学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
臨床経験
乳がん関連上肢リンパ浮腫患者における体脂肪量と浮腫の関連
伊丹 優貴子片岡 明美榎田 滋穂中屋 恵梨香高木 久美松下 亜由子川名 加織斎野 容子井田 智熊谷 厚志
著者情報
キーワード: リンパ浮腫, 乳がん, 肥満
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2024 年 6 巻 3 号 p. 133-138

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Abstract

背景:乳がん関連上肢リンパ浮腫において,減量は浮腫を改善するが体脂肪量減少と浮腫改善の関連は明らかではない.

対象・方法:2016年6月~2018年12月に栄養指導を実施した乳がん関連上肢リンパ浮腫患者.体脂肪量変化と浮腫改善効果の関連を後方視的に検討した.

結果:対象27名の指導後Body mass index(kg/m2)中央値(範囲)は27.6(23.5–38.9)であり,指導開始前の28.5(23.4–43.2)と比較して有意に減少した(P < 0.001).患側細胞外水分比は0.388(0.372–0.422)であり,指導開始前の0.390(0.378–0.421)と比較して減少傾向が見られた(P = 0.211).浮腫減少良好群の健側体脂肪量変化は–0.20(–1.35~+0.19)kg,不良群のそれは–0.01(–0.96~+0.57)kgであった(P = 0.049).

結語:栄養指導による減量はリンパ浮腫を改善した.改善度合いは病期などによる個人差があるため,患側の浮腫測定だけではなく,健側の脂肪量測定が適切な栄養指導の評価指標になり得る.

緒言

乳がんには手術,薬物,放射線を用いた集学的治療が有効であるが,これらに続いて上肢のリンパ浮腫をきたすことがある.リンパ浮腫は腋窩リンパ節郭清や放射線治療,ドセタキセルの使用などに伴う後遺症としてリンパ管内に回収されなかった蛋白を含んだ体液が間質に貯留した病態である1).一旦発症すると進行性の慢性状態となり,治癒は困難であることから,乳がんサバイバーの苦悩の原因となる.軽度であれば日常生活への影響は少ないが,未発症患者と比べ発症患者は浮腫による身体的および抑うつ症状などの精神的苦痛が増し2),Quality of life(以下,QOLと略)の低下をきたす3).このため,リンパ浮腫発症の予防と発症後の増悪回避が重要である.

肥満は乳がん関連上肢リンパ浮腫の危険因子であり4,5),減量により浮腫が改善すると報告されている6,7).リンパ浮腫治療ガイドラインにおいても,体重管理指導は浮腫による上肢の体積増加を抑制し浮腫を改善することがエビデンスグレード“Probable(ほぼ確定)”と記載されている8).以上より,当院では,2016年から管理栄養士が院内の多職種リンパケアチームに加わり,リンパ浮腫患者への栄養指導を行っている.

著者の知る限り,本邦におけるリンパ浮腫患者に対する管理栄養士の介入報告は現在までない.また,海外においても減量による浮腫改善と体脂肪量変化を検討した報告はなく,浮腫と体脂肪量の関連は明らかではない.そこで,今回,我々は減量栄養指導を施行した乳がん関連上肢リンパ浮腫患者における体脂肪量の変化と浮腫改善の関連を検討した.

対象と方法

1. 対象

2016年6月から2018年12月に,がん研究会有明病院のリンパケア室を受診し,Body mass index(以下,BMIと略)25 kg/m2以上もしくは体脂肪率28%以上のために減量栄養指導を行った乳がん関連上肢リンパ浮腫患者を後方視的に調査した.このうち,リンパケア室初診時の国際リンパ学会病期分類I期以下(表11),観察期間中にリンパ浮腫に対して外科治療を行った患者,蜂窩織炎を発症した患者,他がんに対して治療を行った患者,ドセタキセル使用中の患者,術後放射線治療中の患者,解析に必要な臨床情報が得られない患者を除外した.

表1.国際リンパ学会の病期分類

病期 病期分類
0期 リンパ液輸送が障害されているが,浮腫が明らかでない潜在性または無症候性の病態.
I期 比較的蛋白成分が多い組織間液が貯留しているが,まだ初期であり,四肢を挙げることにより軽減する.圧痕がみられることもある.
II期 四肢の挙上だけではほとんど組織の腫脹が改善しなくなり,圧痕がはっきりする.
II期後期 組織の線維化がみられ,圧痕がみられなくなる.
III期 圧痕がみられないリンパ液うっ滞性象皮病のほか,アカントーシス(表皮肥厚),脂肪沈着などの皮膚変化がみられるようになる.

