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Online ISSN : 2434-4966
研究報告
アナモレリン導入後の早期改善効果と患者予後との関連
神田 美里遠藤 美織産本 陽平
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2024 年 6 巻 3 号 p. 155-160

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Abstract

【目的】アナモレリン導入後の早期改善効果と患者予後との関連を調査する.

【方法】2021年7月1日~2023年6月30日にがん悪液質と診断され,アナモレリンが導入された消化器がん患者を調査した.初回評価時に体重増加および食欲不振の改善を得た患者:早期改善群と,その他:非改善群に分け,患者背景,継続投与の有無,予後を比較検討した.

【結果】対象は65名(早期改善群12名,非改善群53名),早期改善群は導入前6カ月の体重減少率が大きく,全例アナモレリンを12週継続できていた.3カ月死亡は早期改善群0% vs非改善群32.1%で(P = 0.027),6カ月死亡は16.7% vs 52.8%(P = 0.028)と早期改善群で低値だった.

【結語】アナモレリンの早期改善効果は,以降の継続投与や患者予後に影響することが示唆された.早期改善に関連する患者因子は未だ不明点が多く,更なる検討が望まれる.

目的

がん悪液質は,通常の栄養サポートでは完全に回復できず,進行性の機能障害に至る骨格筋量の減少を特徴とする多因性の症候群1)と定義され,がん患者の60~80%に発生する2).体重減少,食欲不振や倦怠感などのQuality of Life(QOL)を低下させる症状と関連し,化学療法の効果減弱,副作用や治療中断率の増加,生存率の低下など様々な負の影響をもたらす2).アナモレリン塩酸塩(以下,アナモレリンと略)は経口のグレリン受容体作用薬で,中枢神経を介した食欲増進作用に加え,成長ホルモンの分泌促進により骨格筋の合成促進作用を有する3).本邦では2021年1月に保険収載され,臨床現場で広く用いられている4,5)が,アナモレリンが有効である患者因子は未だ不明点が多い.添付文書では導入後早期に体重増加や食欲不振の改善が乏しい場合,効能が期待できないとし,原則投与の中止が推奨されており6),導入後早期の効果発現が重要となる.

今回我々は,消化器がん患者におけるアナモレリン導入後早期の体重増加および食欲不振の改善を評価し,早期改善と関連する患者背景因子や早期改善が患者予後に与える影響を検討した.

対象および方法

対象は2021年7月1日~2023年6月30日の期間に当院外科でアナモレリンが新規処方された消化器がん(胃がん,大腸がん,膵がん)悪液質患者とした.がん悪液質の診断にはEuropean Palliative Care Research Collaborativeによる定義を用い①過去6カ月間の体重減少>5%②Body Mass Index(以下,BMIと略)<20,体重減少>2%③サルコペニア,体重減少>2%でいずれかに該当した患者とした.アナモレリン導入前には管理栄養士による栄養指導を開始しており,外来受診日に食事摂取状況の聴取,食事内容やOral Nutrition Supplementsの提案・処方を実施した.またアナモレリンの適応は添付文書の記載に準拠するとともに,ECOG-Performance Status(以下,PSと略)≥3,アナモレリン投与禁忌(心不全や心筋梗塞の既往,Child-Pugh分類B以上の肝機能障害を有する患者,薬剤過敏症など)に該当する患者は適応外とした.

電子カルテによる後方視的調査とし,調査項目は患者背景としてアナモレリン導入時の年齢,性別,身長,体重,BMI,がん種,取り扱い規約に基づく臨床病期79),PS,CT画像での胸水または腹水貯留の有無,利尿剤内服の有無,診断から処方までの日数,初回の化学療法からアナモレリン導入までの日数,アナモレリン導入時の化学療法レジメン数,血液検査値(Total Protein,Albumin,C-Reactive Protein,Hemoglobin,Total Lymphocyte Count)を評価した.なお胸腹水はアナモレリンの導入日,もしくはその前後で最も近い日に撮像されたCT画像で評価した.栄養評価はGlobal Leadership Initiative on Malnutritionスコア,Bioelectrical Impedance Analysis(以下,BIAと略)による体成分分析(Lean Body Mass,Skeletal Muscle Mass Index,位相角,Extracellular Water/Total Body Water)を評価した.食欲不振はFunctional Assessment of Anorexia/Cachexia Therapy(以下,FAACTと略)のスコアを分析し,身体機能評価として握力値(非利き手),歩行速度を評価した.

