学会誌JSPEN
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臨床経験
胃瘻からの経腸栄養剤投与が初回通過効果におよぼす影響:小児例での検討
藤井 喜充
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2023 年 5 巻 3-4 号 p. 107-111

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Abstract

(目的)初回通過効果(first-pass effect;以下,FPEと略)は,吸収後の薬剤が経門脈的肝臓通過時に代謝される(多くは失活)ことで,効率は門脈血流量(Portal flow volume;以下,PFVと略)と相反する.本研究では,胃瘻栄養の薬剤至適投与タイミングを明らかにする.

(方法)胃瘻栄養児5例(男児2例,平均7.6歳)に1時間で310.8 mL/m2のイノラス®配合経腸用液は水分のみ,1/2濃度,原液で,超音波パルスドプラ法で体表面積換算のPFVを計測した(開始前-後0.5,1,1.5,2,3時間).対照は等量飲水の健常児18例である.

(結果)対照は開始前833.2 mL/分/m2,以降2.1,1.6,1.3,1.2,1.1倍であった.胃瘻栄養児の開始前は水分のみ814.1,1/2濃度1,040.2,原液938.6 mL/分/m2で,対照と同様の推移であった.

(結論)胃瘻注入開始時点の薬剤注入で,FPEによる失活の抑制が予測される.

目的

経口投与薬剤の多くは,消化管から吸収された後,全身循環前に経門脈的に肝臓を一旦通過する.この時に通過量に対して,一定の速度で薬剤は一部が代謝され,多くは薬効が低下する.この現象は,初回通過効果first-pass effect(以下,FPEと略)と呼ばれており1),血中濃度が治療域に保たれる必要があり,肝臓で失活する薬剤では,低く抑えられることが望ましい.肝細胞は極めて低速度でしか薬物を取り込めないため,一般に肝血流量が増加するほど,受動拡散を受けずに肝臓から全身循環に流入する薬剤の割合が増加することになり,肝血流量は増加するほど,FPEは低下する.重度心身障害児は,咀嚼や嚥下に障害があり経腸栄養剤(以下,栄養剤と略)と薬剤が経管で同時投与されることが多いが,経管栄養法がFPEにおよぼす影響については不明な点が多い.本研究では経胃瘻の栄養剤が,FPEにおよぼす影響を明らかにする目的で,肝血流量の主要な構成因子である門脈血流量(Portal flow volume;以下,PFVと略)を,超音波ドプラ機能を用い計測し,薬剤の最適な投与タイミングについて検討したので報告する.

対象と方法

1. 対象

対象は全て胃瘻で栄養と水分摂取を行っている脳性まひ小児(以下,胃瘻栄養児と略)で,肝機能障害を有さない(AST 35 U/L未満,ALT 30 U/L未満,総ビリルビン10.0 mg/L以下を全て満たす)5例を対象とした.対照症例は水分を体格に応じて一定量を経口飲水させた健常児18例と,経口飲水させなかった4例とした.表1に胃瘻栄養児,と対照症例の背景を示す.胃瘻栄養児は経口飲水ありの対照より,有意に摂取水分量が多かった.

表1.胃瘻栄養児と対照症例(経口飲水の健常児)の背景

対照症例経口飲水あり(n = 18) 対照症例経口飲水なし(n = 4) 胃瘻栄養児(n = 5) p 検定法
年齢 6.4 ± 2.3 6.3 ± 3.3 7.6 ± 4.4 0.728 Kruskal-Wallis検定
男,女 11,7 2,2 2,3 0.906 Fisher正確検定
体表面積(m2 0.84 ± 0.20 0.83 ± 0.24 0.58 ± 0.10 0.047* Kruskal-Wallis検定
水分量(mL/分/m2 263.6 ± 36.7 0 310.8 ± 16.8 0.011# Mann-Whitney U検定

*:対象(以下:胃瘻栄養児)と経口飲水ありの対照症例,胃瘻栄養児と経口飲水なしの対照症例間に有意差あり

#:胃瘻栄養児と経口飲水ありの対照症例の間に有意差あり

2. 胃瘻からの注入法

胃瘻からの栄養は,体格に応じた量を1時間での持続注入とした.栄養剤はイノラス®配合経腸用液(イーエヌ大塚製薬;以下,イノラスと略)を用い2),等量の原液,1/2濃度,水分のみとした.対照の飲水量は,同じ体格の対象の注入量と等量とした.胃瘻栄養児,対照ともに開始前3時間は一切の経口および胃瘻注入を中止した.

