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Online ISSN : 2434-4966
臨床経験
がん化学療法患者における個別対応食の有効性の検討
青木 はるか遠藤 美織産本 陽平
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2024 年 6 巻 2 号 p. 91-96

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Abstract

【目的】食欲不振は化学療法患者に高頻度の副作用で,治療意欲やquality of life(QOL)の低下と関連する.今回,個別対応食(味彩食)のがん支持療法としての効果を検討した.

【対象と方法】2022年4月~2023年3月に味彩食を利用した化学療法中の患者を対象とし,背景,味彩食導入理由,食事摂取量等を後方視的に調査した.摂取量は介入前後でエネルギー,蛋白質量を評価し前後比較した.統計学的分析はEZRを用い,Wilcoxon符号付順位和検定で検討し有意水準はp < 0.05とした.

【結果】対象20名[年齢66 ± 9.7歳,男性12名,女性8名],導入理由は食欲不振が最多であった.味彩食を提供した夕食ではエネルギー量(kcal)が中央値[interquartile range(IQR)]で94[50–309]から332[221–412](p < 0.001),蛋白質量(g)が4.0[2.0–12.2]から11.5[9.8–20.8](p < 0.001)へ増加した.

【結論】個別対応食はがん化学療法中の食欲不振に対し摂取栄養量の増加に寄与する可能性が示唆された.

目的

がん化学療法中の患者は嘔吐,味覚障害,口腔粘膜炎,食欲不振などの有害事象を発症し低栄養に陥ることが多く,早期の栄養介入が重要である1).実際に食事カウンセリングは化学療法を受ける患者の栄養摂取量やquality of life(以下,QOLと略)の改善,体重減少の予防効果が期待され,その実施を強く推奨されている2).加えて,患者の状態や有害事象に応じ食事内容を個別に調整する試みが各施設で実施されており,当院も味彩食(あじさいしょく)という名称で個別対応食を導入している.個別対応食は緩和ケア領域では,食事摂取量の増加に寄与することが示されており3),追加診療加算の対象にもなっているが,がん化学療法中の患者に対しての効果は明らかでない.今回我々は,がん化学療法の食思不振に対する味彩食の効果について後方視的に検討したため報告する.

対象および方法

2022年4月から2023年3月の1年間で当院入院中に味彩食を利用した,がん化学療法中の患者を対象とした(ただし入院初日から味彩食を利用した場合や,食欲不振の出現前に味彩食を利用した患者は除外した).

1. 味彩食の内容および使用方法

味彩食は2013年に当院入院中の化学療法を実施している患者にアンケート調査を実施し,患者の声を反映して作られた当院独自の個別対応食である.レストラン方式で31種類のメニューから自由に選択できる(図1).またメラミン食器のにおいが気になる患者も多いため器は陶器に変える等,食環境面においても配慮している.味彩食導入から提供までの流れを図2に示す.味彩食対象患者は化学療法・放射線療法などのがん治療を実施している入院患者と緩和ケアチームが介入している入院患者である.当院では緩和ケアチームに管理栄養士5名を配置し,病棟担当管理栄養士と連携を図っている.看護師または管理栄養士が患者の自覚症状と食事摂取状況をモニタリングし,食事摂取率が約70%以下となった患者を味彩食の対象とする.味彩食のオーダー締め切りは,午前11時でその日の夕食時に(朝食,昼食は非対応)提供する.なお味彩食提供中は管理栄養士が毎日患者を訪問し,その日の嗜好に合わせたメニューを聞き取り適宜変更している.当院の給食管理業務は直営で,加熱調理した料理を冷却,盛り付けし,食事提供前に器ごと再加熱するニュークックチルシステムを採用している.また一部では加熱調理後の食材を凍結し,提供時に再加熱するクックフリーズを活用し作業の効率化を図っている.