リンパ浮腫診療ガイドライン(2018年度版)1)

2. 方法

① 栄養指導

肥満症診療ガイドラインを参考に,目標エネルギー量(kcal)は25–27 kcal × 標準体重(kg),減量目標は–3%/6カ月と設定した9).指導内容は食事摂取状況(24時間思い出し法)の調査,目標エネルギー量の提示,行動変容ステージモデルの段階に合わせた栄養指導,目標の設定,活動量の調査,体組成の確認であった.指導の間隔は規定せず,患者の希望や他の診察予定にあわせて行った.

② リンパ浮腫の評価

栄養指導開始6カ月後の肘窩関節より5 cm末梢側の患側前腕周径の変化により浮腫改善を評価した.25パーセンタイル値をカットオフ値とし,減少良好・不良の2群に分けた.

③ 調査・測定項目

治療歴(術式,腋窩リンパ節郭清の有無,術後放射線治療,ホルモン治療,過去のドセタキセル治療),臨床所見(年齢,性別,再発の有無,身長,体重,BMI,体脂肪量,体脂肪率,細胞外水分比,患側前腕周径),リンパ浮腫治療内容(病期分類,リンパケア室受診回数,栄養指導回数,リンパ浮腫発症から栄養指導開始までの期間,リンパ浮腫発症からリンパケア室受診までの期間)を調査した.病期はリンパケア室初診時に評価した.体組成はリンパケア室受診時にInBody720(Biospace社製)にて測定した.

④ 検討項目

減量栄養指導開始6カ月後の臨床所見(患側前腕周径,細胞外水分比,体重,BMI,体脂肪率,体脂肪量)の変化をWilcoxonの符号付き順位検定を用い検討した.次に,浮腫の減少良好・不良群のリンパ浮腫治療内容(リンパケア室受診回数,栄養指導回数,栄養指導開始時の体重)と臨床所見(年齢,患側前腕周径,細胞外水分比,体重,BMI,体脂肪率,体脂肪量)を,Mann-WhitneyのU検定を用い,2群間で比較した.さらに,患側の体脂肪量増減のあり群・なし群間で,患側前腕周径変化をMann-WhitneyのU検定を用い比較した.また,患側,健側の体脂肪量変化と患側前腕周径変化の相関をSpearmanの順位相関係数で検討した.統計解析にはWindows Microsoft Excel 2010およびSAS Institute Japan株式会社JMP14を用い,有意水準はp < 0.05とした.なお,本研究は公益財団法人がん研究会倫理委員会の審査承認のもとに行われた(IRB番号 2019-GA-1153).

結果

当該期間に栄養指導を受けた患者は60名であった.このうち,除外対象は病期I期以下7名,期間中のリンパ浮腫外科治療8名,蜂窩織炎の発症4名,他がんの治療中4名,臨床情報の不足10名であり,対象患者は27名となった.ドセタキセル使用中,放射線治療中の患者はいなかった.

再発症例が3名(11%)含まれていたが全身状態は安定しており,減量栄養指導の適応ありと医師が判断した.浮腫発症の原因となり得る治療は,腋窩リンパ節郭清26名(96%),放射線治療歴19名(71%),過去のドセタキセル治療歴13名(48%)であった.栄養指導回数の中央値(範囲)は3(2–5)回であった(表2).

表2.患者背景 中央値(範囲)

因子 症例数(n = 27)
性別(女性) 27(100%)
年齢(歳) 59(41–81)
再発(無/有) 24/3(89%/11%)
術式(全乳房切除/乳腺円状部分切除) 23/4(85%/15%)
腋窩リンパ節郭清(無/有) 1/26(4%/96%)
リンパ浮腫病期(II期/II期後期/III期) 25/2/0(93%/7%/0%)
リンパケア室受診(回数) 3(2–16)
栄養指導(回数) 3(2–5)
リンパ浮腫発症~栄養指導開始(月) 12(0.5–215)
術後放射線治療歴(無/切除後胸壁照射/温存後全乳房照射) 8/15/4(30%/56%/15%)
ホルモン治療歴(無/治療中/終了) 4/17/6(15%/63%/22%)
ドセタキセル治療歴(無/有) 14/13(52%/48%)

栄養指導後,体重,BMI,全身体脂肪量が有意に減少した.浮腫改善の指標となる患側前腕周径に有意な変化は認めなかったものの患側細胞外水分比には減少傾向が見られた.減量目標は12名(44%)で達成された(表3).