アナモレリン導入後2週間,または3週間目(投与14~21日後)に導入前と比較し体重およびFAACTの両方で改善が得られた患者群(以下,早期改善群)とその他の患者(以下,非改善群)に分類し,上記の項目を比較検討した.体重およびFAACTの改善はそれぞれの値,スコアの上昇と定義し,不変であった場合は改善なしとした.さらに両群でのアナモレリンの12週間継続投与の有無,3カ月および6カ月死亡率についても検討した.

統計学的分析はSigmaPlot14.0を用い,P < 0.05を統計学的に有意差ありとした.

本研究はヘルシンキ宣言に基づき計画し,竹田綜合病院倫理審査員会の承認を得て実施した(承認番号2023-164E).

結果

対象患者は65名(年齢70.8 ± 8.1歳,男性41名,女性24名),早期改善群:12名,非改善群:53名であった.早期改善群の12名は初回評価時点で浮腫の新規出現,増悪を認めず,また非改善群の内訳は初回評価時に体重,FAACTスコアのいずれか,または両方で改善が見られなかった患者28名と初回評価前にすでに内服が中断となっていた患者25名であった.患者背景ではアナモレリン導入前6カ月以内の体重減少率(%)が早期改善群で有意に大きく(P = 0.019),年齢,性別,身長,体重,BMI,がん種,臨床病期,PS,診断からアナモレリン導入までの日数は両群に有意差はなかった.過去にがん化学療法を実施されていた患者は62名(95.4%)で,初回化学療法からの日数は両群に差はなかった(表1).またアナモレリン導入時に化学療法を継続中であった患者は59名(90.8%)で,治療レジメン数は両群で差を認めなかった(表2).Total Proteinが早期改善群で有意に低値であったが(P = 0.030),その他の血液検査値,栄養評価項目,体成分分析のいずれの項目も差は認められなかった(表35).また握力が低値であった患者(男性<28kg,女性<18kg)は早期改善群81.8%,非改善群69.5%であり(P = 0.71),歩行速度が低値(<1.0m/sec)であった患者は早期改善群55.5%,非改善群50%に認めたが,両群に差はなかった.アナモレリン導入後初回評価時の体重変化(kg)は中央値[Interquartile Range(IQR)]で早期改善群1.8[1.1,2.1],非改善群–0.1[–0.9,2.0](P = 0.020),FAACTのスコア変化は早期改善群3.5[2.8,5.3],非改善群0[0,2.5](P < 0.001)であった.アナモレリンの12週間継続が可能であった患者は早期改善群100%に対し,非改善群では24.5%であった(P < 0.001).早期改善群に導入後3カ月以内の死亡はなく,非改善群と比較し6カ月死亡率も有意に低値であった(P = 0.028)(表6).非改善群のうち40名(75.5%)の患者が12週間以内に処方中断となっていたが,中断理由はアナモレリン関連の有害事象が21名(高血糖5名,悪心9名,肝機能障害3名,QRS幅延長2名,その他3名)と最多で,次いでがんの進行11名,効果不十分6名,死亡2名であった.

表1.アナモレリン導入時の患者背景

全体
n = 65
早期改善群
n = 12
非改善群
n = 53
P value
年齢,mean ± SD 70.8 ± 8.1 69.0 ± 7.6 71.2 ± 8.2 P = 0.78*
性別,n(%) P = 1**
 男性 41(63.1) 8(66.7) 33(62.3)
 女性 24(36.9) 4(33.3) 20(37.7)
身長(cm),mean ± SD 159.2 ± 8.8 160.0 ± 8.7 159.0 ± 9.0 P = 0.91*
体重(kg),mean ± SD 50.9 ± 10.4 48.6 ± 8.3 51.4 ± 10.9 P = 0.50*
BMI(kg/m2),mean ± SD 20.0 ± 3.2 19.0 ± 3.1 20.2 ± 3.2 P = 0.39*
がん種,n(%) P = 0.80***
 胃がん 17(26.2) 3(25) 14(26.4)
 大腸がん 33(50.8) 7(58.3) 26(49.1)
 膵がん 15(23.1) 2(16.7) 13(24.5)
病期,n(%) P = 0.38**
 III 10(15.4) 3(25) 7(13.2)
 IV 55(84.6) 9(75) 46(86.8)
Performance Status,n(%) P = 0.95***
 0 22(33.8) 4(33.3) 18(34)
 1 36(55.4) 7(58.3) 29(54.7)
 2 7(10.8) 1(8.3) 6(11.3)
過去6カ月以内の体重減少率(%),median[IQR] 8.6[7.2,12.4] 11[9.3,15.8] 8.6[6.1,12.4] P = 0.019****
胸水又は腹水貯留,n(%) 23(35.4) 3(25) 20(37.7) P = 0.52**
利尿剤の内服,n(%) 26(40) 4(33.3) 22(41.5) P = 0.75**
診断からアナモレリン導入までの日数(日),median[IQR] 343[149,598] 256.5[179.2,420.5] 354[133.5,602] P = 0.29****
全体
n = 62
早期改善群
n = 12
非改善群
n = 50
P value
初回の化学療法からアナモレリン導入までの日数(日),median[IQR] 330.5[181,583] 282.3[151.6,343.8] 377.5[229.3,634.5] P = 0.11****