図1.味彩食のメニュー表
図2.味彩食導入から提供までの流れ

食事摂取量は,味彩食導入前日と味彩食導入後(導入日と翌日の二日分の平均値)の食事摂取エネルギー量,摂取蛋白質量,栄養充足率を比較した.必要栄養量の算出方法は必要エネルギー量(kcal) = 基礎代謝量(Harris–Benedictの式) × 活動係数1.2 × ストレス係数1.2とし,必要蛋白質量(g) = 標準体重(kg) × 1.0 gで算出した4).また栄養充足率は1日の摂取量を必要栄養量で除して算出した.身体状況の変化としては,入院時と退院時の体重を比較し,血液検査値は血清アルブミン(Alb),総リンパ球数(TLC),C反応性蛋白(CRP)の3項目について味彩食導入前,退院時で比較した.また患者が好んで選択したメニューや味彩食の平均使用日数についても検討した.以上の項目は電子カルテおよび給食管理システムを使って後方視的に調査した.統計学的分析はEZRを用い,味彩食導入前後の体重,血液検査値と食事摂取量の変化をWilcoxon符号付順位和検定で検討し,有意水準はp < 0.05とした.

本研究は,竹田綜合病院倫理審査委員会の承認を受けて行った(承認番号2023-104E).

結果

対象患者の背景および治療レジメンを表1に示す.年齢66 ± 9.7歳,性別は男性12名,女性が8名であり,入院時の身体状況は身長167.7 ± 10.0 cm,体重60.1 ± 12.7 kg,body mass index(BMI)23.1 ± 4.1 kg/m2であった.味彩食を導入した患者の治療レジメンでは催吐リスクの高いシスプラチンの使用が30.0%と多かった.肺がん患者が最も多く,がん取扱規約による病期分類ではstage IVの進行がん患者が14名(70.0%)だった.味彩食を導入した理由(重複あり)は食欲不振が17名(85%)と最多で,次いで悪心5名(25%)だった(表2).味彩食導入前後の摂取エネルギー量(kcal)は中央値[interquartile range(IQR)]で夕食94[50–309]から332[221–412](p < 0.001),1日量429[292–987]から831[631–1,115](p = 0.024)と有意に増加し(図3),摂取蛋白質量(g)も夕食4.0[2.0–12.2]から11.5[9.8–20.8](p < 0.001),1日量19.1[13.4–36.2]から35.4[27.8–47.1](p = 0.003)と増加していた(図4).栄養充足率(%)は味彩食導入前後でエネルギーが30.8[17.1–51.1]から50.5[32.3–64.6](p = 0.036),蛋白質が35.4[23.0–57.6]から59.6[45.7–84.2](p = 0.002)と有意に改善していた.介入前後で体重(kg)が測定されていたのは8名で,67.7[60.7–70.2]から63.4[59.7–67.5](p = 0.19)と減少傾向であったが有意差なく,血液検査値も導入前後で有意な変化は認めなかった(表3).メニューの中では季節のフルーツ,サンドイッチ,麺類が好んで選択されており(図5),味彩食の提供日数は平均13.3日であった.

表1.患者背景

年齢(歳) 66 ± 9.7
身体状況
 身長(cm) 167.7 ± 10.0
 体重(kg) 60.1 ± 12.7
 BMI(kg/m2 23.1 ± 4.1
性別(人)
 男性 12
 女性 8
がん種(人)
 肺がん 9
 膀胱がん 3
 腎盂がん 4
 乳がん 1
 膵がん 1
 舌がん 1
 子宮頸がん 1
病期分類(人)
 stage I 1
 stage II 1
 stage III 4
 stage IV 14
診療科/化学療法レジメン(人)
 〈消化器科〉
  Paclitaxel胸腔内注入療法 1
  nab-Paclitaxel + Gemcitabine療法 1
 〈呼吸器科〉
  Carboplatin + Etoposide療法 3
  Carboplatin + Paclitaxel + Pembrolizumab療法 1
  Cisplatin + Etoposide療法 1
  照射併用Docetaxel + Cisplatin療法 1
  Cisplatin + Pematraxed + Nivolumab + Ipilimumab療法 1
  Eribulin療法 1
  Gemcitabine療法 1
 〈婦人科〉
  照射併用Cisplatin療法 1
 〈耳鼻科〉
  照射併用Cisplatin療法 1
 〈泌尿器科〉
  Gemcitabina + Carboplatin療法 6
  S-1 + Cisplatin療法 1