3. PFV測定法

超音波検査はキャノンメディカルシステムズ社,Aplio300を用い,コンベックス探触子でBモード6 MHzで設定した.パルスドプラ法で繰り返し周波数は13 fpsに設定した.時間平均最高血流速度を門脈本幹で測定し,パルスドプラの補正角度は,門脈長軸方向に一致させた(図1-a).門脈断面積を平均血流速度の測定部位で計測した(図1-b).《式1》に従い,体表面積当たりに換算したPFVを求めた3,4)

図1.超音波検査法

Vm_peakA: time averaged maximum flow velocity

 

PFV(mL/分/m2) = 60 × 平均血流速度(cm/s) × 門脈本幹断面積(cm2)/体表面積(m2) 《式1》

 

PFVの計測は,胃瘻注入または飲水前,開始後0.5,1,1.5,2,3時間後とした.

4. 統計学的検討

Fisher正確検定,Mann-Whitney U検定,Kruskal-Wallis検定(下位Bonferroni),Pearson相関係数を用い,有意水準5%および1%で検定した.検定のソフトはEZR(バージョン1.27)を用いた.

5. 倫理的配慮

本臨床研究は関西医科大学倫理委員会で承認を得ている(倫理承認2019310).胃瘻栄養児と対照症例全員から,文面で同意を取得している.

結果

1. PFVの推移

経口飲水ありの対照健常児症例18例と,経口飲水なしの対照症例4例,および胃瘻栄養児の経時的PFVを表2と図2に示す.

表2.対照症例の経時的門脈血流量

飲水後時間(hr) 0 0.5 1 1.5 2 3
対照症例,経口飲水あり 833.2 ± 280.9 1,724.1 ± 576.8 1,321.6 ± 469.2 1,089.9 ± 456.7 965.4 ± 528.2 924.5 ± 477.5
対照症例,経口飲水なし 896.1 ± 509.1 906.3 ± 421.4 817.9 ± 414.6 933.9 ± 477.9 804.8 ± 427.4 899.4 ± 536.3
胃瘻栄養児,水分のみ 814.1 + 263.4 1,917.7 + 784.6 1,571.2 + 517.6 1,406.1 + 517.6 1,129.6 + 467.7 888.4 + 232.7
胃瘻栄養児,1/2濃度イノラス 1,040.2 + 380.3 2,009.7 + 571.6 1,334.4 + 559.5 1,139.7 + 436.3 1,094.7 + 491.7 926.6 + 271.5
胃瘻栄養児,原液濃度イノラス 938.6 + 402.6 1,970.6 + 830.2 1,217.7 + 571.6 1,096.0 + 606.5 1,119.8 + 532.4 1,088.6 + 351.4

経口飲水ありの対照症例(n = 18)経口飲水なしの対照症例(n = 4)胃瘻栄養児の水分のみと1/2濃度イノラスと原液濃度イノラス(各n = 5)の経時的門脈血流量Portal flow volume(平均 ± 標準偏差,単位mL/分/体表面積m2)を記載

経口飲水ありの対照症例と経口飲水なしの対照症例間のPearson相関係0.063:有意水準1%で相関性があるとはいえない

図2.経時的門脈血流量

経口飲水ありの対照症例のPFVは,飲水直前が833.2 mL/分/m2で,飲水後0.5時間で2.1倍の頂値の後漸減的に低下し,3時間後には1.1倍のほぼ前値に戻った.経口飲水なしの対照症例のPFVには,経時的変動はみられなかった.経口飲水ありとなしの対照症例のPFVの平均値間に,相関はみられなかった(Pearson相関係数0.063).

胃瘻栄養児の水分のみのPFVは前値814.1 mL/分/m2と,対照の飲水ありとほぼ同値を示した.以降経時的に前値の2.1,1.9,1.7,1.4,1.1倍の推移を示した.イノラス1/2濃度のPFVは,前値1,040.2 mL/分/m2,原液濃度のPFVは前値938.6 mL/分/m2と,水分のみより高値の傾向を示し,それぞれ経時的推移は前値の1.9,1.3,1.1,1.1,0.9倍と,2.1,1.3,1.2,1.2,1.2倍で,胃瘻栄養児のPFVは,イノラスの濃度に関わらず,同様の経時的推移を示した.0.5時間後のPFVは水分のみ1,917.7 mL/分/m2,イノラス1/2濃度2,009.7 mL/分/m2,イノラス原液濃度1,970.6 mL/分/m2と,ほぼ同じ値を示した.

飲水ありの対照症例と,水分のみ,イノラス1/2濃度,イノラス原液濃度の胃瘻栄養児において,PFVは相互に有意な相関を認めた.Pearsonの相関係数と統計学的検定の結果を表3に示す.

