十二指腸切除術を行った175例を対象に,胃内容排出遅延を認めた症例98例と,認めなかった症例77例に分けて,術後経過や術後合併症,Controlling nutritional statusスコアによる栄養状態について解析を行った.

【結果】胃内容排出遅延は,女性であること,術後合併症の発生と有意に関連した.一方,栄養状態との比較では明らかな差は認めず,膵がん症例においても生命予後との関連は認めなかった.

【結論】胃内容排出遅延は,術後合併症の発生と関連するが,適切な栄養サポートを行うことで,栄養状態を悪化させることなく,退院させることが可能であると思われた.

Translated Abstract

Delayed gastric emptying (DGE) can occur as a complication after pancreaticoduodenectomy, but there are few detailed reports on its effect on clinical course and nutritional status. We examined occurrence of DGE, clinical course, and nutritional status in 175 patients with pancreatic cancer who underwent pancreaticoduodenectomy at our hospital from 2014 to 2017. The patients were divided into those with (n = 98) and without (n = 77) DGE in the postoperative course. Nutritional status was examined based on the CONUT score. DGE was found to be significantly associated with female sex and development of postoperative complications, but not with nutritional status, and there was no association of DGE with life prognosis. These results suggest that DGE is associated with development of postoperative complications, but that with proper nutritional support, a patient with DGE can be discharged without an aggravated nutritional status.

目的

膵頭十二指腸切除術(Pancreaticoduodenectomy;以下,PDと略)は,消化器外科領域で最も手術侵襲の大きな手術の1つであり,日本肝胆膵外科学会の指定する高難易度手術の代表的な術式である1).PDの切除部位は膵,胆管,胆嚢,胃,小腸,十二指腸と多臓器にわたり,再建も膵消化管吻合,胆管空腸吻合,胃空腸吻合など複数個所におよぶ2).PDの術後には,膵液瘻,腹腔内出血,腹腔内膿瘍,胃内容排出遅延(Delayed gastric emptying;以下,DGEと略),胆汁漏,胆管炎,手術部位感染などを合併することがあり,その発生率は,40–60%と他の消化器手術と比べて高い2,3)

DGEは,機械的な腸閉塞や縫合不全を伴わない,術後の胃運動低下や胃の容量不足による病態を指す46).DGEは,術後のQuality of life(以下,QOLと略)を低下させ,また入院期間を延長させるが,重篤な合併症ではなく,致命的になることはほとんどない.しかしながら,DGEは経口・経腸による栄養管理を困難にすることがあり4),術後の栄養状態を悪化させる可能性がある.また低栄養状態は,PD後の合併症を増加させること7)や,QOLの低下と関連する8)ことが報告されており,術後合併症を回避・軽減するためにも,DGEへの対応を含めた周術期の栄養管理は重要であると考えられる.DGEの定義・重症度については,2007年のWenteらの分類6)が現在広く用いられており,その定義に基づいて,DGEの発症リスクや,術式による予防などの臨床試験が数多く報告されている.しかしながらこれまでのところ,DGE症例の経過や栄養状態についての詳細な研究は少なく,DGEが術後の栄養状態やその後の経過にどのような影響を与えるかについては未だ明らかになっていない.

本研究は,PDを施行した症例を解析し,DGEを合併したことによる栄養状態および臨床経過への影響を明らかにし,周術期の栄養管理,看護に反映させることを目的とした.

対象および方法

2014年1月~2017年12月までに東北大学病院肝胆膵外科でPDを施行した症例を対象に検討を行った.なお当施設のPDは,通常亜全胃温存膵頭十二指腸切除術で行い,Child変法により再建している.胃空腸吻合はBillroth II法に準じて行っている.また,全例手術中に経腸栄養チューブを腸瘻として留置している.亜区域以上の肝切除術を同時に施行した症例は除外し,またPDによる残膵全摘術は対象としていない.本検討では幽門側胃切除術,噴門側胃切除術などの胃切除の既往がある症例も対象としたが,胃全摘術の既往のある症例は対象外とした.また,術後7日目以降にDGE以外の原因による絶食期間があるもの,すなわち,再手術や再挿管を行い,食事摂取自体が不可能な場合,誤嚥性肺炎や縫合不全,乳び腹水などにより絶食管理が行われた場合などは,本検討から除外した.

