学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
症例報告
減量・代謝改善手術にパーソナルトレーニングを併用して劇的な減量を達成した高度肥満症の3症例
関 美好畑尾 史彦横田 敬子西浦 歩田村 清美平中 久美子
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2024 年 6 巻 1 号 p. 41-44

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Abstract

Body mass index(以下,BMIと略)35 kg/m2以上の高度肥満症は内科的治療に抵抗性であり,減量・代謝改善手術である腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の保険適応である.同手術に加えて自主的にパーソナルトレーニングを併用し,劇的な減量を達成した3症例を経験した.【症例1】初診時BMI 51.6 kg/m2,手術に加え週4回のトレーニングで術後2年でBMI 24.6 kg/m2となり,高血圧が寛解した.【症例2】初診時BMI 48.6 kg/m2,手術に加え週5回のトレーニングで術後2年でBMI 28.6 kg/m2となり,睡眠時無呼吸症候群が寛解した.【症例3】初診時BMI 37.1 kg/m2,手術に加え週5回のトレーニングで術後6カ月でBMI 25.4 kg/m2となり,2型糖尿病が寛解した.【結論】適切な栄養指導による食事管理に加えて,積極的に運動を併用することで減量・代謝改善手術の効果が,より高まる可能性が示唆された.

はじめに

肥満は健康に悪影響をもたらす後天的要因として世界的に蔓延し,日本でも肥満患者の増加が問題となっている.2型糖尿病,高血圧,脂質異常症,睡眠時無呼吸症候群のいずれか一つ以上を合併し,かつ6カ月以上の内科的治療を行っても十分な減量が得られないbody mass index(以下,BMIと略)35 kg/m2以上の高度肥満症患者に対して,減量・代謝改善手術である腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(laparoscopic sleeve gastrectomy;以下,LSGと略)が日本でも保険収載された1).胃の容積を縮小させる本手術により,摂食量の制限がしやすくなり体重減少が期待できる.その減量効果は総体重減少率(total weight loss;以下,TWLと略) = 減少体重 ÷ 初診時体重で評価される.本論文ではLSGを施行し,食事療法に加えてパーソナルトレーニング(以下,PTと略)にて運動を積極的に行うことで劇的な減量を達成した3症例について報告する.なお,食事に関しては,一日エネルギー量(kcal)および蛋白質量(以下,Pと略)について栄養指導によって提示した指示量と実際に摂取していた推定量の経過を表に示す(表1).また,当院においてこの3症例を含むLSGを実施した205例の平均TWLの推移および症例1,2,3の経過を図に示す(図1).運動に関しては,医療として提供されていないので,負荷量等の記録がないため確認できなかったIntensity(強度)を除いて,FITTプリンシパル2)のうちFrequency(頻度),Time(時間),Type(種類)を示す.

表1.各症例の食事量

術前 術後1カ月 術後2カ月 術後3カ月 術後6カ月以降
エネルギーkcal 蛋白質(g) エネルギーkcal 蛋白質(g) エネルギーkcal 蛋白質(g) エネルギーkcal 蛋白質(g) エネルギーkcal 蛋白質(g)
症例1 指示量 1,400 60 700 45 1,000 60 1,200 60 1,500 70
摂取量 1,450 65 800 40 1,000 50 1,100 55 1,500 80
症例2 指示量 1,400 60 700 45 1,000 60 1,200 60 1,400 65
摂取量 1,400 72 383 16 600 32 1,000 80 1,000 50
症例3 指示量 1,400 60 700 45 1,000 60 1,200 60 1,400 65
摂取量 未記録 550 35 1,000 50 未記録 1,650 85

指示量;栄養指導で提示した量

摂取量;実際に摂取していた量(聞き取りから算出した推定量)

図1.当院における腹腔鏡下スリーブ状胃切除後の総体重減少率の推移

TWL;total weight loss 総体重減少率(%)

実線(細);平均 ± 標準偏差(N = 205)