表3.経時的門脈血流量のPearson相関係数の検定

対照症例
経口飲水あり
胃瘻栄養児
水分のみ
胃瘻栄養児
1/2濃度イノラス
胃瘻栄養児
原液濃度イノラス
対照症例
経口飲水あり
胃瘻栄養児
水分のみ
0.958*
胃瘻栄養児
1/2濃度イノラス
0.964* 0.893#
胃瘻栄養児
原液濃度イノラス
0.942* 0.841# 0.966*

*:p < 0.01で,#p < 0.05で,相関性がないとはいえない

考察

経口飲水と経胃瘻注入で,PFVの値とその変化率は同様の推移を示し,いずれも開始後0.5時間でPFVは頂値に達し,イノラスの濃度に因らないことが明らかとなった.この結果はBurggraafらのICGクリアランスとパルスドプラ法による,健康成人の経口摂取時の門脈血流量の経時的変化と一致していた5)

胃瘻栄養児は1時間かけて胃瘻から栄養剤を注入しているため,開始時点では胃内にはほぼ内容物は入っていない.すなわち「胃に栄養剤や水分が入り始めた」最初の刺激が,PFVの経時的変化にとって重要であると推察される.胃瘻栄養児の摂取水分量は経口の対照より有意に多かったが(表1)相関係数が極めて高かった結果(表3)は,最終的な胃内容量よりも最初の刺激が,PFVの経時的変化にとって重要であることを示していると考察した.

胃への容量負荷が開始になった刺激は迷走神経を伝わり,延髄と孤束核,背側核を経由し,フィードバックが迷走神経を介して胃に伝わる.結果として胃は拡張し,内圧が一定に保たれる.この神経反射は適応弛緩accommodation reflexと呼ばれている6).迷走神経からは腸間膜枝が分岐しており,適応弛緩のフィードバックの神経刺激が腸間膜動脈に伝わり,血管拡張作用により腸間膜血流が増加する.結果として上腸間膜静脈を経由してPFVが増加する7,8).また迷走神経の総肝動脈枝の直接作用と,PFVの増加により分泌されたVasoactive intestinal peptideによる類洞拡張作用で,門脈の後負荷の低下がおこる8).結果として適応弛緩と同じタイミングで,PFVが増加することになる.

胃の感覚神経は容量感受性であり,濃度感受性ではない7).本研究の胃瘻栄養児のPFVの経時的変化が,イノラスの濃度と無関係であった結果は,胃が容量感受性であることを示しており,適応弛緩とPFVが同じ機序であることを示唆している.

薬剤のFPEによる失活の程度は,胃瘻からの栄養剤注入と薬剤の投与のタイミングで大きく変わることになる.PFVが高値になると,FPEは低下するため1,2),肝臓での代謝で失活する薬剤とは逆に,活性型に変化する薬剤は胃瘻注入終了時もしくはそれ以降が適切なタイミングだと推察される.表4に対象で使用された薬剤の,肝臓における代謝型(肝代謝産物)と最高血中濃度到達時間(Tmax)から推察される,至適な投与タイミングを記載する.Tmaxは2023年6月20日現在で公表されている添付文書の,健康成人男性の単回経口投与の値を採用した.berampanelは失活型であるが,初回通過効果の影響を受けないと添付文書には記載されている.したがって,薬物動態的に速やかに吸収され,TmaxがPFVの頂値である0.5時間とほぼ同時であるramelteon,valproic acidはberampanelと同様に,胃瘻持続注入開始時の投与で,生体利用率の低下が抑制できると推察される.一方trimebutine malateは代謝で活性型に変化するため,胃瘻栄養注入終了時か以降の投与が望ましいと推察される.

表4.胃瘻栄養児に使用された薬剤

肝代謝産物 Tmax(hr) 推奨される胃瘻栄養とのタイミング
berampanel 失活 0.7–1.0 持続注入開始時
clobazam 活性変化なし 1.4–1.7 どのタイミングでも可
clonazepam 失活 2 持続注入開始時
chlorpromazine 失活 2–3 持続注入開始時
lamotorigine 失活 1.7–2.5 持続注入開始時
levetiracetam 未代謝 1 どのタイミングでも可
ramelteon 失活 0.75–0.88 持続注入開始時
trimebutine malate 活性化 0.64–0.70 持続注入終了時または以降
valproic acid 失活 0.9 持続注入開始時
zonisamide 失活 5.3 持続注入開始時

薬剤名と「添付文書」で,Google Chrome(version 109)で検索し,肝代謝産物の活性と健康成人における単回経口投与での最高血中濃度到達時間(Tmax)を引用

この臨床研究の限界は2点である.1点目は対象である胃瘻栄養児の症例数が少ないことである.肝機能障害を有する症例を対象外としたのが主な理由である.2点目は,胃瘻に注入した薬剤が腸管に移動し吸収されるまでのタイミング,すなわち薬物動態が考慮されていないことである.胃内容物の排泄クリアランス測定による補正と胃からの吸収率による補正が必要と考えられるが,次の研究課題としたい.

結論

肝臓で代謝され失活する薬剤は胃瘻注入開始時点に,逆に活性型に変化する薬剤は胃瘻注入終了時か以降に投与で,FPEによる薬剤の生体利用率の低下を,抑制できる可能性がある.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

本論文の主旨は第38回日本臨床栄養代謝学会学術集会(2023年 神戸)で発表

引用文献
 
© 2023 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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