2024 年 6 巻 1 号 p. 67-68
2023年5月のある日,JSPENからのメール配信でこのプロジェクトのことを知ったが,大きな学会であるため恐らく多数の応募があり,また以前実験研究助成金をいただいたため諦めていた.しかし,上司から応募を勧めていただき,「ダメ元」の思いで応募してみることにした.そのため,この「2023年度未来研究プロジェクト海外学会参加費助成」受賞の連絡をいただいたときは,研究を続けてきたことが上司だけでなく,第三者からも認められたと思い本当に嬉しかった.
そもそも私のこの約9年にもおよぶ金属アレルギーに関する研究は,職場の当時の部長(医師であり,神戸大学大学院保健学研究科の教授を兼務,私の指導教官となった恩師である),副部長(管理栄養士)との面談が始まりであった.その面談で今後の展望を聞かれ,「私もいつか先輩管理栄養士の方々のように業務を行いながらも,大学院で研究を学びたいと思っています.」と意向を伝えたところ,部長から「それなら今年受験してはどうですか.まずは研究テーマをいくつか見せてください.」と言われた.しかし,その当時自分が主体となって研究を行ったことはなかったので,日頃興味を持っていた内容をまとめたところ,縁あって皮膚科の先生方のご指導もあり,介入研究を行うこととなった.ただ,当初は栄養指導による介入を行い,データを解析すれば,効果的な指導方法に辿りつけると考え,研究費のことなど全く念頭にはなかった.そのため,尿中の金属濃度の測定は分析の特殊性から思いのほか高額であり,費用獲得についての知識が全くない私は行き詰まり,指導教官や研究にご協力いただいた先生方にご相談したところ,大変快くご指導いただいた.そのおかげで,科研費はもとより,いくつか助成金などの応募を行うことができた.しかしそれでもなお不足が生じ,途方に暮れそうになったとき指導教官自ら研究費を集めてくださった.教官の温かいご支援が身に染みると同時に,「研究には費用が必要である!」ということが,私の研究における一つの大きな学びであった.
今回ESPENのポスター発表では,口頭説明の準備が必要であった.私は海外発表を決意したものの,英語が苦手であるため,翻訳サイトの発音機能を利用し,スピーチの練習を行い,また,想定されるQ & Aも準備して行った.しかし,実際にはそれがほとんど役に立たなかった.というのも,会場では様々な国の研究者が,私の研究を初めて目にし,そのとき感じた疑問や意見,感想を話された.私も研究者として英語で対等に議論できるようになりたいという想いが非常に強まり,「来年もぜひ発表したい!」という思いに駆られた.
私は以前からアレルギー性疾患に興味を持っていた.そして,大学院受験に際し,指導教官の計らいで皮膚科の先生とお話させていただく機会があり,その先生は他の皮膚科の先生方にアレルギーに関する研究をしてみたい管理栄養士がいることを伝えてくださった.すると,ある先生から,全身型金属アレルギー患者についてより効果的な指導方法を検討していただきたいというお話をいただいた.そこから私は全身型金属アレルギーについて調べてみることになったが,情報が非常に少なく,かつ古かった.そこでぜひ調査してみたいと思ったのが,この研究に取り組むに至ったきっかけである.
金属に対する接触皮膚炎のある患者において,アレルゲン(抗原)が経口・吸入・注射など,非経皮的なルートで生体に侵入することによって全身に皮膚炎を生じたものは全身型金属アレルギーと呼ばれ1),その患者数について詳細な報告は見られないものの,アレルギー患者および金属アレルギー患者は増加していることから,増加が予想される.そして,その症状を改善するには,食物に含まれるアレルゲンとなる金属を制限することが有効であるとされている.例えば,患者数の多いニッケルについては,豆類,種実類や未精製の穀類などに多く含まれるが,その指導は一般的に医師により簡便に行われることが多く,該当する食品の制限が中心であり,栄養の偏りが危惧される.そこで,管理栄養士による指導が行われれば,栄養のバランスを崩さず,効率的に金属の摂取を制限できるのではないかと思われた.研究では管理栄養士による指導介入が金属摂取量の減少や皮膚炎の症状改善に効果的であるかを明らかにすることを目的に行った2).また,それを金属摂取量や症状からだけではなく尿中金属濃度からも明らかにしようとしている.研究において,栄養バランスを改善するとともに,効率的に金属摂取量を減少させ,それに引き続き皮膚炎症状を改善することができれば,全身型金属アレルギー患者のQuality of life(QOL)の向上が期待でき,今後の治療,特に食事療法の指標として大きな礎となる.また,それが将来的にアレルギー治療の発展に繋がれば幸いである.
現在はまだ一部解析途中の状態であるが,今回このような貴重な機会をいただいたJSPENの先生方,また日々ご指導・ご協力いただいている先生方や関係者の方々に深く感謝し,引き続き研究活動に励んでいきたいと思う.