表3.減量栄養指導開始時と6カ月後の身体測定値の比較 中央値(範囲)

因子 栄養指導開始時 栄養指導開始6カ月後 P
患側前腕周径(cm) 27(22.2–33) 26.6(22.3–35) 0.549
細胞外水分比 全身 0.390(0.379–0.406) 0.390(0.380–0.405) 0.339
健側 0.383(0.374–0.390) 0.381(0.375–0.390) 0.229
患側 0.390(0.378–0.421) 0.388(0.372–0.422) 0.211
体重(kg) 69.5(55–103.9) 65.2(52.7–93.6) 0.001*
BMI(kg/m2 28.5(23.4–43.2) 27.6(23.5–38.9) <0.001*
体脂肪率(%) 38(22.9–50.7) 37(27.1–48.6) 0.339
体脂肪量(kg) 全身 25.5(15.1–52.7) 23.8(15.8–45.5) 0.016*
健側 1.9(0.9–5.6) 1.7(0.9–4.3) 0.1
患側 1.8(0.9–5.6) 1.7(1.0–4.3) 0.199

Wilcoxonの符号付き順位検定

患側前腕周径変化の25パーセンタイル値は–0.6 cmであり,集団の中の上位25パーセンタイルを減少良好群と定義し,これを浮腫改善のカットオフ値とした(図1).減少良好群は8名,不良群は19名であった.2群間の比較では,体重,減量目標達成の有無(75%対31%,P = 0.035),健側体脂肪量の変化(–0.20 kg対–0.01 kg,P = 0.049)に有意差を認めた.患側細胞外水分比,BMI,体脂肪率,体脂肪量,患側体脂肪量の減少率は減少良好群で大きい傾向があった.また,リンパケア室受診回数や栄養指導回数は両群間で有意差を認めなかった(表4).

図1.患側前腕周径変化
表4.リンパ浮腫の改善の有無と身体的因子および介入回数の比較 中央値(範囲)

因子 浮腫減少良好群 浮腫減少不良群 P
n = 8 n = 19
年齢(歳) 56(41–81) 61(45–77) 0.873
リンパ浮腫病期(IIa/IIb/III) 7/1/0(87%/12%/0%) 18/1/0(95%/5%/0%) 0.529
リンパケア室受診(回数) 4(2–12) 3(2–16) 0.782
リンパ浮腫発症 ~栄養指導開始(月) 14(2–77) 10.8(0.5–215) 0.252
栄養指導(回数) 3(3–5) 4(2–5) 0.31
栄養指導開始時の体重(kg) 68.7(55–103.9) 69.5(62.7–74.6) 0.915
栄養指導開始時のBMI(kg/m2 28.4(23.4–43.2) 28.7(25.2–31.4) 0.831
患側前腕周径(cm) –1.25(–2.8~–0.6) 0.2(–0.4~2) 0.001*
細胞外水分比 全身 0(–0.007~0.005) –0.001(–0.005~0.009) 0.893
健側 –0.002(–0.009~0.01) 0(–0.008~0.006) 0.915
患側 –0.003(–0.02~0.004) 0(–0.011~0.01) 0.092
体重(kg) –3.6(–14.6~0.2) –1.6(–10.9~5.1) 0.043*
体重変化率(%) –5.5(–18.3~0.3) –2.2(–14.8~6.9) 0.046*
–3%目標達成(有/無) 6/2(75%/25%) 6/13(31%/69%) 0.035*
BMI(kg/m2 –1.5(–6.2~0.2) –0.6(–4.4~1.9) 0.062
体脂肪率(%) –1.9(–8.5~2.6) 0.1(–10.3~11.1) 0.094
体脂肪量(kg) 全身 –2.5(–11.6~0.6) –0.7(–10.7~5.9) 0.084
健側 –0.2(–1.35~0.19) –0.01(–0.96~0.57) 0.049*
患側 –0.11(–1.31~0.13) –0.04(–1.17~0.61) 0.242

※患側前腕周径,細胞外水分比,体重,BMI,体脂肪率,体脂肪量は変化量を示す.

