2024 年 6 巻 1 号 p. 69-70
2023年度未来研究プロジェクト海外学会参加費助成に採択頂き,2023年9月11日~14日にかけてフランス・リヨンで開催された第38回欧州臨床栄養代謝学会(The European Society for Clinical Nutrition and Metabolism;以下,ESPENと略)学術集会においてポスター発表をする機会を得た.会場のリヨンはパリ南東部に位置するフランス第二の都市で食通の街としても知られている.ESPEN congressへの参加は7年ぶりで,自らの発表はもちろんのこと,世界最先端の臨床栄養の議論を直接見聞き出来るまたとない機会となった.30°Cを超える暑さの中,会場は103カ国から3,700名を超える参加者で賑わっていた(写真1,2).筆者は3日目のポスターセッションで高齢リハビリテーション(以下,リハと略)患者に対する栄養評価に関するスコーピングレビューの成果を発表した.高齢リハ患者に対する最適な栄養評価法の確立を目指し,既存のツールの妥当性検証やリハ患者に特化した新たなツールの開発に向けた研究テーマの第一段階として実施したものである.ESPENにおける栄養評価の領域の発表は栄養スクリーニングとGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)基準に関するテーマが圧倒的に多かったが,栄養専門職としては「職人技」である栄養アセスメントの検証・発展も重要であると考える.今回の貴重な経験を励みに今後も研究を継続したい.以下,研究の概要を示す.
低栄養は高齢者に普遍的にみられ,特に心身機能障害や日常生活動作(activities of daily living;ADL)が低下しているリハ病院入院患者では約30%が低栄養とされる.低栄養と障害は相互関連にあると考えられ(malnutrition-disability cycle)身体障害を有する高齢者に対しては妥当な方法で栄養アセスメントを行い,適切な栄養療法を早期に実施すべきである.
一方,リハ患者に用いられる栄養評価法には①妥当性や信頼性の検証が不十分②身体障害そのものの関連要素を含むツールが少なくない③低栄養の予後予測能を評価した論文の多くが横断研究であり因果関係が不明確,といった課題があり,最適な手法が確立していない.そこで今回,高齢リハ患者における栄養評価法の特徴,妥当性,予後予測能の特徴を網羅するためスコーピングレビューを実施した.
Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-analysis Extension for Scoping Reviews(PRISMA-ScR)を含む確立された手法に基づき,独立した研究者2名により網羅的文献検索を実施した.1980年1月~2022年5月に発表された英語論文をMEDLINEおよびCINAHLを用いて検索し,平均年齢65歳以上の高齢リハ患者を対象とし,少なくとも現体重と体重減少の2項目を含む手法で栄養状態を評価した論文を適格対象とした.栄養評価法は特性に基づき①栄養スクリーニングツール②栄養アセスメントツール③低栄養診断基準,の3種に分類した.それぞれのツールの構成要素,妥当性・信頼性,および関連アウトカムの情報を抽出し,マッピングを行った.
抽出された297論文のうち,52論文(コホート研究27件,横断研究19件,その他の研究6件)が適格基準に該当した.うち29件で4種の栄養スクリーニングツール,14件で3種の栄養アセスメントツール,20件で3種の低栄養診断基準が用いられていた.これら10種のツールのうち,4つは身体機能,2つは認知機能の評価を含んでいた.
妥当性・信頼性に関しては5つの研究で評価されていたが,栄養アセスメントツールの妥当性に関して検証した研究は妥当性,信頼性とも1件ずつであった.予後予測能に関してはコホート研究に絞って情報を抽出した.低栄養と死亡率,再入院,身体能力,体重との関連について各2編,ADLとの関連について12編,その他の指標との関連について16編で調査されていた.一方,栄養アセスメントツールの予後予測能に関して検証した研究はSubjective Global Assessment(SGA)を用いてADLとの関連を検証した1件のみであった.
高齢リハ患者に対しては,栄養スクリーニングツール,栄養アセスメントツール,低栄養診断を含む様々な手法により栄養評価が行われていた.評価結果は「低栄養リスク」「低栄養」「低栄養の診断」などツールに準じて適切に表現する必要があると考えられた.これらのうち低栄養評価のsemi-gold standardとされる栄養アセスメントツールに関しては,妥当性・信頼性・予後予測能とも検証が不十分であり,今後さらなる検証が重要である.またいずれのアセスメントツールも心身機能関連項目を含んでおり,高齢リハ患者に特化した栄養アセスメントツールを開発する意義は大きいと考えられた.
本発表に際し助成頂きました日本臨床栄養代謝学会未来研究プロジェクトワーキンググループ長鍋谷圭宏先生,比企直樹理事長ならびに関係各位に厚く御礼申し上げます.本研究の一部は日本学術振興会科学研究費若手研究(No. 22K17827)の助成を受けて実施したものです.