●;症例1  ▲;症例2  ■;症例3

症例1

30代男性,職業はシステムエンジニア.初診時身長172 cm,体重152.7 kg,BMI 51.6 kg/m2.高血圧(161/83 mmHg)を合併していた.術前は1,400 kcal,P 60 gで食事療法および降圧剤内服を行い,10カ月間で140.2 kgまで減量を達成,LSGを施行した.食事指示量,摂取量の経過を表に示す(表1).術後1,3,6カ月には体重はそれぞれ131.0,124.4,119.5 kgとなり,TWLは14.2,18.5,21.7%であった.本人は体重減少が緩やかであると実感し自主的にPTジムに入会,運動(週4回,1時間,レジスタンストレーニングのみ)を行った.3カ月間で約60万円を要した.食事についてトレーナーに1,500 kcal,P 135 g,エネルギー産生栄養素バランスであるprotein fat carbohydrate比(以下,PFC比と略)は36:20:44と極端な提案をされ,鶏肉・ブロッコリー・オクラ・ごはんを混ぜたものを頻回に摂取していた.また,設定目標に合わせるために炭水化物を和菓子で補うなど不適切な対応もなされていたため,あらためて当院にて1,500 kcal,P 70 g,PFC比 19:21:60と修正を図った.術後1年で103.2 kg,TWL 32.4%となり,PTは終了,自身で運動(週4回,時間不明,レジスタンストレーニング + 有酸素運動)を継続した.術後1年4カ月で89.6 kg,TWL 41.3%となった.術後1年7カ月より栄養指導は1,600 kcal,P 75 gへ変更,78.4 kg,TWL 48.7%となり,術後2年には72.8 kg,TWL 52.3%,BMI 24.6 kg/m2と劇的な減量を達成した.また,血圧は服薬をせずに正常化した.栄養障害,欠乏症等はみられていない.

症例2

30代女性,職業は看護師.初診時身長170 cm,体重146.0 kg,BMI 50.5 kg/m2.睡眠時無呼吸症候群が指摘され,持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure;以下,CPAPと略)が導入された.術前は1,400 kcal,P 60 gで食事療法を行った.職業的に食事療法の考え方は初回指導時から理解されていた.受診後に自主的にPTジムに入会,運動(週5回,30分,レジスタンストレーニングと有酸素運動1分ずつ交互に繰り返す)を行った.6カ月間で125.8 kgまで減量を達成し,LSGを施行した.食事指示量,摂取量の経過を表に示す(表1).術後1カ月で113.9 kg,TWL 22.0%,2カ月後で111.0 kg,TWL 24.0%,3カ月後で105.6 kg,TWL 27.7%まで減量した.この時期の食事はトレーナーの提案により蛋白質に偏った食材が中心で,炭水化物はごく少量,野菜摂取はほとんどない状況であった.当院の栄養指導で野菜を多く取り入れた内容への修正を提案した.6カ月後には95.4 kg,TWL 34.7%,1年後には86.0 kg,TWL 41.1%(摂取量1,200 kcal,P 60 g),1年6カ月後には80.6 kg,TWL 44.8%(摂取量1,100 kcal,P 70 g)にまで減量し,CPAPから離脱した.術後2年ではわずかに増加し82.7 kg,TWL 43.4%,BMI 28.6 kg/m2となった(摂取量1,100 kcal,P 60 g).栄養障害,欠乏症等はみられていない.