対象となった症例の,DGE発生有無およびDGEのGrade評価と,カルテより抽出した患者情報・周術期成績・術後経過・栄養状態とを後ろ向きに比較した.

DGE分類はWenteらの定義に従った6).Wenteらの定義では,胃管が術後3日以内に抜去され,再挿入もなく,経口摂取も問題ないものは「DGEなし」とされ,Grade AのDGEは,胃管が術後4–7病日まで留置されているもの,術後3日以内に再挿入されているもの,術後7–13病日まで経口摂取困難であるものであり,Grade BのDGEは,胃管が術後8–14病日まで留置されているもの,術後7日以内に再挿入されているもの,術後14–20病日まで経口摂取困難であるものであり,Grade CのDGEは,胃管が術後15日以上留置されているもの,術後14日以降に再挿入されているもの,術後21日以上経口摂取困難であるものと定義されている.

診療科データベース・電子カルテより,年齢,性別,身長,体重,疾患名,手術術式,手術時間,出血量,膵液瘻の有無,術後合併症の有無,術後入院期間,血液生化学検査結果を抽出した.また入院中の経口食事摂取量,経腸栄養剤や点滴を含めた全摂取カロリー,嘔吐の有無についても抽出を行った.膵がん症例においては,術後の無再発生存期間の抽出を行った.

膵液瘻の定義はInternational Study Group of Pancreas FistulaのGrade分類9)を用い,Grade B以上を臨床的膵液瘻とした.術後合併症についてはClavien-Dindo分類10)のGrade IIIAを術後合併症ありとした.Clavien-Dindo分類でGrade IIIB以上の症例は,原則絶食管理が行われているため,検討の対象から除外した.

当院ではPDの術後管理は,クリティカルパスを用いて行っており5),術後1病日から飲水を開始し,術後3病日より食事を提供している.また,術後3病日より経腸栄養チューブによる消化態栄養剤の投与を少量(200 mL)より開始し,経口摂取量が少ない場合は,増量して投与している.DGEによりほとんど経口摂取ができない場合は,1日あたり600 mLから800 mLの経腸栄養剤の投与を腸瘻より施行している.また,経口摂取が不十分と判断された症例に対しては,栄養サポートチームの介入が行われ,栄養障害にならないよう経腸栄養,静脈栄養の見直しが行われている.

栄養状態は,CONUT法により評価を行った.CONUT法は,血清アルブミン値,末梢血リンパ球数,血清コレステロール値を用いて,栄養障害の程度に応じて,正常から,軽度障害,中等度障害,高度障害までの4群に分類する方法である.血清アルブミン値,末梢血リンパ球数,血清コレステロール値それぞれの数値に応じて,固有の値が割り当てられ,それぞれの値を合計することでCONUT値を算出する11).CONUT値が高いものほど,栄養状態が不良である.膵切除術において,CONUT法は栄養状態の把握・合併症の予測に有用であることを当施設よりこれまで報告しており7,12),現在周術期の栄養評価はCONUT法により行っている.栄養評価としては,手術前10日間のうち最良のCONUT値を術前CONUT値として,術後の栄養評価は,術後1週毎の最良のCONUT値を用いた.なお,術後にCONUT値を測定した症例は,入院中の症例であり,退院した症例は含んでいない.退院後長期の栄養評価として,手術10–14カ月後で最良のCONUT値を手術1年後CONUT値とした.また,手術および化学療法など抗がん治療開始前の栄養評価値として,術前化学療法を行っている症例は化学療法開始前2カ月で最良のCONUT値を,術前化学療法を行っていない症例は,術前10日間で最良のCONUT値を,治療前CONUT値として定義した.術前化学療法を行っていない症例では,術前CONUT値と治療前CONUT値は同一である.

術後のエネルギー必要量は,標準体重をもとにHarris-Benedictの式より基礎エネルギー消費量を計算し13),さらに活動係数,ストレス係数として1.5を乗ずることにより算出した.実際の摂取カロリーを術後のエネルギー必要量により除算することで術後エネルギー充足率とした.

統計解析はR(R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)を用いて行った.データは中央値(第1四分位値-第3四分位値)で示し,連続変数データはウィルコクソン検定,カテゴリーデータはフィッシャーの正確確率検定にて比較を行った.手術後の無再発生存期間はカプランマイヤー法により評価した.ロジスティック解析は,Python(3.7.15)のstatsmodelsライブラリを使用した.