表2.味彩食の導入理由

有害事象 (人) (%)
食欲不振 17 85.0
悪心 5 25.0
嘔吐 1 5.0
味覚異常 3 15.0
口腔粘膜炎 1 5.0
便秘 0 0.0
図3.摂取エネルギー量の変化

a:朝食 b:昼食 c:夕食 d:1日量

図4.摂取蛋白質量の変化

a:朝食 b:昼食 c:夕食 d:1日量

表3.血液検査値の変化

味彩食導入前 退院時 p
Alb(g/dL) 3.2[2.7–3.6] 2.9[2.8–3.5] 0.061
TLC(/μL) 1,045.4[726.4–1,798.0] 1,060.0[756.8–1,302.2] 0.23
CRP(mg/dL) 0.94[0.2–6.1] 2.14[0.3–3.4] 0.92

Wilcoxon符号付順位和検定

図5.人気のメニュー上位10品

考察

本研究から味彩食の提供が食欲不振を伴う化学療法中患者の食事摂取量増加に寄与し,がん支持療法として重要な役割を担っている可能性が示唆された.化学療法中の患者は嘔気,嘔吐や食欲不振などの副作用により食事摂取量が減少しやすく,結果として栄養不良に陥るリスクが高い.がん患者にとって食事を取れるということはQOLの維持および向上,治療意欲の増加,さらにはがん治療の完遂率を高めるとされ5),患者の状態に合わせた食事対応は重要である.また食事提供量の適正化は見た目の圧迫感や,患者の心理的負担感を軽減させ,「食べきれた」という患者の達成感にも繋がるため重要な視点である1).実際に集計はできていないが「自分の食べやすい内容や量に調整してもらえて食欲が出た」や「次の治療時にも味彩食を利用したい」など患者からは満足度の高い評価が聞かれた.

さらに今回の研究では味彩食を提供している夕食以外に,1日量でもエネルギー,蛋白質ともに摂取量の増加が認められており,味彩食の提供が患者の食べる意欲を賦活し,全体の食事摂取増加に寄与した可能性がある.加えて味彩食の導入後は管理栄養士が毎日患者を訪問し,患者の症状に応じ迅速に食事内容を調整できるため,このような管理栄養士の介入強化も全体の摂取量増加に繋がった要因と考える.

実際に味彩食で選択されたメニューではフルーツやサンドイッチ,麺類の人気が高かった.これは化学療法の副作用の影響で,においが少なく喉ごしが良い食品,調理法が好まれたためと考えられる6).人気メニューでは炭水化物主体のメニューが上位を占めていたが,既報でも同様の結果が得られており,少量でもエネルギー量の豊富なものを摂取したいという患者の思いが背景にあると推測される7)

最後に今後の展望であるが,現在味彩食はマンパワーの問題から夕食のみの提供となっている.食事提供数の制限が緩和され夕食以外でも提供可能となれば,より一層がん患者の支持療法としての有効性が発揮できると期待される.提供を拡大するには,調理や盛り付けに要する時間確保や調理師の増員が必要である8).今回の結果をもとに実現可能な給食システムの構築を目指すとともに,患者の声をメニューに反映し改良を重ねていきたい.また近年,化学療法は外来移行が進み,外来化学療法室における管理栄養士の専門性が重要視されている.当院は外来化学療法室に専属の管理栄養士を配置しており,今後は味彩食のレシピ集を作成し外来栄養指導へ活用していきたい.

本研究の限界として対象者が少なく,統計学的検出力が不十分である.また,食事の摂取率は看護師が目測で10段階評価しており,実際の摂取エネルギー量を正確に把握できていない可能性や,栄養補助食品を付加しているケースも多く,その摂取量については記載がなく評価ができていない.さらに化学療法による有害事象の出現により食事摂取量が急激に低下することを考慮し,導入前日と導入後2日分で比較したため,日間変動による測定誤差の影響が否定できない.加えて介入後に管理栄養士による頻回の患者訪問が実施されており,味彩食以外にも食事内容を調整していることや,食欲不振が確認された時点で食事療法以外の支持療法も開始されているため,今回の結果はこれらの交絡因子の関与が否定できない.今後は体制を整備し対象者を増やした適切なデザインの研究により,味彩食の効果を検証する必要がある.

結論

がん化学療法患者の食欲不振に対する味彩食の効果を報告した.管理栄養士を中心とする多職種介入のもと,食事摂取量が低下したタイミングで遅滞なく味彩食を導入することは,食事摂取量の増加に寄与する可能性が示唆された.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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