* Student’s t-test, ** Fisher Exact Test, *** Chi-square test, **** Mann-Whitney U-test

表2.化学療法レジメン数と早期改善の関連

全体
n = 15
早期改善群
n = 3
非改善群
n = 12
P value
導入時の化学療法レジメン数 
胃がん,n(%)
P = 0.13*
 1 7 7(58.3)
 2 4 2(66.7) 2(16.7)
 3 4 1(33.3) 3(25)
n = 30 n = 6 n = 24
大腸がん,n(%) P = 0.32*
 1 11 4(66.7) 7(29.2)
 2 8 2(33.3) 6(25)
 3 6 6(25)
 4 3 3(12.5)
 5 2 2(8.3)
n = 14 n = 2 n = 12
膵がん,n(%) P = 0.054*
 1 9 9(75)
 2 4 2(100) 2(16.7)
 3 1 1(8.3)

* Chi-square test

表3.血液検査値

全体
n = 65
早期改善群
n = 12
非改善群
n = 53
P value
TP(g/dL),mean ± SD 6.2 ± 0.9 5.8 ± 0.5 6.3 ± 0.7 P = 0.030*
Alb(g/dL),mean ± SD 3.2 ± 0.5 3.2 ± 0.5 3.2 ± 0.5 P = 0.84*
CRP(mg/dL),median[IQR] 0.9[0.2,2.4] 0.8[0.1,4.7] 1.0[0.3,2.3] P = 0.74**
Hb(g/dL),mean ± SD 10.7 ± 1.8 10.0 ± 1.3 11.8 ± 1.7 P = 0.14*
TLC(/μL),median[IQR] 1221[939.6,1755] 1100[707,1416] 1267[945.3,1903.5] P = 0.16**

TP: Total Protein, CRP: C-reactive Protein, Hb: Hemoglobin, TLC: Total Lymphocyte Count

* Student’s t-test, ** Mann-Whitney U-test

表4.栄養状態の評価

全体
n = 65
早期改善群
n = 12
非改善群
n = 53
P value
GLIM,n(%) P = 0.87*
 栄養状態良好 4(6.2) 4(7.5)
 中等度の低栄養 45(69.2) 8(66.7) 37(69.8)
 重度の低栄養 16(24.6) 4(33.3) 12(22.6)
PNI,mean ± SD 40 ± 6.0 38 ± 7.1 40 ± 5.8 P = 0.48**
FAACTスコア 11.0 ± 4.9 9.7 ± 3.6 11.4 ± 4.7 P = 0.37**

GLIM: Global Leadership Initiative on Malnutrition

PNI: Prognostic Nutritional Index

FAACT: Functional Assessment of Anorexia/Cachexia Therapy (5-items Anorexia Symptoms Scale)

* Chi-square test, ** Student’s t-test

表5.体成分分析

全体
n = 65
早期改善群
n = 12
非改善群
n = 53
P value
LBM(kg),median[IQR] 42.4[34.6,48.2] 40.7[33.9,46.0] 42.7[34.9,48.8] P = 0.30*
SMI(kg/m2),median[IQR] 7.1[6.0,7.5] 6.3[5.6,7.1] 6.9[5.5,7.8] P = 0.20*
男性<7.0,女性<5.7,n(%) 31(47.7) 7(58.3) 24(45.3) P = 0.53**
位相角(°),mean ± SD 4.1 ± 0.6 3.9 ± 0.9 4.2 ± 0.9 P = 0.60***
ECW/TBW,mean ± SD 0.402 ± 0.012 0.407 ± 0.013 0.401 ± 0.011 P = 0.19***

LBM: Lean Body Mass, SMI: Skeletal Muscle Mass Index, ECW/TBW: Extracellular Water/Total Body Water