本研究は,「膵疾患における臨床病理学的関連因子と治療成績の検討」研究の部分解析として研究を実施した(東北大学倫理委員会承認番号2017-1-089).

結果

症例の内訳を表1に示す.研究対象期間内にPDを施行した212例のうち,亜区域以上の肝切除術を同時に施行した11例,胃全摘術の既往がある2例を除いた199例のカルテ情報を抽出した.術後7日目以降に,DGE以外の理由にて絶食管理を必要とした24例を除外した175例を対象に,解析を行った(図1).年齢の中央値は67(60–74)歳で,男性111名,女性64名であった.疾患は膵がんが80例であった.DGEは98例に認め,Grade Aが51例,Grade Bが14例,Grade Cが33例であった.胃切除術の既往に関しては,幽門側胃切除術の既往を4例(Billroth I法再建3例,Billroth II法再建1例)に認め,DGEはBillroth I法にて再建した症例3例全てに認め,Billroth II法で再建した症例には認めなかった.噴門側胃切除術の既往のある症例は,本研究の検討症例には認めなかった.

表1.DGEの有無と,術前・術後因子の比較

全症例(175例) DGEなし(77例) DGEあり(98例) 単変量解析 多変量解析
p 回帰係数(信頼区間) p
年齢(歳) 67(60–74) 65(58–72) 68(62–75) 0.03 0.0335(0.001–0.066) 0.04
性別(男:女) 111:64 58:19 53:45 <0.01 1.398(0.628–2.168) <0.01
BMI 22.3(20.1–24.7) 22.4(20.4–24.6) 22.0(20.0–24.7) 0.93 –0.0579(–0.167–0.051) 0.30
疾患(膵がん:その他) 80:95 35:42 45:53 0.95 –0.1272(–0.871–0.617) 0.74
手術時間(分) 539(468–610) 547(477–607) 534(457–615) 0.58 –0.0031(–0.007–0.001) 0.12
出血量(g) 1,058(682–1,460) 1,017(640–1,347) 1,127(760–1,495) 0.19 0.0008(0.000–0.001) 0.01
膵液瘻(なし:あり) 115:60 57:20 58:40 0.04
術後合併症(なし:あり) 98:75 55:22 45:53 <0.01 1.3749(0.633–2.117) <0.01

術後合併症はClavien-Dindo分類のGrade IIIAの術後合併症を指す.

図1.対象症例のフロー図

研究期間内に膵頭十二指腸切除術を行った症例は212例であった.

亜区域以上の肝切除術を同時に施行した症例11例,胃全摘を施行した2例を除いた199例よりカルテ情報を抽出した.DGE以外の理由で,術後第7病日以降に絶食管理を行った24例を除外した175例を対象に解析を行った.

DGEを認めた症例98例と,DGEを認めなかった症例77例に分けて,臨床因子との比較を行った(表1).

単変量解析では,患者側因子としてDGE発生症例では,有意に年齢が高く(p = 0.03),女性に多かった(p < 0.01).手術に関わる因子として,手術時間および出血量を比較したが,明らかな差は認めなかった.術後経過・合併症との関連としては,DGEの発生例において,有意に臨床的膵液瘻(p = 0.04)および,Clavien-Dindo分類でGrade IIIAの術後合併症(p < 0.01)を多く認めた.Clavien-Dindo分類でGrade IIIAの術後合併症75例の内訳としては,膵液瘻57例,出血5例,胆汁漏6例,腹腔内膿瘍35例,その他6例であった(重複あり).

術後膵液瘻と術後合併症は明らかな相関を認めたため(R = 0.66,p < 0.01),術後膵液瘻を除いて,他の因子全て(年齢,性別,BMI,疾患,手術時間,出血量,術後合併症)を用いてロジスティック回帰による多変量解析を行ったところ,性別,出血量,Clavien-Dindo分類でGrade IIIAの術後合併症が,DGEに関連する因子として抽出され,決定係数は0.15であった(表1).

DGE発生と,術後経過および栄養状態の比較を表2に示す.術後在院日数はDGE発生症例で有意に長かった(p < 0.01).