Mann–Whitney U検定

χ二乗検定

さらに,カットオフ値を0とし患側の体脂肪量増減のあり群,なし群間で患側前腕周径変化を比較したが有意差を認めなかった.(表5)一方,患側体脂肪量の変化と患側前腕周径変化に相関はみられなかったが(P = 0.054)健側体脂肪量の変化と患側前腕周径変化に相関がみられた(P = 0.013).(図23

表5.患側体脂肪量増減の有無と患側前腕周径変化の比較 中央値(範囲)

因子 体脂肪減少あり群 体脂肪減少なし群 P
n = 16 n = 11
患側前腕周径の変化(cm) –0.2(–2.8~1.6) 0.1(–1.8~2.0) 0.400

Mann–Whitney U検定

図2.患側前腕周径変化と患側体脂肪量変化の相関
図3.患側前腕周径変化と健側体脂肪量変化の相関

考察

乳がん関連上肢リンパ浮腫患者に対する減量栄養指導により,BMIおよび体脂肪量減少効果が認められた.また,健側上肢の体脂肪量減少と浮腫の改善に関連が見られた.

乳がん患者では,診断時より肥満度が上昇すると再発,乳がん死亡,全死亡リスクが高いことが知られている10).つまり,浮腫改善を目的としない場合でも,乳がん患者にとって体重コントロールは重要である.

リンパ浮腫治療ガイドラインでは,浮腫改善が得られる具体的な減量目標値の記載はない.英国における先行研究ではBMI –1.3 ± 1.1 kg/m2(平均 ± 標準偏差)で浮腫が改善したと報告されている6).本研究では減少良好群のBMI変化量は中央値(範囲)–1.5(–6.2~0.2)kg/m2とほぼ同様の結果であった.しかし,先行研究はBMI 33 ± 6 kg/m2と肥満度の高い患者を対象とし,本研究の28.4(23.4–43.2)kg/m2を上回っており,浮腫の程度も異なっていたと考える.また,BMIが高いほど減量による浮腫改善効果が期待されると考察されている.よって,海外とは食生活や肥満度の大きく異なる日本人における浮腫改善に必要な減量目標は,より大きな規模の研究で検討する必要がある.

肥満がリンパ浮腫を増悪させるメカニズムとしては,脂肪細胞がリンパ管を圧迫してリンパ流を障害することが考えられている11).本研究では減少良好群において,健側体脂肪量が有意に減少していたものの,患側体脂肪量には変化がみられなかった(表4).しかし,病期が進み長期化すると脂肪組織の繊維化がおこり1),減量しても浮腫の改善が十分に得られない可能性がある.つまり,患側において体脂肪量が減少しにくい組織変化が局所的におこっていたと考えられる.対象患者の浮腫発症から栄養指導開始までの期間は0.5–215カ月であり,一部患者においてリンパケア室初診から栄養指導開始までに病期II期後期やIII期に進んでいた可能性がある.

これらを踏まえ,肥満や体重増加が見られる乳がん患者においては再発予防を含め,食生活改善と体重増加防止を目的とした栄養指導を浮腫発症前の早期から実施することが望ましい.当院では乳がん患者の入院病棟に専従の管理栄養士を配置し,入院栄養管理体制が開始となった.すべての乳がん患者に周術期から関わる体制が構築されつつある.今後の乳がん患者におけるQOLや予後の改善に影響するか期待される.

本研究の制約は,単一施設での後方視的研究であり少数例での解析となったことと,浮腫による苦痛改善の指標としてのQOL評価および栄養指導開始時の浮腫の病期分類が行われていないことである.

以上より,日本人における,浮腫改善に繋がる減量目標量の設定と,それを達成するための効果的な減量栄養指導の導入が今後の課題である.

結論

栄養指導による減量はリンパ浮腫を改善した.改善度合いは病期などによる個人差があるため,患側の浮腫測定だけではなく,健側の脂肪量測定が適切な栄養指導の評価指標になり得る.

謝辞

本研究に関して,多大なるご協力を頂いたがん研究会有明病院乳腺センターの大野真司先生,上野貴之先生をはじめとする諸先生方,検診センター検診部部長・リンパケア室長の宇津木久仁子先生,NPO法人リンパカフェの田端 聡氏,松尾千穂氏に深謝致します.

 

本論文に関する利益相反なし

引用文献
 
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