* Mann-Whitney U-test, ** Fisher Exact Test, *** Student’s t-test

表6.アナモレリン継続投与の有無と患者転帰

全体
n = 65
早期改善群
n = 12
非改善群
n = 53
P value
アナモレリン12週投与あり,n(%) 25(38.5) 12(100) 13(24.5) P < 0.001*
3カ月死亡(導入後),n(%) 17(26.2) 17(32.1) P = 0.027*
6カ月死亡(導入後),n(%) 30(46.2) 2(16.7) 28(52.8) P = 0.028*

* Fisher Exact Test

考察

アナモレリンは効果としてLean Body Massや体重の増加,FAACTのスコア上昇が投与開始3週間という比較的早期に発現し,投与中12週間にわたり効果が維持されることが証明されている10,11).一方で効果が得られない患者も一定数存在し,投与開始後3週間を目安に体重増加や食欲不振の改善がない場合は,不応と判断し投与中止が推奨されている12).導入後早期の改善の有無が患者予後に関連することは想像に難くないが,早期改善に関連する患者因子や,その患者転帰に関しては不明な点も多い.本研究の結果からアナモレリン内服による早期の体重増加,食欲増進効果は導入前6カ月以内の体重減少率が大きな患者ほど得やすく,早期改善の有無は12週間の継続投与や3カ月,6カ月死亡率にも関連することが示された.

アナモレリンの適応は添付文書では体重が過去6カ月間に5%以上減少し,かつ食欲不振を伴うがん悪液質患者であることが条件の一つとなっている13).この基準はアナモレリン投与による治療効果の最大化,さらには不必要な副作用のリスク軽減を目的としていると想定されるが,実際にアナモレリン投与を検討される患者は原疾患の進行による腹水貯留や浮腫の存在があり,体重変化の情報のみで正確な悪液質の進行度を評価することは困難である.今回,早期改善群で過去6カ月間の体重減少率が大きかったが,非改善群で3カ月死亡率が32.1%と高いことを考慮すると,非改善群には導入時すでに不応性の悪液質に陥っていた患者が多く含まれていた可能性がある.不応性悪液質の患者ではコントロール不能な胸腹水の貯留の存在や,エネルギー消費量の減少が報告されており14),これらが体重減少率の差に一部影響したと考えられる.不応性悪液質の患者では,アナモレリンによる改善効果が乏しいことは既知の事実で15),非改善群の患者の多くがその恩恵を十分に享受できなかったものと推察される.またアナモレリン導入時のTotal Protein値が早期改善群で有意に低値となったが,他の栄養指標で差がないことを考慮すると加齢や浮腫の影響が複合的に作用し,体内水分のバランス異常をきたすことで,結果に影響した可能性が考えられる.今回の検討では悪液質の進行度を除き,アナモレリンによる早期改善の予測因子は同定できず,さらなる検討が必要である.

また本研究で早期改善群に3カ月以内の死亡がなく,6カ月死亡率も非改善群と比較し低値となったことは,アナモレリン投与後の早期改善の有無が,患者予後や悪液質の進行度予測に有用となる可能性がある.進行がん患者の正確な予後予測は治療方針や患者の意思決定に重要な要素であり,様々なツールを用い評価がされている16).不応性悪液質の患者は,予測予後が3カ月未満と定義され,治療の主体は心理的ケアを含めた緩和治療となるが,実際には悪液質進行度の見極めは難しい1).今後更なる検討が必要だが,アナモレリンによる早期改善効果が得られた患者は導入時に不応性悪液質に陥っておらず,かつアナモレリンの長期間継続により,多くで3カ月以上の生存を期待できる可能性がある.

本研究の限界として単施設の後方視的研究であり,対象が少なく統計学的検出力が不十分である可能性がある.また治療レジメンによって患者の受診時期が異なるため初回評価時期にばらつきがあり,患者の振り分けに一部影響した可能性がある.さらに導入時の筋肉量評価はBIAで実施したが,進行がん患者特有の浮腫の影響を完全に除外できず測定値が不確実な可能性がある.しかし本研究はアナモレリンの臨床利用において,導入後早期の改善効果が患者予後にもたらす影響についての重要な情報を提供するものであり,今後のがん悪液質の治療戦略の発展に寄与することが期待される.

結論

アナモレリン投与後の早期の食欲改善,体重増加効果は12週間の継続投与や導入後3カ月,6カ月の死亡率に関連し,患者予後に影響する可能性が示唆された.早期改善に関連する患者因子の同定には至らなかったが,既報の通り不応性悪液質患者では早期改善効果が得難く,時期を逸しない慎重な介入が重要と考えられる.今後更なる検証が必要であるが,今回の結果はがん悪液質治療の新たな方向性を示す可能性がある.

 

本論文に関する利益相反なし

引用文献
 
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