症例3

40代女性,職業は獣医師.当院の内分泌代謝内科に4年間通院した時点で専門外来を紹介受診された.初診時身長152 cm,体重86.3 kg,BMI 37.4 kg/m2.2型糖尿病,睡眠時無呼吸症候群を合併していた.血液所見は空腹時血糖213 mg/dL,HbA1c 7.9%,C-peptide 3.62 ng/mLで,メトホルミン酸塩酸塩錠500 mg,ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物錠5 mg,インスリン76単位が処方されていた.術後の糖尿病寛解予測の指標であるABCDスコアは5点であった.手術前に自発的にPTジムに入会,運動(週5回,レジスタンストレーニング30分,有酸素運動30分(心拍数120回/分),スタジオ運動30分)を開始した.トレーナーによる食事アドバイスがあるも油脂類を多く含む食材や芋類を頻回に摂取していた.当院では手術前は1,400 kcal,P 60 gで食事療法を提案した.食事指示量,摂取量の経過を表に示す(表1).LSGを施行し,術後1カ月で67.9 kg,TWL 21.3%となった.運動は術後早期から再開し,強度も段階的に術前と同程度まで戻した.術後2カ月で65.2 kg,TWL 24.4%となった.この時点でHbA1c 5.3%となり糖尿病治療薬,インスリンはすべて不要となった.術後3カ月で62.8 kg,TWL 27.2%,術後6カ月には58.1 kg,TWL 32.7%,BMI 25.1 kg/m2まで減量した.栄養障害,欠乏症等はみられていない.

考察

肥満症診療ガイドライン2022では,脂肪が過剰に蓄積した状態でBMI 35 kg/m2以上を“高度肥満”と定義し,肥満に関連する健康障害を合併する病態を“肥満症”と定義している.治療法は食事療法,運動療法,行動療法,薬物療法,外科療法が挙げられ,高度肥満症では集学的治療が必要となる.その中でも食事療法は基本であり,内臓脂肪の減少により健康障害の改善が期待できるが,そのためには個別化した指導が推奨されている.外科療法は体重減少を長期間維持し,健康障害の改善も良好,と推奨されている3).一方,減量・代謝改善手術に関するコンセンサスステートメントでは術前からの栄養介入は栄養状態の是正と適切な食習慣習得のために必要であり,術後は摂取量低下に伴う栄養素欠乏を防ぎ,中長期的な食事摂取状況の悪化にともなうリバウンド予防のために経過に合わせた栄養介入が推奨されている4).LSGのTWLは術後1年で平均20数%程度となり,その後に緩徐に上昇する傾向がみられ5,6),さらに症例によって効果は大きく異なるため,運動療法併用の効果も期待される.前述のガイドラインでは,運動療法は減量自体にはあまり効果的ではないものの,減量体重の維持に有用として推奨されている7).減量・代謝改善手術前後の運動療法に関するsystematic reviewでは体重減少,筋力,心肺持久力,生活の質に対して運動療法は有効と示されている8).当院においてLSGを実施した205例の平均TWLの推移と症例1,2,3の経過を比較すると症例1は,トレーニング導入後に顕著に減量しており,術前から導入していた症例2,3においても他症例と比べ良好な経過を辿っていて,トレーニングによって減量効果が高まった可能性が示唆される.しかし,PTの併用には以下の課題がある.第一は費用面である.経済的困窮者が少なくない高度肥満患者において高額な負担を標準とするのは現実的ではない.第二は不適切な食事内容を提案される可能性がある.3症例ともトレーナーからのアドバイスは減量効率のみに着目した内容であった.手術前後の栄養管理はその特性を十分に理解し,減量のみに偏ることなく栄養障害や欠乏症にも配慮した指導が必須である.PTを実施している患者の栄養指導では,トレーナーの提案する食事内容を確認する必要がある.第三は安全面である.高度肥満症患者は心肺機能が低下している可能性があり,運動器障害も発生しやすい.トレーナーから医学的に危険な運動を提案される懸念がある.現行の保険診療では肥満症治療において運動療法の算定が認められていない.そのため運動指導を医療として提供することは現実には難しく,あくまで患者の自主性に委ねられている.前述のコンセンサスでも減量・代謝改善手術実施の施設要件として運動指導が行えることが挙げられている9)にもかかわらず,保険診療では行えないという矛盾がある.医学的に安全性と有効性が担保された理学療法を加えることで,さらに減量効果が増強されることを示すために,今後は根拠となるデータを集積していく必要がある.

結論

減量・代謝改善手術において,適切な栄養指導に加えてPTによる積極的な運動を併用することでより効果が高まり,劇的な減量を達成し得ることを報告した.

本論文の内容は「症例報告を含む医学論文および学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」を遵守し,患者からそれぞれ同意を得ている.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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