表2.DGEの有無と,入院期間・栄養状態推移の比較

DGEなし(77例) DGEあり(98例) p
術後在院日数(日) 22(18–31) 39(30–49) <0.01
CONUT値
 治療前 2(1–4) 2(1–4) 1
 術前 3(1–4) 2(1–4) 0.76
 手術2週後 7(5–9) 6(2–9) 0.79
 退院時 6(5–8) 6(4–8) 0.47
 手術1年後 2(1–3) 2(1–3) 0.9

治療前,術前,術後2週間,退院時,手術1年後のCONUTスコアによる栄養評価では,DGEの発生と栄養状態に有意な関連は認めなかった(表2).

術後1週,2週,3週におけるCONUTスコアの変化およびエネルギー充足率を図2に示す.DGEがある症例では,経口摂取エネルギーが低い傾向があるが,経腸栄養や静脈栄養で不足分を補うことで,エネルギー摂取量は充足しており,DGEのない症例とほぼ同じレベルの栄養状態であった.また術後3週目以降は,退院症例が検討に含まれていない.

図2.術後栄養状態とエネルギー充足率

術後1週,2週,3週のCONUTスコア(A)とエネルギー充足率(B)を示す.BのDGEありなしの下の人数は,解析時の入院患者数である.経口,経腸,経静脈により摂取したエネルギーを,術後の必要エネルギーで除した割合を,エネルギー充足率とし,経口摂取による割合と非経口摂取による割合を提示した.DGEがある症例においては,経口摂取エネルギーが低い傾向を認めるが,非経口摂取エネルギーが増えることで,DGEのない症例と同じレベルまで栄養が充足されている.

膵がん症例に対して,術後の無再発生存期間をDGEの有無について比較した(図3).DGEのない群(35例)とDGEを認めた群(45例)に,進行度に差は認めず,生命予後にも有意な差を認めなかった.

図3.膵がん症例における無再発生存期間とDGEの解析

膵がん症例の無再発生存期間を,DGEの有無により比較した.黒線がDGEのなかった症例,灰色の線がDGEを認めた症例である.

DGEの発生症例においては,臨床的膵液瘻,Clavien-Dindo分類Grade IIIAの術後合併症が有意に多いため(表1),臨床的膵液瘻,Clavien-Dindo分類Grade IIIAの術後合併症の発生症例における,DGEの発生状況について検討した.

International Study Group of Pancreatic Surgery分類におけるGrade B以上の臨床的膵液瘻60例において,DGEは40例に認め,DGEの発症率は67%であり,臨床的膵液瘻のない症例の50%(臨床的膵液瘻のない115例中,DGE58例)に比べ有意に(p = 0.05)高率であった(図4A).

図4.術後合併症とDGEの発生・Grade

術後膵液瘻(A)およびClavien-Dindo分類Grade IIIAの術後合併症(B)におけるDGE発生とその程度を示す.術後膵液瘻や術後合併症の発症した症例においては,DGEの発生は多く,またGradeも高くなる傾向を認めた.

Clavien-Dindo分類Grade IIIAの術後合併症75例において,DGEは53例に認め,発症率は71%であり,術後合併症のない症例の45%(術後合併症のない100例中,DGEは45例に認めた)に比べ,有意に(p < 0.01)高率であった(図4B).

臨床的膵液瘻,Clavien-Dindo分類Grade IIIAの術後合併症を伴うDGEは,合併症の影響を強く受けるため,合併症のない症例に起きるDGEとは区別して考える必要があると思われた.そこで臨床的膵液瘻またはClavien-Dindo分類Grade IIIAの合併症に起こったDGEを,二次性DGEと定義し,合併症を伴わないDGEを一次性DGEとして,比較を行い,結果を表3に示す.一次性DGEは,やや女性に多く(p = 0.10),BMIが低い症例に多い(p = 0.06)傾向を認めた.DGEの症状である嘔吐,および経鼻胃管の留置率は,両群間に有意な差は認めなかった.しかし二次性DGEにGrade Aが少なく,Grade Cが多い傾向を認め,二次性DGEでは一次性DGEに比べ,入院期間が有意に長かった(p < 0.01).術前,退院時および手術1年後のCONUT値に両群間で差は認めなかった.またデータは示していないが,膵がん症例における無再発生存期間も,両群間で有意な差は認めなかった(p = 0.40).

表3.術後合併症の有無によるDGEの比較

一次性DGE(43例) 二次性DGE(55例) p
年齢(歳) 68(63–74) 68(62–76) 0.70
性別(男:女) 19:24 34:21 0.10
BMI 21.4(19.2–23.7) 23.2(20.9–25.2) 0.06
経鼻胃管留置(例) 13(30%) 12(22%) 0.81
嘔吐症状(例) 33(77%) 35(64%) 0.19
DGE Grade(A:B:C) 26:8:9 25:6:24 0.05
術後入院期間(日) 33(25–41) 44(36–55) <0.01
入院時CONUT値 3(1.5–4.5) 3(1–4) 0.14
退院時CONUT値 6(4–7.5) 6(4–8) 0.89
手術1年後CONUT値 2(1.75–3) 2(1–3) 0.65

Clavien-Dindo分類Grade IIIAの術後合併症に伴わないDGEを一次性DGE,Clavien-Dindo分類Grade IIIAの術後合併症に伴うDGEを二次性DGEとした.

考察

本研究では,DGE発生症例において,年齢が高く,女性に多いこと,およびDGEの発生が臨床的膵液瘻および術後合併症の発生と関連すること,術後入院期間を延長させることを示した.多変量解析では,女性であること,出血量,術後合併症がDGEの発生と関連していた.また,DGEの発生自体は,栄養状態に大きな影響をおよぼしていないこと,膵がんにおいては生命予後とも有意な関係がないことを明らかにした.

幽門側胃切除術の既往がある4例では,Billroth I法再建を行った3例においてはDGEの発生を認めたが,Billroth II法再建を行った症例ではDGEの発生は認めなかった.Billroth II法による胃切除術後症例に対するPDは,胃の再建がないため,DGEは発生しにくい可能性がある.

本検討では,DGEにおける患者因子のリスクファクターとして,多変量解析で,性別(女性)がDGE発生に関連することを示した.性別とDGEの発生に関しては,本検討と同じく,女性に多いとする報告もあるが14),男性に多いとする報告もある1517).後述するようにDGEは,随伴する合併症の有無および定義にもその発生が影響されるため,施設や症例の背景により,DGEのリスクファクターは異なりうるものと思われる.また,多変量解析にて出血量がDGEと関連する因子として抽出されたが,回帰係数は低く,その影響は低いと思われる.

DGEは膵液瘻や術後合併症の発生した症例に多いことが,一般によく知られており18),本研究でも同様の結果であった.そのためDGEの発生には,膵液瘻などの合併症自体の因子が,強く影響することが考えられ,合併症の症状や術後経過により,DGEのGradeや期間が異なると思われる.本検討では,臨床的膵液瘻などの術後合併症が発生した症例におけるDGEを二次性とし,明らかな術後合併症がない症例におけるDGEを一次性として2群に分けて検討を行った.

一次性DGEと二次性DGEを比較すると,後者はGradeが高いものが多く,DGEのGradeは術後合併症の影響を受けているものと推測される.一方,二次性DGEの栄養状態は,一次性DGEと差を認めず,これは術後の栄養管理が適切であったことの傍証として考えられる.

DGEは経口摂取が困難な病態であり,DGE症例においては栄養状態が低下することが予測されるが,本検討において,DGEの発生および重症度と,術後の栄養状態には有意な関連を認めなかった.その理由としては,DGEが発生したため経口摂取量が少なくなった症例に対して,経管栄養もしくは静脈栄養による十分な栄養サポートが行われ,全体としては摂取カロリーがDGEのない症例と同等になり,栄養状態に差がつかなかったものと考えられる.DGEの発生が,栄養状態に影響をおよぼさないことは,術後の栄養サポートが有効であるということの傍証となりうる.

長期的には,術後のDGE発生の有無は,栄養状態に大きな影響を与えておらず,退院後に問題となることは多くないと思われる.今回の我々の検討でも,DGEの有無は生命予後に影響を与えず,むしろやや良好な傾向を示していた.

結論

膵頭十二指腸切除術後の胃内容排泄遅延が,術後経過および栄養状態におよぼす影響について検討した.DGEは,膵液瘻,術後合併症の発生と関連するが,適切な栄養サポートを行うことで,栄養状態を悪化させることなく,加療することが可能であると思われた.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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